第7話
そう考えると、もしかしたらムルハド司祭は鉄のような自制心を持っているのかもしれない。
そんなムルハド司祭は、最初は「都市連合の貴族が何を言い出すんだ」という態度だったが、ファルティナがサデスに顔を殴られた話をした瞬間にブチ切れた。
ファルティナは呆れながらも、少し嬉しそうだった。
ちゃんと愛されていることが実感できたらしい。
「何から何まで、ありがとうございます。父との関係まで、取り持っていただいて……何とお礼を申し上げたら良いか」
一段落ついたタイミングで、ファルティナは恐縮した様子で頭を下げた。
「その、どうしてそこまでしてくださるのでしょうか……? いえ、エルミカ様の善意を疑っているわけではないのですが」
どうしてファルティナを助けるのか。
理由は三つある。
一つは彼女の闇堕ち防止であり、敵が増えるのを防ぐためだ。
もう一つは……。
「あなたのことを好ましく思っているからだ」
何だかんだで「ファルティナ」というキャラには思い入れがある。
その不幸な生い立ちには同情した。
幸せになって欲しいという気持ちがあった。
「……え!?」
驚くファルティナに対し、俺は続けて三つ目の理由を告げる。
「それに、私はあなたが欲しい」
仲間になって欲しい。
そう伝えると、ファルティナの表情が固まった。
見る見るうちに顔が赤く染まっていく。
「どうか、私と……俺と一緒に都市連合に来て欲しい」
「そ、そんなことを、きゅ、急に言われましても……」
ファルティナは頬に両手を当て、オロオロとし始めた。
そんなに変な要求したか?
都市連合は前からヒーラーの派遣を求めてたはずだけど。
「そもそも、私は司祭ですし……」
教国の司祭が都市連合に受け入れてもらえるか分からない……という心配だろうか。
確かに都市連合にはエブラム教を嫌っている者もいるが、しかしエブラム教徒も大勢いる。
「共に魔王を倒せば、認めない者はいないだろう。勇者の傍らには、聖女がいるものだ」
そう言えば五百年前の勇者と聖女は恋仲だったんだっけ?
まあ、俺はニセ勇者だから関係ないし、本物の勇者には幼馴染がいるんだけど。
「そ、それは……そうかもしれませんが。しかし私たちは出会ったばかりですし……お互いのこともあまり知らないというか……」
「まあ、今すぐ答えを出せとは言わない。じっくり考えてくれ」
「わ、分かりました」
ファルティナは顔を真っ赤にしたまま、頷く。
そして上目遣いでこちらを見つめた。
「そ、それでは……まずはお友達から、始めさせてください」
「あぁ……うん? 分かった。ありがとう」
先ほどから会話のピントがズレている気がする。
でもまあ、“友達”になってくれると言ってくれているし、問題ないか。
最悪、敵に回らなければ良い。
……ファルティナ、マジで強かったからな(トラウマ)。
「それじゃあ、私――俺のことはエルミカと呼んでくれ。敬語も不要だ」
「え!? そ、そんな、急に……」
「あなたのことはファルティナと呼ばせてもらう。……友達から始めてくれるんだろう?」
俺がそう言うと、ファルティナは小さく頷く。
「分かりました。それではエルミカと呼びます」
そして照れくさそうにはにかんだ。
敬語も要らないのだが……その方が話しやすいなら、それでもいいか。
「あぁ、そうだ。近いうちにあらためてムルハド司祭と会談したいと思っている。その時はどうか、同席して欲しい」
「えぇ!?」
ファルティナは大きな声を上げ、驚いた。
そこまで驚くことか?
今後の都市連合と神聖教国の交流とか、教会内部の政争とか、魔王との戦いとか……話し合うことはたくさんあるだろ。
「そ、そんな、いきなり父に挨拶だなんて……」
ファルティナは恥ずかしそうに顔を両手で隠した。
まだ父親と会うのは少し気まずいのか。
思春期だし、そんなものか。
その後、ファルティナと共に俺はムルハド司祭と会談を行ったのだが、あらためて「娘を助けてくださったこと。感謝申し上げる」と頭を下げられた。
これには俺もファルティナも驚いた。
娘であることは今更だが、それをはっきりと認めた上で、都市連合の貴族である俺に頭を下げた事実は重い。
……これができる時点で、やはり根は悪い人ではないのだろう。
「娘を頼む」
そして最後にそう言われた。
そういうムルハド司祭の顔は超怖かった。
やはりファルティナは母親似だろう。
ファルティナの母親サキュバス説が濃厚になってしまった。
ところでそんなファルティナは顔を真っ赤にし、恥ずかしそうに見悶えていた。
この聖女様、大丈夫だろうか?
闇堕ちは回避できたが、変な方向に落ちているような……。
その後、俺は他の第一位司祭たちとも会談し、無事にファルティナを始めとするヒーラーを都市連合へと連れ帰ることに成功したのだった。
……ところで第一位司祭はみんな悪人顔だった。
もしかして、顔採用なのだろうか?
