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97.決意

「ところで、ルイ殿下は、幽閉が決まったんですね」

 レインの問いかけに、シルフィーが頷く。

「そうみたいね」

「だが、仕方ないだろう」

 キャロラインが目を伏せる。

「そうね。この先も、同じようにルイ殿下を使おうとする人間が出てくるかもしれないから」

 シルフィーが小さくため息をつく。


「カルタット公爵派の人間の処罰は……致し方ないんでしょうね」

 レインが目を伏せる。

「流石に陛下に手を掛けようとしたのは、申し開きようがありませんもの」

 ミアが首を横にふる。

「私のシナリオにも、粗があったのね。あんなことを許すつもりはなかったのよ」

 シルフィーが小さく息を吐く。

「シナリオが万能なわけでもなかろう」

 キャロラインが首を横にふる。


「それで、キャロライン様は、許してくださったのかしら?」

 シルフィーの言葉に、キャロラインは無言でカルロを撫で始める。

「あら、まだ駄目なのね」

 シルフィーが眉を下げて肩をすくめる。ミアもレインもキャロラインの態度に苦笑する。

「キャロライン様!」

 勢いよく応接間を開けたのは、フィッツとウェイとレイラだった。そして、シルフィーの姿を目に入れて、フィッツは途端に勢いを失う。

「あ……ごめんなさい。お客様がいるって知らなくて……。また……来ます」


 サムフォード家に来てから、応接間を不用意に開けないようにと言われていたフィッツたちだったが、まだ十分に理解できてはいないようで、時折こんな風に応接間の扉を開けることがある。

「何だ、フィッツ。いいぞ」

 キャロラインはすくりと立ち上がる。

「キャロライン様!」 

 ジョシアの叱責に、キャロラインはじろりとジョシアを見る。

「フィッツたちは魔法の練習をしたいんだろ。それを教えに行くんだ、何が悪い?」


 キャロラインは時折、フィッツたちに魔法の使い方のコツを教えているらしい。そして案外キャロラインがフィッツたちに慕われていることも、フィッツたちの頼みを簡単に聞く様子にも、ミアもレインも驚いている。

「まだシルフィー様がいらっしゃいますわ」

 ミアが眉を下げると、キャロラインはふい、と顔をそらす。

「私は用はない。行くぞ、フィッツ」

 応接間から出ていくキャロラインに、フィッツたちは後ろを気にしつつも、キャロラインについて部屋を出ていく。ジョシアが困った表情のまま、4人の後をついていった。


 扉が閉まると、シルフィーは苦笑する。

「ダメでしたわね」

 シルフィーは困ったようにレインを見る。レインも眉を下げる。

「婚約パーティーを楽しみにしていたようでしたから……。でも、仕方がないことだとは、キャルも理解しているんだと思います。ただ、まだ整理がつかないだけかと」

「整理がつかないだけかしら……。でも、またうかがうわ」

 シルフィーの申し出に、レインが慌てて首を横に振る。

「そこまでしていただかなくても……」


「あら。私、そのほかにも、サムフォード家に用事があるのよ」

 キョトンとするレインに、シルフィーはにこりと笑って見せると、今度はミアに視線を向ける。

「ねえ、ミア様」

 名指しされたミアは、一瞬の間の後、にこりと笑った。

「もちろん、シルフィー様のご希望にこたえられるように、精いっぱい頑張りますわ」

「さすがミア様だわ。頼りにしているわ」

 シルフィーの言葉に、ミアはうなずいた後、口を開く。

「ただ」


「ただ?」

 シルフィーが首をかしげる。

「シルフィー様の案件は、ほかの見合いの案件とは性質が違っていますし、ほかの方の見合いに時間を割かなければいけないこともありますから……そこまで頻繁にスカイさんにアプローチをできるわけではないことを、ご了承くださいませ」

 ミアが小首をかしげると、シルフィーが大きくうなずいた。

「それは理解しているわ」

 ミアがホッと息をつく。

「それを理解していただけて良かったですわ」

「流石に、私のを何よりも優先してほしいとは言わないわ。……だって、難しい案件だもの」


 シルフィーはそう告げると、ミアとレインの顔を順番に見る。

「キャロライン様も行ってしまわれたし、今日はこれで帰るわ」

 立ち上がったシルフィーに、ミアもレインも慌てて立ち上がる。

「それにしても、魔法って面白いのね。自分が床から浮かぶことがあるなんて、思ってもみなかったわ」

 シルフィーがクスリと笑うと、ミアもうなずく。

「私も体が浮く体験は、あの時しかありませんわ。本当に……不思議な感覚でしたわ」

「あら、ミア様でも、キャロライン様の魔法を受けたのは初めてですの?」

 ミアもレインも苦笑してうなずく。

「多分、体が浮く魔法は、後にも先にも、あれだけだと思いますわ」


 応接間を出ると、ホールのところにあるものを浮かせる練習をしているキャロラインたちがいた。

 シルフィーとミアは目配せすると、クスリと笑いあってお互いに礼をとる。

「それではまた参りますわ」

「ええ。お待ちしております」

 最後のほうはうなずいていただけのレインが、シルフィーが玄関扉から出ると、ミアの横に並ぶ。

「ミア、本当に大丈夫なのか?」

「何がですの?」

 ミアの質問に、レインが困ったように眉を寄せる。

「シルフィー様のことだ」


 だが、ミアはにこりと笑う。

「何とかなりますわ。そもそも、シルフィー様が何も手を打っていないってことのほうが、驚きしかありませんわ。ご自分以外のことになれば、あれだけの能力を発揮される方なのに、何もしていないってことはないと思うの。それでもうまくいかないんですから……今私が思いつく手では、きっと無理よ」

