第2話:異界とのエンゲージ
国の極秘実験、オペレーション・ヴォルテックスの暴走により暗闇に包まれた『0特区』、巨大台風が去り、夜が明けたとき、0特区の隊員達が見たもの、それはよく知る地球の青空とは違う、2つの太陽が存在する緑がかった空だった。そこが自分たちの住む世界ではないと理解した自衛隊は、0特区の外の世界へと偵察部隊を派遣、そこで遂にこの世界の現地人と接触する。
荒天の夜が明け、超巨大台風十五号が去った空は、昨日の様子がまるで嘘だったかのように静かだった。
しかし、そんな空とは対象的に『0特区』の基地内の様子は平穏ではなく、やれやれと胸を撫で下ろせるようなものではなかった。
「――チッ。宮田さん、そっちは繋がります?」
「こっちもダメだな、完全に圏外だ」
険しい顔でスマホを眺める宮田と二等陸曹の陣内の顔には、かすかに苛立ちの色が浮かんでいた。
「神崎二尉、台風の停電にしては長過ぎないですか?、基地の大型アンテナは無事なのに...」
「確かに変ね、何か情報を得ようにもスマホが使えないんじゃどうしようもないわね。――ん?、佐倉、外がなにか騒がしいわね」
外の騒然とした様子に気がついた神崎が、三等陸曹の佐倉を連れて外へと出る。そこでは、宮田や陣内と同じく電波が届かないことに困惑する者や腹を立てているもので溢れかえっていた。
しかし、その中でも特に目立ったのが、空を眺めたり、空を指差す者達だった。
「神崎二尉、あ、あれ...!」
周りと同じく空を見上げた佐倉の視線の先には、よく知る地球の青空ではない、2つの太陽を持つ少し緑がかった空が広がっていた。
その空は、ここが現実世界とは違う、全く別の未知の世界であることを証明していた。
困惑し、パニックに陥りそうになっていたその時、基地内の至る所に設置されたスピーカーから発せられたチャイムが二人を正気へ引き戻した。
ピンポンパンポン――。
「基地内の陸上自衛隊員へ通達、直ちに港へ停泊中の護衛艦『しなの』の甲板へ集結せよ、繰り返す、直ちに『しなの』の甲板へ集結せよ」
放送を聞いた島内の陸自隊員達が、一斉に『しなの』の甲板へと向かう、宮田や陣内も感情を殺し、迅速に行動を開始する。
『しなの』へと集結した隊員達を待っていたのは、0特区の総司令官、東郷陸将補だった。
「第101特別実験区総司令官の東郷だ、諸君、落ち着いて聞いてほしい、現在我が基地は未知の現象の渦中にあり、日本本国との連絡も完全に途絶した状況にある、基地周辺の安全が保証できない以上、現時刻を以て本島全域に『最高警戒態勢』を発令する。」
その言葉を聞いた瞬間、場の緊張感が一気に最高潮に達する、そして、その横に立っていた一等陸佐、田嶋が神崎に対し命令を下す。
「これより陸上自衛隊は、海自、空自と連携し、この未知の地の調査へと乗り出す。空自の偵察機からの情報で、この島の北西18kmの地点に大陸を確認した、よって、部隊を率いての偵察任務を命じる。尚、本基地の無線が機能しないため、現地で攻撃を受けた場合は、現場の判断で交戦を許可する。」
命令を受けた神崎は、鋭く芯のある声で「了解!」と答えた。
数時間後、神崎たちは海自の輸送艦『おおすみ』のウェルドックに居た、大型艦が安全に停泊できる場所が確認されていないため、LCAC《エアクッション型揚陸艇》による上陸を行うためだった。
「まさか初めての戦闘を行うかもしれない場所が異世界なんてね...」
「いいじゃないですか、速水二曹、僕は少しワクワクしてますよ」
LCACの貨物室に載せられた『LAV』《軽装甲機動車》の運転席に座る佐倉が、不安な様子を見せる後部座席の二等陸曹、速水に少し高揚した声で話しかける。
「だが佐倉、調子に乗ってると痛い目見るぞ?」
LAVの上部ハッチに載せられたミニミ機関銃を握る陣内が、上から少しニヤついた声で話す。
「ほらほら、そろそろ出発よ」
その会話を遮るように、隊長の神崎が声を上げる。
重厚なウェルドックの扉が開き、明るい外の光が差し込んでくる。
――キィィィィィィンッ……ゴォォォォォォォォッ!!!
巨大な二機のリフトファンが凄まじい轟音を上げ、偵察隊を載せたLCACが、輸送艦「おおすみ」を離れていく。
大陸が近づくに連れ、LAV内の緊張が高まっていく。深緑の迷彩服に包まれた五人の自衛隊員の顔は未知への恐怖は無く、ただ真っ直ぐ眼の前の大陸を見据えていた。
――キィィィィィィン……プシューーーー!