神聖教国から帰還して、しばらく経ったある日。
俺は気が付くと一面青い空間にいた。
妙にキラキラと煌めいていて、一方でどこまでも続き、吸い込まれるような……気持ちの悪い青だ。
そして空に浮かぶのは、俺が前世で使っていたスマートフォン。
前もこんな夢、見たな。
俺は無造作にスマートフォンを手に取る。
「『ウィリディステラ・クエスト』 『エルミカ』……と」
キーワードを検索欄に入れる。
確か、俺の記憶だとこうやって検索すると、「エルミカ 死ね」「エルミカ クズ」「エルミカ ゴミ」みたいなサジェストばかりだったのだが……。
「エルミカ 最強」「エルミカ 女人気」「エルミカ 名言」。
……何だ、これ。
「エルミカ どんなキャラ」
試しに検索してみると、すぐに「AIによる概要」の説明が出て来た。
◆
エルミカは、人気漫画『ウィリディステラ・クエスト』及び『ウィリディステラ・クエスト 外伝:碧き星の導き』に登場する最強の勇者です。
彼は『ウィリディステラ・クエスト』の主人公であるレナードを助け、剣を託しました。
レナードの憧れの人物です。
彼は圧倒的な魔力と身体能力を持ち、また「マリウス流剣術」の奥義を習得しています。
優れた人格者であり、その圧倒的な力で数々の魔族を打ち倒し、世界に平和をもたらしました。
一方で未来を知っていることを示唆するなど、謎の多い人物でもあります。
人物像
憧れのヒーロー:レナードが勇者を目指すきっかけとなった存在であり、レナードにとって憧れの人物です。
最強の勇者:彼は作中で圧倒的な強さを持っています。
人柄:自信に満ち溢れ、頼りになります。一方で少しドジな一面もありますが、そのギャップが可愛らしいと人気を集めています。
謎多き人物:未来を知っていることを示唆するなど、謎めいた一面を持ちます。
特徴
金髪碧眼:金色の髪に碧い瞳を持ちます。特に彼の瞳は「星のように輝き、海の底のように暗い青」と評されるような、不思議な魅力を持っているようです。
◆
………………
…………
……おうぇ。
吐き気がした。
な、何だこれは……。
いや、待て。
所詮はポンコツAIの戯言である。
正しい保証はない。
というかよく見たら「人気漫画」とか書いてあるし。
一部のマニアに人気なエログロゲームを「大人気漫画」と勘違いするアホAIである。
きっと中身の滅茶苦茶に違いない。
……うん?
ふと、とあるスレッドが目に止まった。
◆
【悲報】最強勇者エルミカ様、ガバガバのポンコツだった(ネタバレ注意)『ウィリディステラ・クエスト 外伝:碧き星の導き』
・エルミカ様、腕を失くしたのはただのガバだった模様。
・考察廚「きっと『勇者の剣』を外せない理由があったに違いない」。
・なお、真相。
・ガバガバで草。
・未来知ってるのに何でこんなガバチャー走ってるんだよ。
・ちゃんと未来見て。
・「さあ、貴様も早く、その勇者の剣を抜け!」「……剣?……あぁ」(あ、やべ! 外すの忘れてた!!)←うーん、この……。
・このタイミングで気付くの草。
・エルミカ「どうやら、抜くに値しない相手のようだ。……剣がそう言っている」(適当に誤魔化すか……)
・剣に意思があるとか、散々考察されてたのにな。
・ファルティナ「エルミカは言ってることは半分くらい、嘘だと思った方がいいですよ」
ララ「エルミカ様は意味深なことを言いますけど、半分くらい意味ないですよ」
クルシュナ「あいつの言ってること、半分くらい適当だから真に受けない方がいいよ」
・本当に何の意味もないの草。
・でも、もう半分は本当なんだよな……。
・嘘に真実、混ぜるんじゃねぇ。
・これが信用できない語り手か……。
・エルミカの言ってることは考察するだけ無駄や。
・あの、勇者じゃないやつが身に付けると身動き取れないくらいの呪いが掛かるんですけど……。どうして気付かないんですか?
・エルミカだから。
・呪い無効化とかじゃなくて、まさかの筋力ゴリ押し。
・しかもこの時、剣どころか錘も背負っていた模様。
・これで腕一本失う代わりに七魔将倒せるのおかしいだろ。
・呪いの剣を平気で持ち歩ける理由、いろいろ考察されてたけど、結論が「エルミカが最強だから」で終わるの草。
・やはり筋肉、筋肉は全てを解決する……!
・こいつ、何かのバグだろ。
・でも、ガバガバだけどな。
◆
取り消せよ……!!
そのレス……!!
・ガバじゃないから。エルミカが腕を落としたのは、聖女に会うためだ。治療を受けたいっていう大義名分があれば聖女に会いやすいと思ったから、敢えて腕を落としたんだ。それにステータスを縛った状態で戦った方が、経験値入るし。十分、レナードとリーゼを守れると思ってたから、あの状態で戦ったんだよ。ガバじゃない。
俺はスレッドに書き込んだ。
次回、エルミカVS掲示板
果たしてエルミカは勝てるのか!?
乗るな、エルミカ! 戻れ!!
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