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雫物語 Rewrite  作者: クロプリ
二人のフィアナ騎士
28/29

運命の交響曲1

 今から約10年前の、ゼークの古い記憶。

 それは、アルスター国の古城で繰り広げられた運命の出会いの物語……


 アルスター国の古城は霧に包まれた山脈の頂に聳え立ち、数世紀の歴史を刻んだ石壁が静かに時を語っている。


 灰色の空の下、城の塔は雲を突き刺すように高い。

 風が吹き抜けるたびに、遠い過去のささやきが聞こえるようだった。


 そこは、時の流れさえも重く淀む場所。


 永遠の静寂が支配する迷宮のような城内で、運命の扉が開いた。

 8歳の少女ゼークは、人生を変える出会いに導かれていく。


 ベルヘイム王の護衛として異国へ赴いた父に連れられ、ゼークは初めてその荘厳な門をくぐった。

 門扉は重く軋む音を立て、ゼークの小さな足を城内へと迎え入れる。


 父は、ベルヘイム王の最側近にして「銀狼」と畏れられるファルミア・ゼーク。

 そんな父は王の側を離れることができず、幼いゼークは広大な城内で孤独な時間を過ごすしかなかった。


 ゼークは小さな身体に似合わぬ銀色の長髪を風に揺らし、広大な回廊を彷徨う。

 足音が石畳に反響し、その音が空間に吸い込まれていく。


 その時間は、果てしない永遠のように感じられた。

 古い石畳の廊下を歩く足音が自身の心臓の鼓動と重なり、静寂がゼークの胸を締めつける。


 何もせずに、ただ窓辺に座り込む。


 古城の中を飛び交う小鳥のさえずりを耳にし、木々の隙間から差し込む木漏れ日を眺めるだけの時間。

 陽光が葉を揺らすたび黄金の粒子が舞い、ゼークの銀色の髪を優しく照らした。


 そんな穏やかで退屈の時の中で、ゼークの耳に微かな音が届く。

 人の声、そして金属が擦れ合う鋭い響き……それは、好奇心の炎を静かに灯す火種だった。


 心臓が高鳴り、身体が自然とその方向へ動き出す。

 冒険を求める幼い魂が、ゼークを導いていく。


 中庭に足を踏み入れた瞬間、ゼークの耳は雷鳴のような剣撃の音に奪われた。

 風を切り裂く、剣戟の響き……


 ゼークの瞳が、鋭く反応する。

 心臓が跳ね上がり、その音の源へと更に足を踏み出す。

 好奇心は、もはや理性の鎖を断ち切っていた。


 中庭への石段を駆け下り、蔦の絡まるアーチをくぐった瞬間……世界が、変わる。


 ゼークの視界に飛び込んでくる、2人の青年騎士。


 1人は漆黒の巨鎧に身を包んだ、まるで動く山塊のような男。

 手に握る長槍は陽光を貪るように吸い込み、鋭い輝きを放つ。

 振り下ろす度に風が唸りを上げ、空気を切り裂く。

 大地が震え、風が咆哮した。

 槍先から迸る光は、まるで堕ちた星の残光のようである。


 対するは、白銀と黄金が織りなす至高の鎧を纏った優美な騎士。

 ロングソードを片手に、まるで月光が地上を走り回っているかのような……星々が夜空で舞うような、軽やかな動きを見せる。

 軽やかで、流麗。

 見惚れてしまう程、美しかった。

 一振りごとに雷光が迸り、地面に焦げた稲妻の紋様を刻み込む。


 そんな2人の騎士の戦いは、凡人の域を遥かに超えていた。

 空気が震え、地面が微かに揺れるほどの激闘。

 風が渦を巻き、落ち葉が舞い上がる。


 黒鎧の男が放つ槍の突きは、光の矢となって宙を裂き相手を狙う。

 白鎧の男がそれを剣で受け流すと、剣先から雷鳴が迸り地面に焦がす。


 空気が焦げ臭く、ゼークの鼻を刺激した。


 黒鎧の男は槍の先端から2本の光の矢を放ち、雷撃を打ち消しつつ相手を追いつめる。

 白鎧の男は剣を瞬時に引き戻し、光の矢を鮮やかに弾き返した。


 火花が散り、金属の悲鳴が響く。


 その一瞬一瞬が、天地を揺さぶる壮大な交響曲のよう。

 ゼークは息を潜め、目が離せなかった。


 ゼークの小さな胸は未知の憧れと興奮で高鳴り、指先が震える。


 人と武器が、一心同体のように動く。

 武器なのに、宝石の様に輝いている。


 こんな世界が、あるなんて……

 剣の輝きが、ゼークの瞳に永遠の炎を灯した。


「ん? 誰か、いるのか?」


 突然、黒鎧の巨漢がゼークの気配に気づく。


 戦いが中断し、大地を揺らすような重い足音が近づいてくる。

 その威圧感にゼークの身体は凍りつき、言葉を失った。


 巨漢の影がゼークを覆い、息苦しさが胸を締めつける。