ガスタービンエンジンの絶叫が小さくなっていくとともに、巨大なエアクッションの空気が凄まじい勢いで抜けていく。
LCAC前部の巨大なランプドアが「ガシャーーーン!」と開き、ついに未知の地へと繋がる橋がかかった。
島へ上陸した直後、上部ターレットの陣内が周りを見渡し敵が居ないことを確認し、LAVが奥の森林へと動き出す。
「もっと地形の悪いところを想像してたんですが、意外と平坦な地ですね、まるで人工的に作られた道みたいだ」
佐倉の運転で、LAVはまるで道路のような、不自然に開けた森林の中の道を進んでいく。
「神崎二尉、あれは、ドラゴン、でしょうか?、本当にどこに来ちゃったんでしょう」
宮田が指さす先、少し離れた場所には、漫画やアニメで見た『ドラゴン』そのものが飛んでいた。
「ええ、この植物も見たことないわ、ねぇ宮田、何か嫌な予感がするわ...、各自警戒を怠らないで!」
「了解!」と声を上げ、各々が『20式小銃』を手にさらに周りへの警戒を強めた、その時だった
――シュンッ!
側面の森林の中から、一本の矢が凄まじい勢いで飛来し、上部ターレットの陣内の頬を掠めた。
「ウオッ!、敵襲!側面九時の方向!、林の奥からの狙撃だ!」
陣内が急いで身をかがめ車内へ叫んだ。次の瞬間、矢が飛んできた森林から、無骨な鉄の鎧に身を包み、剣と盾を持った『人間』とレンガのようなもので構成された体を持つ『ゴーレム』が多数姿を現す。
「何よあれ!、各員LAVの影へ、下車戦闘!」
「車両の右側、LAVを盾にしろ!」
偵察隊は素早い動きでLAVの外へと展開し、『20式小銃』を構える。
「何者だよあいつら!……グッ!」
LAVから上半身を出し、銃を構えた佐倉の肩に鋭い痛みが走り、苦悶の表情を浮かべる。
「佐倉!、速水!佐倉を後ろへ下げて止血しろ!、各員、状況開始!」
LAVの裏から突き出された20式小銃が凄まじい破裂音とともに一斉に火を吹く。3点バーストで放たれた『5.56mm』の弾丸が次々と敵を骸へと変え、LAV上部ターレットのミニミ機関銃がゴーレムを粉砕していく。
初めのうちは、数の有利からか余裕の表情を見せていた敵兵も、強力すぎる未知の武器により、次々と倒れていく仲間を見て次第に焦りの表情へと変わっていく。
――タタタン!タタタン!
「あいつらに銃弾は通用するみたいだな」
上部ターレットにて、陣内がそう呟きながらゴーレムをミニミ機関銃で撃破していく。
「撃ち方やめ!、速水、宮田、前方をクリアリングして!」
すべてのゴーレムが瓦礫へと変わったのを見て、残りの兵士たちが森林の奥へと逃げ出していく。それを確認した神崎が射撃を止めると、一気に森林に静寂が戻る。
「了解。速水、残敵掃討を急げ、物陰までしっかり確認しろよ」
「了解。……前方クリア。抵抗勢力、完全に沈黙」
素早い動きで敵が出てきたあたりの残敵掃討を行い、神崎へと報告する。
「佐倉、大丈夫か?」
「大丈夫です、陣内二曹... 見事に痛い目見ましたね、ははは」
佐倉の肩の矢は抜かれ、白いガーゼで止血されている。陣内からの問いかけに対し、佐倉は冗談交じりで返す。
「佐倉の傷は浅いところの筋肉で止まってたわ、運が良かったわね」
神崎がホッとしたような表情で二人に近づく、その一瞬の平穏を切り裂くように、後ろで周りを警戒していた宮田と速水が叫ぶ。
「隊長!上空十二時方向から未確認の大型飛行生物!急降下してきます!」
――バサッ!、ドスン!
宮田が叫んだ直後、停車するLAVと偵察隊の眼の前に、巨大な翼を羽ばたかせ、大地を揺らしながら見たままの『ドラゴン』が着陸する。
「各員、警戒態勢!いつでも撃てるようにしておいて!」
神崎がそう叫ぶのを待つこともなく、肩を負傷した佐倉以外の隊員がドラゴンに向け小銃を構える。
「貴様!何者だ!」
銃を構えた宮田が叫ぶ。その次の瞬間、翼を折りたたみ、首を下げたドラゴンの背中に、先程の敵のような無骨な装備ではなく、派手な模様の入った鎧に、宝石が埋め込まれたティアラ、そして緑色のロングヘアに、整った顔立ちの美しい女性騎士が跨っていた。
彼女は手綱を掴んだまま、鋭い視線で神崎達を見下ろしていた。同じく神崎達も小銃を向けたまま、お互いが見つめ合っていた。
少しの時間、静寂が続いた次の瞬間、その騎士が口を開いた――。
第2話です。プロローグと同じく誤字脱字のご指摘よろしくお願いします。




