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77.ケイトの行方

「あの、どうして私が、呼び出されなければならないんでしょう? ケイトさんを探さなければならないんではないですか?」

 ミア、レイン、キャロライン、ジョシアに囲まれているサリーが、戸惑った表情で皆の顔を見る。

「白々しいな」

 キャロラインが目を細める。

「白々しい? 何がですか?!」

 サリーが驚いた表情でキャロラインを見る。その姿は、本気でそう思っているように見える。


 レインが口を開く

「サリー。君が、グルグガン商会の人間と通じていたことは分かっているんだよ?」

 レインが口を開くと、サリーが首を横にふる。

「何をおっしゃっているんです、レイン様!」

「じゃあ、レインの書斎にあった書類は、誰に渡したんだ?」

 キャロラインの言葉に、サリーが目を見開く。

「書類? そんなもの、取っていませんし、誰かに渡すようなこともしていません!」

「だが、実際に、サリーが出入りした後に、書類がなくなっているんだよ?」

 レインの言葉に、サリーが激しく首を振る。


「そんなことをしたことは無いですわ! 疑うなんてひどいです!」

「じゃあ、どうしてレインの書斎を出た後、キョロキョロしていたんだ?」

 キャロラインの言葉に、サリーが自分の体を抱きしめる。

「私が? 私はそんなことしていません!」

「ローズが見たと言っているんだよ」

レインの言葉に、サリーは怒りの表情を見せる。

「レイン様! ローズさんは、私をハメようとしているんですわ!」

 レインとキャロラインは顔を見合わせて、肩をすくめた。

「どうして、ローズがそんなことをしなければならないんだ?」

 キャロラインが首を傾げる。


 サリーが目を伏せる。

「ローズさんは、私を嫌っているから、私を陥れようとしているんですわ……」

「嫌っている、ねぇ。嫌われる理由は?」

 キャロラインの問いかけに、サリーが首を横にふる。

「そんなことわかりません。私は……他の方とも仲良くしたいと思っているのに……。私は本当に何もしていないのに……」

 今にも泣きだしそうな声のサリーに、レインとキャロラインが困ったように肩をすくめる。


「夜、屋敷に戻ってきましたね? あれは、誰に会っていたんですか?」

 ジョシアの追及に、サリーが目を伏せたまま首を横にふる。

「散歩に行っただけですわ……。使用人にはそんな自由すら、サムフォード家にはないんでしょうか」

「そう言うわけではないのよ。私もサリーを疑いたくはないの……」

 ミアが弱弱しく告げる。

「ミア様! 私は、私は、何もしていないんです。本当です! 信じてください!」

 サリーが縋るようにミアを見る。


「本当に白々しいな。ミア、使用人を信じたいかもしれないが、状況証拠は揃っているんだ」

 キャロラインの言葉に、ミアが小さく首を横にふる。

「いえ。私は……まだ信じられないんですの」

「ミア様! 私は本当に何もしていないんです! 私だって、ケイトさんを探す役に立ちたいと思っているんです。ですから……ケイトさんを探す手伝いをさせてください!」

 手を組んだサリーが、ミアに必死に訴える。


「……そうね。ケイトはもういつ子供が生まれてもおかしくない状況なの。だから、早く見つけないといけないわ……。サリーには、ケイトがどこに行ったか、心当たりはないかしら?」

