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転生したら幽閉王子でした~これどうすんの?  作者: サクラ近衛将監
第三章 貴族として

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3―29 北部の異変対応 その十

 ヤーファリ族の集落を発って四日目、ある意味でモナルクの首都にも相当するラドックに僕らは到達した。

 タシュケル・ブントさんと一緒に並んで騎馬での旅だったが、恐らくはあまり負担を掛けないように色々と配慮してくれたのだろう。


 休憩を交えながらであったので、長時間の騎馬行(きばこう)も左程苦にはならなかったし、周囲には二十名もの戦士たちが、槍を持って警護していたので、魔物も近寄っては来なかった。

 草原の魔物で稀に強いものが出ることもあるとは、妖精sに教えられてはいたが、そのような危険な魔物は出なかった。


 その他の魔物で注意すべきは、地面の中に巣を造るスズメバチの類なのだろうが、こいつが毒を持っているようで、刺されると大の大人が一時間以上も身体が麻痺するという。

 ただ単に麻痺するだけならともかく、この蜂は肉食で、麻痺している間に寄って集(たか)って獲物の肉を食うらしいので、生きたまま食べられてしまうという恐ろしい魔物ではある。


 自分達で食べるだけではなく肉団子にして巣へ持ち帰るというから、一匹だけであってもかなりの肉が食べられてしまうらしい。

 このためにモナルクの人達は大概の人が結界魔法を使えるようだ。


 モナルクで結界魔法を使えないのは、幼児ぐらいだと妖精sが教えてくれた。

 モナルクの人々は、この青黒い蜂を『レヴァ』とよんでいるようだ。


 そもそも、体長が20センチ近くにもなる巨大な蜂だが、群れを成す習性が有るので、一匹に襲われるといつの間にか百匹にもなっているから、襲われて麻痺した者は。傍に守り手がいなければほぼ死ぬそうである。

 彼らは炎に弱いらしいので、仮に出会うと炎の魔術で退治もしくは撃退することが多いらしい。


 今回の旅路では、レヴァには遭遇しなかったけれど、概ねモナルクの領域でも北部山地の裾野に多く生息するそうで、草原の切れた荒れ地に好んで巣を造るらしい。

 概ね、巣から半径20キロほどが彼らのテリトリーになるようだ。


 ラドックに至るまでの間に、いくつかの集落を遠くに見かけたが、当該集落には近寄らずに通り過ぎており、野営も集落の無い場所でするのが普通の様である。

 僕はいつもの幕舎(テント)を出して寝泊まりしているが、初日にタシュケル・ブントがやって来て中を見ても良いかというので、隠す必要も無かったから見せたよ。


 一つにはカナロクにも興味を持ってもらいたいからこそ、ハーゲン王国でも極めて珍しい拡張空間を有する幕舎を見せたのだ。

 内部が非常に大きな空間になっている特殊なテントだから、明らかに彼がびっくりしていたな。


 彼らの家族単位の住居である移動式の幕舎(モナルクではバルネオと称している)は、大きなもので直径が8mほど(約50㎡)のものもあるが、その面積を遥かに超える(約240㎡超)もの内部は流石に驚きものだろう。

 外見上は直径が5m未満で高さが2.5mぐらいの円形の幕舎であり、彼らのバルネオに比べても左程大きいものでは無いんだ。


 実際にはその12倍以上の容積が有る幕舎は、流石にヤーファリ族の部族長でも見たことが無いようだね。

 おまけに僕の寝室は、王侯貴族の寝室を模して造られており、結構贅沢な造りになっているんだ。


 こいつは、僕が暇に飽かせて造った自前のものだけれど、冷暖房完備でバストイレまでついているから、旅には欠かせない代物になっている。

 これまで準備はしていたものの、今回の一件があるまで使い処が無かったからね。


 ブルームランドに行く際は、秘密の旅でもない限り、貴族用の旅荘に泊まるのが貴族の慣習であり、ある意味で見栄を張りたがる貴族というものは、野営なんぞは戦時でもない限りしないものなんだ。

 騎士達に貸した幕舎の方は、こっちのミニチュア版(内部の面積約80㎡)だが、流石に僕の寝室のように贅沢な趣向は凝(こ)らしていないよ。


 食事は、モナルク独自の携帯食が有るようだけれど、僕の方も、新鮮な肉野菜を使った料理も出そうと思えば出せるのだけれど、同じく今回のために携帯食を作って有ったのでそれを披露してあげたよ。

 この料理は我が家のシェフに造らせて開発したもので、お湯を沸かして入れてやると短時間で食べられる優れものだし、味が良いのが特徴だ。


 通常の領軍騎士団の行軍訓練等に際しては、この携帯食を携行させるようにしている。

 軽くて、余り嵩張らないのが特徴だね。


 タシュケル・ブントにこの携帯食を食べさせたら、非常に気に入ったらしく、夕食時には必ず僕の幕舎に来るようになったな。

 何だか餌付け(えづけ)をしているような気分になって来るヨ。


 旅路のエピソードはこれぐらいにして、ラドックの集落はヤーファリ族の集落に比べるとかなり大きいが、これが一国の首都と呼べるかというとちょっと期待外れになるだろうね。