「無理って……いいのか?」

 レインが怪訝な表情でミアを見る。

「きっと、シルフィー様はそれも込みでOKされたんだと思っているわ」

 あっさりとしたミアの返事に、レインだけが戸惑った表情になる。ミアがクスリと笑う。

「お兄様、そんな心配そうな顔をされなくても、大丈夫よ。いざとなれば、キャルお姉さまがいるわ」

 ポン、とレインの腕を叩いて踵を返したミアのからかうような口調に、レインはますます困った表情になる。

 

 *


 ミアの金色の髪を、風がさらう。同じように風になびく草花に、ミアは目を細める。

「ミア様、こちらが事故現場です」

 シュミットの言葉に、ミアは真剣な顔でうなずくと、シュミットの横に並ぶ。

「ここに来るのが、遅くなってしまったわね」

 ミアは、両親が亡くなった事故現場に初めて足を運んだ。それまでは、忙しさを理由にして、両親の事故現場には足を向けようとはしなかったし、実際のところ、足を向けることができなかった。それは、レインとて同じだった。

 苦笑するミアに、シュミットが首を横に振る。


「遅くはないと思います。きっと、男爵も奥様も、ミア様たちの気持ちは、十分にご理解されていると思いますよ」

「シュミットも、あの事故で従業員を亡くしてしまってつらいのに、ここまでついてきてくれてありがとう」

 ミアがシュミットの顔を見ると、シュミットは目を伏せて首を横に振った。

「つらい気持ちは、誰かと比べるようなものではありませんし……私も、ここに再び来ることで、決意が新たになるような気がします」

 シュミットの言葉に、ミアはゆっくりとうなずいた。

「そうね。私も……いえ、私たちも、決意を新たにしなければね」


 そう言った後、ミアは後ろを振り向く。

「でも、お兄様たち、遅いわ」

「そうですね。キャロライン様が、フィッツたちの魔法の練習にいいとおっしゃっていましたからねぇ」

 眉を下げたシュミットも、まだ姿を見せないレインたちのことを探すように遠くに目を向ける。


「あら、ジョシアさんだわ」

 足早にミアたちに向かって歩いてくるジョシアに、ミアが手を挙げる。

 その様子にほっとした様子のジョシアが、大きくうなずく。

「ジョシア殿も、キャロライン様のお相手がありますから、大変ですね」

 シュミットがクスリと笑う。ミアも、同意の意味でクスリと笑う。


「ジョシアさん、お兄様たちは?」

 ミアの問いに、近づいてきたジョシアが首を横に振る。

「あれでは、しばらくこちらには来ないでしょう。今日はヒースもいますので、あちらは頼んできました」

「キャルお姉さま、案外面倒見がいいものね。フィッツたちがねだると、あまり嫌と言うのを聞いたことがないような気がするわ」

 ミアの言葉に、ジョシアもうなずく。


「私も予想外でした。子供などと関わることもないのかと思いましたが……」

「でも、フィッツたちの存在が、キャルお姉さまの役にも立っているような気がするわ」

「そうですね」

 柔らかなミアの表情に、ジョシアがうなずく。


 そして、真剣な表情になったジョシアが、目の前の風景に視線を向ける。

「ここが、事故現場ですか?」

 ミアも体を向き直すと、うなずく。

「ええ」

「ミアたちのご両親に、ようやく会いに来ることができました」

 ジョシアの言葉に、ミアの目が潤む。

「そうね。お父様とお母様に報告しなければいけないことがいっぱいあるのに。お兄様たち、早く来ないかしら」

 泣き笑いの表情のミアの手を、ジョシアがそっと包む。

「そうですね」


 ミアがジョシアの体に体を寄せる。

「お兄様たちが来ないようなら、もう報告してしまおうかしら」

「もうしばらく待ってはどうでしょうか」

 ジョシアの答えに、ミアがジョシアを見上げる。優しい瞳が、ミアを見つめているのに気づいて、ミアが照れたように前を向く。

「サムフォード家に一人増えるってことくらいは、言ってもいいかしら?」

 ミアの言葉に、ジョシアが柔らかく微笑んだ。


「ミア!」

 遠くから聞こえるキャロラインの声に、ミアとジョシアが振り向く。

 レインとキャロラインが、フィッツたち3人とカルロ、ベルと競うように走りながら、ミアたちのもとに走ってくるのが見えた。


 完

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

私の作品としては最長作品になりますが、楽しんでいただければ幸いです。


アカウント再登録から半年ほど更新していましたが、今後の予定は今のところありません。

書きたくなったら何か書きだすと思いますので、そのときはまた、覗いていただけると幸いです。

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