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雫物語 Rewrite  作者: クロプリ
レンヴァル村の戦い
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反撃の翼 〜欺きの雷閃〜

「フェルグスさんよぁ! ヨトゥン軍最強と謳われるロキ軍の将軍ともあろう貴様がぁ、たかが人間如きに苦戦ですかぁ? なんとも、情けないなぁ……それとも貴様の親父の圧政から救い出した者たちが殺されるのはぁ、やはり心が痛むのですかぁ?」


 スリヴァルディの毒々しい笑みが、夜気を裂くようにフェルグスの胸に鋭く突き刺さる。

 高台の岩壁に立つその姿は、まるで舞台の上で観客を嘲弄する道化のようだった。


 血の匂いと土の湿り気が混じった風が、低くうなりを上げて二人の間を吹き抜けていく。


 だがフェルグスはその言葉を無視し、心を鋼で固めた。

 挑発に惑わされる時間はない。


 レンヴァル村……

 父の圧政に抗いアデストリアの乱に加わった者たちを、フェルグス自身が集め導いた先の村。


 真実を見極める大切さと、その正義を守るための力を与えてくれた母。

 自分の信じた道を貫くためにと与えてくれた、カラドボルグ。


 そんな村人たちと、母。

 ランカストがヨトゥンの将軍ユトムンダスを倒した戦いで失われた命の代わりに、生き残った人々が静かに村の発展を支えていた。


 この村にある全てが、フェルグスにとってかけがえのない命である。


 その事実を知ったスリヴァルディは、フェルグスの母と同志たちの命を天秤にかけ狡猾に揺さぶりをかけてきた。


 それでも、フェルグスは決意を固めている

 母も、村人たちも……共に救う。


 フードを被った謎の男の提案に乗り、迷いを断ち切った。

 フェルグスの瞳には、揺るぎない光が宿っている。


 これまでカラドボルグを伸ばし距離を保ちながら戦ってきたフェルグスだったが、今は違う。


 大地を力強く蹴りつけ、轟音と共にフードの男へと飛び込む。


 両手に握られたカラドボルグが、雷光を纏いながら上段から振り下ろされる。

 その一撃は空気を切り裂き、地面に細かな亀裂を生むほどの威力だった。


 夜の闇が青白い閃光に弾け、周囲の草木がざわめく。


 フードの男は、軽やかに動く。

 エアの剣を斜めに構え、カラドボルグの雷鳴のような一撃を軽々と受け流す。


 金属同士がぶつかる甲高い音が僅かに響き、火花が闇夜を一瞬照らす。

 熱を帯びた金属の匂いが、鼻を突いた。


「受け流されるのは、想定内だ! だが……これなら、どうだ!」


 フェルグスは叫びながら、唇に獰猛な笑みを浮かべる。


 その顔を見たフードの男は、軽く頷く。


 カラドボルグの剣先がエアの剣と重なり、フードの男の喉元を直線的に捉えた。

 刹那、カラドボルグが光の速さで伸びる。


 まるで意志を持った生き物のように、獲物を逃さぬ勢いで突き進む。


 至近距離からの閃光の如き一撃は、常人なら決して避けられぬはずだった。


 しかしフードの男は後方へ跳び、風の力を巧みに操る。

 エアの剣から放たれる柔らかな風が、フードの男の喉元とカラドボルグの剣先に空気のクッションを作り出していた。


 カラドボルグに突き刺されたフードの男が、岩壁に叩きつけられる為に飛ばされているように見えただろう。


 カラドボルグは加速していき、その剣先はスリヴァルディが立つ高台の岩壁へと突き進む。


 高速で伸びるカラドボルグは、フードの男を張り付かせたまま岩壁に激突した。

 土煙が立ち上り、岩が砕ける鈍い音が夜に響く。


「さすがは、フェルグスさんだぁ! 至近距離からの、カラドボルグの閃光の一撃たぁ! これなら、いくら風の野郎が強くても防ぐのは無理だなぁ!」


 スリヴァルディは勝利を確信し、冷酷な笑みを深めながらフェルグスの命を奪う策を脳裏に描き始める。


 難敵が一人減っただけでも、満足な成果だ。


 生き残った方も、体力は削られ満身創痍だろう。

 なにより、人質までいる。

 これでは、負ける方が難しい。


 スリヴァルディは、笑いを堪える事ができなかった。


 だからこそ、その瞬間……スリヴァルディは、致命的な見逃しをしてしまう。


 フードの男の瞳が、紅蓮の炎のように赤く輝いた事……


 赤き瞳の前では、カラドボルグの閃光のような一撃すらスローモーションのように映っている事……


 赤き瞳が輝いた時、炎の翼が出現した事……


