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キズナ  作者: 鮎川りょう
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7

 何とか首に到達したとき、急に一平の動きがとまった。

 タカが目を覚ましたのだ。膝に傷を負っていたが人間の姿になって起き上がり、一平の股間を思いきり蹴飛ばしていた。

 いくら非力でも、この場所であれば誰であっても息ができないほど苦しむ。一平は股間を押さえて飛び跳ね、その後うずくまった。

  

 吾作も反動で振り落とされる。アスファルトを転げまわりながら二人を垣間見た。

 タカがとどめをさせればいいが、これといった武器もない状態では先ほどの二の舞になるのがオチだろう。回復したら確実にやられる。

「どうする……」

 考えあぐねていたら、一平の落とした爆竹を見つけた。吾作の身体と同じぐらいの大きさの爆竹が路上に五本転がっていた。人間にしてみれば玩具でしかないが、小人なら巨大なダイナマイトだ。

  

 吾作は爆竹をかき集める。友を助けるにはこれしか打開策はないと思った。急いで腰袋から燐を取りだして、紐で胸に巻いた。そして燐を擦って火をつけ、タカに向かって叫んだ。

「俺を一平の目に押しつけろ!」

「そんな……あんた死んでしまうぞ」

 タカが迷いを見せる。

 しかし目の見える人間の目が、片目でも見えなくなれば戦意は喪失する。

「もう導火線に火がついているんだ。俺を無駄死にさせる気か!」

 逡巡すればするだけ無駄死にの確率が高くなる。タカが意を決して吾作をつかんだ。一平の目に押しつけた。

  

「何をしやがる」

 吾作を押しつけられ一平が足搔く。もう股間の痛みどころではない。タカの腹を殴り、何度も足で蹴飛ばした。それでもタカは、もう一方の腕を一平の頭に絡めて離さない。

「まだか、まだ爆発しないのかーー」

 発した吾作の言葉と共に、凄まじい炸裂音がした。一本が炸裂すると、続けざまに残りの四本が爆発した。

  

 赤い、すべてが赤く毒々しかった。けれどそれも一瞬だけで、意識が混濁するとその赤い視界も消えた。

 耳底に、わずかに爆発の残響が続く中、一平の喚き声が入り込む。たぶん今、吾作はタカの手のひらにつつまれているような気がする。温もりは感じるが、目をやられてしまったのか何も見えなかった。

 粉々になると思っていた吾作の腕も足も、わずかながらに感触がある。考えることができるのであれば頭も変わらずついているに違いない。おそらくダイナマイトと爆竹では火薬の量が違っていたのだろう。

  

 だが目は見えず、呼吸も上手くできない。

 たぶん大やけどを負って、身体のあちこちが損傷しているのだと思う。手で触ると至る所の肉が消え、直接骨に触れる。麻痺しているらしく痛みも全然感じない。少しの火薬でも、爆竹は小人を死に至らしめるには十分の破壊力だった。

  

 かすかに人の駈け寄る足音が聞こえる。常次の死体を見て、じきに警察官もやってくることだろう。血糊と指紋のべったりついた匕首が証拠になって、一平は逮捕されるはずだ。

 ならばと声を振り絞った。

「人間に見つかりたくない。鴉になって、俺をどこかへ連れて行ってくれないか」

  

 風を感じる。そして羽毛の温かさも。吾作は、ほとんど握力の消えた手でタカの背にしがみついていた。

「逮捕されたね」

 ぽつりとタカが言う。

 返答しようにも喉に血が逆流して、もう声が出なかった。

  

「どうして黙るんだ、頼むから、何か喋ってくれよ」

 タカが泣きながら首をまわしたのだろう、声が頭に響いた。吾作は喉に溜まった血を吐きだして返答した。

「お前こそ、怪我はないか」

「おいらのことなら心配ないよ。手を火傷しただけだからさ」

「最高だ、相棒……」

 心から思う。しかし、その言葉を最後に吾作は静かに口を閉じる。目を瞑った。

「よせ! おいらを置いて死なないでくれ」

 吾作の気配が小さくなるのを感じとったのかもしれない、タカが慟哭した。吾作は精一杯の感情を込めた。

(……ナオミを頼んだぞ)

  

 意識が薄れていく。そして、ふっと思う。これでよかったのかと。

 わからなかった。ただナオミとタカの憂いを取り除き、みんなの夢を消さなかった。

 ――夢より絆よ。しっかりして。

 遠くでナオミの声が聞こえた。キズナ、たぶんそれが家族を失い、ひねくれて生きてきた吾作の悟りなのだろう。心の中で返事をした。

 ああ、わかってる。少し眠るだけさ。

 

 

     了

 


拙い作品を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

書き終えて、もっと上手ければと後悔だけが募ります。

いつかまた、新しい作品でお会いできればと心から願っています。

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