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75「開幕どうしてこうなりましたの?」

 わたくしは今、困惑しております。

 バルカ様に連れられて入った部屋は、とても豪奢でした。それはもう、あの玄関からは想像も出来ないくらい。

 しかし、その点は別に困惑するほどのものではありません。

 容姿も、バルカ様に傷が無ければこのような感じなのだろうなという、美しさでした。白い髪と真っ赤な瞳の女性は、最初、神様が降臨なされたのだと一瞬感じたほどです。

 では何故困惑しているのか。


 それは、バルカ様のお姉様方が何故か泣いているからです。


「ど、どうして泣いているのお姉様!?」


 どうも、バルカ様も困惑している様子ですわ。

 まあ、そりゃそうでしょうね。久しぶりの再会、攫われたりとかでなければ普通泣くまで行くことはありえませんもの。

 子離れできていない親とか、馬鹿みたいなカップルであればあり得るかもですが。


「うっ、ううっ、バルカが……バルカがやっとまともな友人を連れてきた……」

「私のはただの花粉症」


 茶色い髪の王女様は涙を拭きながら、バルカ様の肩を抱く。アルビノの王女様は割とドライみたいで、そう使い捨て出来るものじゃない筈の紙で鼻をかんだ。

 まともな友人という言葉に、わたくしは一瞬アリデレスさんの方を見てしまった。仕方ないでしょう? 教会破壊した人がまともって言われたんだもの。

 まあ、それは良いとして。


「初めまして、バルカ様のお姉様方。わたく……私はオラルケイニー・アリアンローズと申します」


 わたくしはスカートの裾を摘まみ、軽く持ち上げて、腰を曲げて深々と頭を下げます。

 これはカーテシーという伝統的なお辞儀の作法で、女性のみが行うものですわ。上品さや優雅さを感じさせるものなのですが、実を言うとわたくし、助言も無く1人でやったことは初めてですの。ですので、これで合っているのかどうかちょっと不安ですわね。

 ……そもそも、挨拶するような友人がアリーシュ意外居なかったせいなのですが。


「同じく、初めまして。私はアリス・アリデレスと言います」


 アリデレスさんもわたくしと同じような動作で頭を下げますわ。

 ……少々ぎこちないですわね。やり慣れていない感がものすごく出ていますわ。


「ああそんなに畏まらなくていいよ、バルカと同じ感じでいいから。国の英雄と比べれば、私達なんて何もしてないしね」

「そうね。私としては、あまり無茶をしないで欲しいのだけれど……バルカ、おいで。久しぶりにお姉さんがぎゅーってしてあげる」

「お姉様、友達が見ているのでそういうのは……わぷっ」


 不意にアルビノの姫様がバルカ様の頭を、胸の中に押さえつけるように抱きつきました。

 バルカ様は軽く抵抗するも、拒絶するという意思は見せておりません。ただ、耳まで真っ赤にしていますが……。

 照れくさいのでしょう。案外可愛らしいところもあるのですね。


「ああ、自己紹介がまだだったわね。私はエクレール・ド・モンテクルズ、よろしくね!」

「私はネビリナ・ド・アルンシャルナよ。厳密にはもう籍は入れているので王女じゃ無いんだけれど、ここで厄介になっているわ。よろしく。ところで、その隅っこで気配を消している女性はどなた?」


 そういえば、いつの間にかいなくなっていましたわね。アヘン。

 隅っこの方で剣で顔を隠しているアヘン、あれで隠れているつもりなんでしょうか? まあ、構いませんわね。

 アヘンは呼ばれて渋々といった様子で出てくると、ぺこりと一礼をしますわ。


「ごっ、ごめんなさい。私、名乗るような名前を持っていなくて……」


 そういえばアヘンって、学校内でだけ通用する通名だったですわね。

 すっかり忘れておりましたわ。ここ最近は普通の生徒ともかなり溶け込んでいるようですし……それ自体は良いのですが、学園でも本名が判明していないってのはどうかと思いますわね。


「名前を持っていない? アリアンローズ、向こうじゃ珍しくないの?」

「いいえ、そんなの滅多に聞きません。奴隷だってしっかりと名前を持っております」


 まあ奴隷とはいっても、昔みたいに掃いて捨てる家畜みたいな扱いの奴隷はもう見かけなくなりましたが、そこは別に重要でもないので話しませんわ。


「……ねえ貴女、ちょっとこっち来て」

「えっ、はっ、はい」


 ガチガチに緊張しているのが見て取れるような動きで、エクレール王女の側へアヘンが近づきます。

 するとエクレール王女はなにを思ったのか、アヘンの顔を両手で挟み、かなり顔を近づけましたわ。びくんっ、と驚いた様子が、彼女の後ろ姿からでも見て取れます。

 ネビリナ王女も、アヘンの顔を興味深げに、エクレール王女の横から覗き込みます。


「あっ、あのっ……ななな何か粗相をしでかしたでしょうか!?」

「あんた、煙草吸ってたわね。んでその前から、何らかの薬物を摂取している……どう、当たってるかしら?」


 にやり、と意地悪げな笑みを浮かべるエクレール王女。

 ……驚きましたわね。わたくしでももし、彼女が薬物中毒者だと知っていなければきっと気付かなかったでしょうものを、こんな短時間で見抜くなんて。

 驚いているわたくし達に、何故かバルカ様が得意げに語り出しますわ。


「驚いたか? エクレールお姉様は一目見ただけで、なんか病気とかそういうのが分かるみたいなんだ。私にはよく分からんが」

「バルカ、あんたは分かっておきなさいよ。……まっ、分かったところでどうやって治すかなんて知らないんだけどね。取りあえずあんた、薬物は程々にしときなさいよ」


 エクレール王女はそう言って、アヘンのおでこを人差し指で叩きました。


「ん? どうしたのネビリナお姉様」

「その剣……ううん、きっと気のせいだわ」

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