74「お城の中へ招待されました、なのですわ」
お腹いっぱいにステーキを食べ終えたのは、ちょうど5時くらいでしょうか……硬かったので、食べるのに時間がかかりましたの。主にアリーシュが。
ちなみに、1番早く食べ終わったのはアリデレスさんでしたわ。
そして、そのアリーシュとは分かれて門の中、バルカ様の私兵と名乗る方にお城へと案内されていますわ。
今わたくし達がいるのは、普通の家で言うところの玄関でしょうか……? そこは、あまりにも殺風景ですわ。絨毯も、職人の技巧が光るような模様もなにも無い、ただの石畳。柱も全く同色ですし、はっきり言いますとその、地味、ですわね。
「……意外になにも無いのだな」
「そうですわね……大体の王族のお城ってこう、バン! という感じに高い壺とか絵画を飾っているイメージですが……」
アヘンとアリデレスさんも、どうやら同じ意見のようですわ。
何せ、あまりにも飾り気がなさ過ぎるんですもの。まだ男爵の持つ騎士寮の方が豪華では無いか、と思うほどに。
それに、バルカ様の私兵と名乗った、わたくし達の前を歩く男……さっきから一言も話しませんわね。不気味ですわ。
ですが、道行く騎士達が態々立ち止まり、彼に敬礼している辺り、かなり身分の高い人で、バルカ様の私兵というのも嘘では無いとかっきりと納得はしておりますわ。
ですが、不気味なのには変わりありませんわね……演劇の化け物が、作り物と分かっているからといって安心感を感じないように。
「……バルカ・ド・モンテクルズ殿下は、この階段を上った先でお待ちです」
不意に足を止めて、不気味なバルカ様私兵は、潰したカエルのような声でそう言いました。
急に止まったせいでアリデレスさんがぶつかりそうになりましたが、咄嗟に避けました。そのせいでアリデレスさんが顔から石畳へ倒れそうになりましたが、バルカ様私兵が それを支えます。
「べっ、別にワタクシは大丈夫ですわ!!」
あれっ、何故アリデレスさん耳まで真っ赤に……? まさか、あれだけで惚れましたの!?
言っては何ですが、正直それで惚れるのは8歳ぐらいまでだとわたくし思いますわよ……。
「……彼、かなりのイケメンでしたわね」
なるほど、顔ですのね。
わたくしが勝手に納得し、隣のアヘンが首を傾げていると、いつの間にか長い通路へとたどり着きましたわ。
そこは下の玄関に比べれば豪華ですが、正直聖アリストテレス学園の女子寮には劣る、失礼ではない程度に飾り付けられた廊下でしたわ。
だというのに、そこに立っているバルカ様は不思議と、美しく感じました。
しかし……真っ黒なドレス、似合ってはいるんですが、物語に出てくる悪者って雰囲気ですわね。やっぱり。
「どうだったかな、私の国は」
「素晴らしかったですわ! 街は綺麗で活気に溢れていますし、ドラゴンの首とか初めて見ましたし、あとあとドラゴンのお肉も初めて食べましたわ!!」
「煙草、というものを気に入った。これは良い物だ」
「え、えっと……その、凄かった、ですわ。料理も凄く美味しいですし、食べてからなんと言いますか……活力、というものが溢れてきますわ。それに、街の活気もとても素晴らしいですわね。みんな、幸せそうに笑っておりました」
わたくし達の反応にバルカ様は満足そうに頷きます。
まるで、子供を褒められた親のような顔ですわね……見ていて微笑ましくなりますわ。
「まっ、まあな。私が統治する国だ、当然に決まっているだろう」
「お姉様、すんごいにやけているね」
急にわたくし達の後ろから、男性用の礼服を着た、見たことのない女性が立っておりました。
恐らく化粧もしていないでしょうに、まるで鍾乳石のように白い肌をした彼女は、口元に手を当てバルカ様をニヤニヤと笑いながら見ています。
「あらラスト、何処行ってたの?」
「愛人とちょっとね……ん? どしたの3人とも」
……ラスト様? もしかして、この男装している女性にしか見えない彼がラスト様ですの?
えっ、マジですの!?
「ラスト様、見事な男装ですわ!!」
「アリデレスさん、ボク、男。一応男だよ」
……そういえばすっかり忘れていましたわね。寮ではワンピースやミニスカートといった女性らしい服装を、女性よりも見事に着こなしていたからすっかり……。
でも、何故『一応』なのかしら? しかもちょっと自信なさげでしたわね。
「まっ、いいか。今日は前夜祭だから気張ってないで適当にやっちゃっていいよ。それとお姉様、まともなお姉様方がお待ちだから、早く連れて行って」
「そういやあんときいなかったわね……了解」
「ちょっ、ちょっと待って下さいまし」
ラスト様の言い方でちょっと引っかかるところがありましたので、無礼で不敬かもしれませんが、歩きだそうとしているバルカ様の足を止めます。
「その、わたくし達も一緒に、ですの?」
「うん。バルカお姉様のお友達を見ておきたいんだってさ」
「という訳、行くよ。ああアヘン、煙草は適当に捨てといて」