「なんとも、可愛らしいお客さんだがな……お嬢ちゃん、ここはアルスターの要所だ。気軽に入っていい場所じゃねぇんだ。こんなところで、何をしている?」


 低く野太い声に、ゼークの心臓が締め付けられた。


「ひっ……」


 恐怖が、ゼークの全身を支配していく。


「おいおい……そんな勢いで迫ったら、怖いに決まってるだろう! ただでさえ、お前は獣みたいな雰囲気が滲み出ているのだからな」


 白鎧の男が、軽やかな笑い声と共に割って入る。

 そして、ゼークに対して優雅に一礼した。

 膝を折り目線を合わせるその仕草は、貴族の優しさを思わせる。


「フィアナ騎士団所属、フェルグス・マクロイヒと申します。はじめまして、小さな淑女。同僚の無礼、どうかお許し下さい」


 その声は春風のように柔らかく、ゼークの怯えた心をそっと解きほぐしていく。


 フェルグスの瞳は穏やかで、微笑みがゼークの緊張を溶かす。


 黒鎧の男は不満そうな視線をフェルグスに一瞬向けるが、髪をグシャグシャと掻きむしると落ち着きを取り戻した。

 巨体が少し縮こまる様子が、やけにコミカルに見える。


「ったくよ……同じく、フィアナ騎士団に所属しているアルパスター・ディノだ。怖がらせて悪かったな、嬢ちゃん」


 少し照れくさそうな仕草をするアルパスターに、ゼークは思わずくすりと笑ってしまう。

 先ほどまで恐怖の象徴だった巨漢が、まるで無垢な少年のように見えたからだ。

 笑いが、中庭に小さな花のように咲く。


「なんだよ! 笑われちまったじゃねぇか!」


 アルパスターがフェルグスを改めて睨むと、フェルグスは肩をすくめて微笑んだ。

 風が、2人の髪を優しく揺らす。


「まぁ、いいじゃないか。彼女の笑顔は、この殺風景な男臭い場所に花を添えてくれたのだからな」


 フェルグスはアルパスターを宥めると、ゼークに目線を合わせるために腰を下ろした。

 鎧の金属が、軽く鳴る。


「さて……こんな場所で、何をしているんだい? この城の中には、簡単に入れないはずなんですが……」


 恐怖が薄れたゼークは、フェルグスの質問に素直に答えた。

 声はまだ少し震えていたが、好奇心が勝る。


「お父さんが王様の護衛してるから、待ってるの。でも、何もする事が無くて……」


 ゼークの言葉に、アルパスターが身を乗り出す。

 巨体が動き、地面が微かに振動した気がする。


「王様って、ベルヘイム王の事だよな! って事は、銀狼ファルミア・ゼークの娘さんかよ!」


 アルパスターの大声が、中庭に轟く。

 鳥たちが、驚いて飛び立つ。


 銀狼ファルミア・ゼーク。

 銀狼の名はベルヘイムの守護者として7国中に響き渡り、敵味方問わず畏敬を集めていた。

 白銀の閃光と呼ばれる、最速の剣聖。

 炎を纏う剣に、最速の剣術が融合しているとまで言われている。


 ゼーク家とディノ家は、かつ7国の騎士として共に戦った古い絆があった。


 アルパスターは父から、ゼークの剣の凄さを嫌というほど聞いている。 

 その剣術を受け継ぎ、ベルヘイムの生きた伝説となっているファルミア・ゼーク。

 その娘が目の前にいるのだから、アルパスターが興奮するのも無理はなかった。


 アルパスターの瞳が輝き、槍を握る手が震える。


「確かに、綺麗な銀髪だ。ファルミア様のご息女ならば、丁重に扱わねばならんが……」


 フェルグスは静かに呟くが、アルパスターは止まらない。


「って言うか、ファルミア様と手合わせ出来ねぇのかよ! 白銀の閃光と謳われるゼークの剣、オレの槍術が通用するか試してみてぇ!」


 まるでオモチャを欲しがる子供のような瞳で、自らの槍をクルクル回し始めるアルパスター。

 そんな無邪気な姿に、ゼークは再び笑ってしまった。


「全く、大人気ないヤツだな……ファルミア様のご息女の時間潰しの相手なら、いくらでも付き合いますよ。私達で良ければ……の話ですが」


 フェルグスが穏やかに提案し、ゼークは満面の笑顔で頷く。

 銀髪が陽光に輝き、中庭に新たな光が差した。


 こうして、ゼークと2人の騎士の運命は交錯する。


 ゼークの小さな心に剣と栄光、そして淡い憧れの種が蒔かれた瞬間だった。

 この出会いが、運命をも揺るがす大いなる物語の始まりとなる。


 3人の運命が、永遠に絡み合う糸に紡がれた瞬間だった……

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