 炎の翼が、羽ばたいた瞬間……一瞬にして、フードの男はカラドボルグの剣先から姿を消した。


 岩壁に激突したと思われた身体は、土煙が上がり始めた時にはスリヴァルディのいる高台に運ばれている。


 エアの剣が巻き起こした突風が、一瞬でフードの男を高台へと運んでいた。


 風が衣を翻し、炎の翼が夜空を焦がすように広がる。


 笑っているスリヴァルディの正面……その姿を視界に捉えた時には、鎌鼬のような斬撃が放たれる。


 鋭い風の刃が、フェルグスの母の喉に突きつけられていたスリヴァルディの剣を右腕ごと吹き飛ばす。


「な……なんだぁ?」


 スリヴァルディの声は驚愕に震え、血が地面を赤く染めた。


 右腕を失った痛みに顔を歪めながらも、スリヴァルディは体勢を立て直そうとする。


「遅い……」


 フードの男が、エアの剣を振った。

 風が唸りを上げ、スリヴァルディの身体を突風が襲う。


「ぐわぁっ! これが、狙いだったのかぁ! もう、容赦はいらねぇぁ! 眠っている村人たちを、皆殺しにしろやぁ!」


 スリヴァルディは転がりながら叫び、声を張り上げる。


 その叫びを掻き消すように、雷鳴が轟く。

 カラドボルグから迸る雷光が空を裂き、まるで天が怒りを放ったかのような轟音が辺りを支配した。


 フェルグスが剣を振り上げるたび、雷が地面を焦がし近くの木々が爆ぜる。

 焦げた木の匂いが、風に乗って広がった。


 スリヴァルディは、思わずフェルグスの方へ視線を向ける。


「フェルグスぁ! 貴様、ヨトゥンを裏切るつもりかぁ!」


「ふん、ヨトゥンを裏切るだと? 誰が、ヨトゥンに忠誠を誓っている? 私はロキ殿に従い、恩を返しているに過ぎん。そして私の守るべき人の事を、ロキ殿は理解されている。残念だが、貴公に情けをかけてやる理由はない。だが、貴公の相手は私ではない。不運であったな……」


 スリヴァルディの前に立ちはだかったのは、フェルグスではなくフードの男であった。


 静かな威圧感を漂わせ、フードの男は告げる。


「もはや、勝ち目はありませんよ。それでも、まだ戦いますか? 今ならまだ、助ける事も出来るかもしれません……」


 その言葉に、スリヴァルディの顔が怒りに歪む。


「たかが、人間如きがよぉぁ……フェルグスと互角に戦った程度で、勝ったつもりかぁ? 笑わせるなぁ!」


 いつの間にか、失ったはずの右腕が再生している。


 肉が蠢き、骨が繋がり、皮膚が覆う……その手にバスタード・ソードを握り直したスリヴァルディが、猛然とフードの男に襲い掛かった。


 剣は唸りを上げ、地面を抉るほどの勢いで振り下ろされる。


 フードの男はエアの剣を軽やかに構え、その一撃を軽々と受け止めた。

 金属がぶつかり合う音が響き、衝撃波が周囲の土埃を巻き上げる。


 スリヴァルディの目は鋭く、今度はフードの男の瞳が再び紅く輝く瞬間を見逃さなかった。


「なんだぁ、その目はぁ! 凰の目だぁ?」


 スリヴァルディの驚愕の叫びが響く中、フードの男は動く。

 エアの剣が風を切り裂き、まるで嵐を操るかのように無数の風刃を放つ。


 スリヴァルディはバスタード・ソードを振り回し風刃を弾こうとするが、その動きは既に遅い。

 フードの男の剣先が、まるで命を持つ蛇のようにスリヴァルディの胸元に迫る。


「この目を見てしまったなら、もう助けられません。残念ですが……」


 風の刃が、スリヴァルディの身体を切り裂き始めていた……

読んで頂き、ありがとうございます!


レンヴァル村の戦い編、大きな山場を無事に越えられました。


フェルグスが母と村人を守るために誇りを捨てて動いたこと、フードの男があの状況で共闘を申し出てくれたこと。


二人の決断が重なったことで、この夜の戦いは大きく動き始めました。


スリヴァルディという強敵を前にしながらも、ただの絶望で終わらせずに済んだのは、二人の選択があったからこそだと思います。


次話以降は、この共闘がどのように続いていくのか、そしてフードの男の正体がどのように関わってくるのかを、丁寧に描いていきます。


レンヴァルの夜が明けた先に、どんな景色が待っているのか。


そして、蚊帳の外にいる航太の反応は?


ぜひ見届けていただけたら嬉しいです!


コメントや感想、ブックマークを頂けると、泣いて喜びます。


今後とも、よろしくお願いいたします!

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