 ミアがサリーをじっと見つめる。サリーは首を横にふったまま口を開く。

「ミア様。私だって、ケイトさんが行きそうな場所は知りません……仲良くもしてもらえなかったですし……」

「何が仲良くしてもらえなかっただ。よく言うな」

「キャルお姉さま」

 ミアがキャロラインをたしなめると、キャロラインはムッとして腕を組んだ。

「ミアは信じているのかもしれないが、な。こういう人間は、締め上げればいいんだ」


 キャロラインの言葉に、サリーが目を見開く。

「え……何を?」

「私のあだ名を知らないわけでもあるまい?」

 目を細めるキャロラインに、サリーがぶるぶると震え出す。

「キャルお姉さま! 何をされるつもりなんですの!」

 ミアがサリーの前に立ちはだかる。

「ミア、どけ」

「嫌ですわ! サリーは、サムフォード家の大切な使用人ですわ!」

「ミア様……」

 サリーが涙ぐんでミアを見る。


「レイン様!」

 ガチャリ、と応接間の扉が開く。入って来たのは、フォレスとヒース、そしてその後ろに怒りに震えるクリスがいた。

「何だ? 邪魔をするな」

 キャロラインがギロリと3人を見る。

「ケイトさんの居場所は、ここかもしれません!」

 クリスが差し出した紙を、レインが受け取る。

「ガストン!」

「何だと?!」

 キャロラインがレインが持つ紙を掴む。


「私は先に行きます!」

 走り出そうとしたクリスをヒースが引き留める。

「一人で突っ走るな。激高していては、見えるものも見えなくなる」

「クリス、ケイトがどういう状況かまだ分からないんだ。一人で勝手な行動をされては困る」

 キャロラインが首を振る。

「ですが! 一刻も早く動かないと、ケイトさんが!」

 焦るクリスの肩を、ヒースがポンと叩く。

「落ち着け。まずは、冷静になれ」

 クリスがギュッと拳を握り込む。その拳は震えている。


 そろり、そろり、と後ろに下がるサリーの腕を、ジョシアが掴む。

「どこに逃げる気なのですか?」

 サリーはフルフルと首を横にふる。

「逃げるなど……いたしません。ただ……お邪魔になるのではないかと……」

「ジョシアさん。サリーは私共が」

 フォレスの言葉に、ジョシアは頷くと腕から手を離す。

「キャロライン様は本気ですよ」

 冷たいジョシアの言葉に、サリーがぶるりと震える。


「ジョシア、この場所はまだ掴んでない場所だな?」

 キャロラインに差し出された紙を見たジョシアが、頷く。

「ええ。この場所はまだ、連絡が来ていない場所です」

「行くぞ」

 キャロイランの言葉に、ジョシアが頷く。

「私も行きましょう。治療が必要なことがあるかもしれませんし、キャル一人では負担かもしれませんから」

 レインが告げると、キャロラインはちらりとレインを見た。

「足手まといになるなよ」


「私も!」

 ミアが口を開くと、キャロラインが首を横にふる。

「ミアは駄目だ。屋敷に残れ」

「いえ。私も行きます! 女手がある方が良いと思いますから!」

「……私がいる」

「ミア様、私たちより前に出ることはされないでくださいね?」

 キャロラインの言葉を遮るように、ジョシアが告げる。ミアはコクリと頷く。


「ジョシア」

「いや、確かに女手はあった方が良いのかもしれないから。ミア、飛び出しちゃいけないよ?」

 レインがキャロラインを遮って、ミアを見る。

「絶対に足手まといにならないようにします」

「……わかった。行こう」

 キャロラインの言葉に、サリー以外の皆が頷いた。うつむいたサリーの表情は、ミアには見えなかった。


 *


「キャル、魔法で転移はしないのですか?」

 レインが馬車に揺られながら、キャロラインに問いかける。

「想像できない場所には転移は難しいし、夜とは言え、街中にこの人数で突然出没したら目立つだろう? 騒ぎがガストンの耳に入らないとも限らない」

「そうですね。逃げられると厄介です」

 ジョシアとヒースが大きく頷く。

「10分もあれば、馬車で着く。それに、我々だけでは手が足りない可能性もある。シュゼット達も合流するには時間が要るからな」

「……ケイトに何もなければいいんですが」

 呟いたレインの視線が、クリスに向く。クリスは唇を噛んだまま、じっと床を見つめている。


「ミアを連れてきて良かったのか?」

 キャロラインがレインに小さな声で問いかける。レインは眉を下げて、キャロラインを見た。

「たぶん置いてきた方が良かったんでしょうね。……ですが、ケイトが安心できる人間が一人はいた方が良いですから……男の私よりも、ミアの方が適任でしょう」

「……一応、クリスはいるが……」

「まだケイトを説得できていないですから。ケイトが心を許しているとは、言い難いかと」

 レインが小さく首を振る。

「案外辛らつだな」

 キャロラインが肩をすくめる。

「辛辣かはわかりませんが……ケイトがショックを受けるような状況でないことを祈っているだけです」


「もしかして、クリスのせいでケイトがこんなこと巻き込まれたと思っているのか?」

 キャロラインの言葉に、レインは眉を下げて小さく首を振った。

「いえ。そこは考えていませんでしたね。……サリーがケイトを攫うように言ったんでしょうか」

「どうだろうな。……知り合いだったから、という線も大きい気がするがな。でも、結局ケイトは、ガストンとの関わりについては全く口にしなかったから、今、真実は分からないがな」

「そうですね……ケイトは……頑なに答えてくれませんでしたからね」


 ボソボソとしゃべっているレインとキャロラインの横で、ミアの表情は暗い。

「ミア様、大丈夫、ですか?」

 ジョシアが心配そうにミアの顔を覗き込む。

 唇をキュッと結んだミアは頷く。

「大丈夫よ。……足手まといにはならないわ」

 ジョシアがミアの震える手を、そっと包み込む。

「ミア様、ケイトさんのことが心配なのはわかります。でも、まず第一に、自分の身を守ることを考えてください。いつでも私が助けられるわけではありませんので」

「……ええ」

 ミアは大きく頷いた。

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