 大きな建物も無く、彼らがバルネオと呼ぶ幕舎が多いだけの集落である。


 中でもひときわ大きな幕舎が、ある意味で中央政庁に当たるらしく、日中の場合、盟主は通常そこにいるらしい。

 僕らはラドックの周囲を囲む簡易な馬防柵にいくつかある有る門(ゲート)で、門衛に誰何され、タシュケル・ブントが門衛に説明して、騎乗のままラドックに入域した。


 普通の場合、城門を潜り抜ける場合は下馬するのが常識のような気がするけれど、モナルクは騎馬民族でもあるから、人馬一体のものとして考えるようだね。

 但し、だからと言って住居にまで馬を引き込むようなことはしていない。


 馬置き場というか、前世の駐車場に近い感覚で至る所に馬をつないで置ける場所が有るのが、彼らの集落の特徴でもあるようだ。

 モナルクの子供たちは、歩けるようになると同時に騎乗の練習を始めるらしい。


 だから、馬について詳しいし、大事にしている。

 僕が乗っている馬は、ヤーファリ族からの借りものだが、おとなしいし、とても辛抱強いね。


 妖精sが通訳をしてくれるんで、この馬『サウル』ともすっかり仲良しになったよ。

 モナルクならば当然にできることではあるが、カナロクが短期間で馬と意思を通わせることができようとは思っても居なかったとタシュケル・ブントが後に語ってくれた。


 僕らは、そのまま中央政庁と思しき大きなテントへ行き、馬を降りた後は、タシュケル・ブントの案内で、盟主に会いに行く。

 中央政庁のような場所の内部は、ある意味で議場にもなっているらしく、多くの人々が絨毯を敷いた床の上に複数の円陣を作って座り、話し合いをしているようだ。


 妖精sの言うことを要約すると、前世の国会の委員会的なものが、この大きな幕舎の中でそれぞれに別れて、協議をしているらしい。

 盟主は、幕舎のほぼ中央に有って、その前に比較的に長い列ができているところを見ると、面会者が多いようだ。


 ある意味では一国の元首に相当するのだろうから、各部族からの陳情や報告などが毎日かなりあるのだろう。

 見ていると、その列の進みは意外と早い。


 一人当たり二、三分で、長い時でも十分を超えること滅多にはなさそうだ。

 逆に言うと、余り盟主を独占しちゃいけないということだろうから、僕も簡潔に要望を伝えなければならないということになるよね。


 然しながら、この日は列に並んだところで終わってしまった。

 日没の少し前に盟主への陳情や報告は終わりを告げるのだそうだ。


 その代わりに、明日の順番となる番号札を手渡された。

 それによると僕たちの面会は17番目になるらしい。


 仮に16人(組?)まで3分で終わるとすれば、およそ50分弱で僕たちの順番になる。

 翌早朝は概ね夜明けから一刻ほど後の時間帯、すなわち前世で言えば午前8時前後から盟主との会見が始められるようだ。


 従って、僕らはその順番に遅れない様に、ここに来る必要がある。

 時間的には、午前8時半頃にはここに来て居なけれがいけないだろうね。


 因みに、ラドックを含めてモナルクの集落に宿に類するものは存在しない。

 自分たちのバルネオを来客用の広場に立てるか、それとも知り合いの家に泊めてもらうかしか方法が無いらしい。


 僕らは人数が多いから当然に来客用の広場に行って、そこで幕舎を広げることになる。

 因みにモナルクの集落には必ずと言ってよいほど泉が有る。


 モナルクが住むこの高原地帯には川が無いので、砂漠のオアシスのようなものなのである。

 その代わり豊富な地下水脈が有って、場所により泉となって湧き出ているところがあるが、概ね地表から5mほども階段を降りないと水汲み場にはたどり着けないようだね。


 従って、つるべ井戸でもあればもっと楽なのだが、そういう文化は育たたなかったのかもしれず、女子供の家事仕事の中で『水汲み』というのは相当のウェイトを占めている重要な労働になるようだ。

 ふむ・・・、ここでならポンプを設置すれば役立つかもしれないな。


 そう思ってその夜の宿題で、僕のテントで手押しポンプの見本を作成しておいたよ。

 素材は鉄とクロムの合金でステンレスを造り、弁の機構やピストンには皮革を使ってみた。


 金属部分は鋳鉄でも構わないんだが、モナルク族はどのような加工技術を持っているか定かでは無いので、取り敢えずモデルを作って構造が分かるようにしておけば、彼らが必要に応じて工夫をするだろうと思っている。

 明日の、友誼の交渉に際しては、あるいはこのポンプが良い切っ掛けになるかもしれない。


 一応、手持ちの素材から12セットまでは作っておいた。

 但し、現状の地下の泉に設置するとなれば、大規模な工事が必要となるかもしれない。


 むしろ、地盤がそれほど固くなければ、新たに井戸を掘る方が速いかもしれないな。

 その辺は、明日の会談の際に向こうの考えや意見も聞いてみるしか無いよな。


 考えにくいことだけれど、従来の伝統を重んじてこれまでの習慣を変えたくないという意見もあるかも知れないんだ。

 僕としては、できるだけ少ない労力で大きな成果を得られる方が良いと思うけれど、仮に地下水脈の水量が予想外に少なかったりすると、水質が悪くなったりとか、地盤沈下を引き起こしたりとかの予想外の問題が生じる可能性もある。


 急激な変化ではなく緩やかな変化であれば、何か異常が発生した時に是正もしやすいんだけれどね。

 この辺は、モナルク族の考え方次第のところもあり、僕からはそれを観察し、彼らの考えを尊重しながら、より良き提案をすることが友好への近道ではないだろうかと思っている。


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