71「そう言えば滅んでいたジョイク教ですわ」
さて、結局入ったのはドラゴンの眼差し、ですわ。店内は案外広い……というより、ちょっと広すぎですわね。
馬車を縦に積んで収納出来るくらいに高い天井、端から端まで走れば息切れしそうな広さですわ。床にはドラゴンの模様のタイル、天井のランプもドラゴン型と……見事なドラゴン特化なお店ですわね。
「これが平均的なドラゴン……?」
アヘンが、壁に飾られているドラゴンの生首を指で突きながら訪ねますわ。壁一面に飾られているドラゴンの生首、正直不気味ですわね……。
でもきちんと加工されているからか、死体特有の腐った臭いはしませんわ。不気味ですが。
「ええ、これらはビギナーでも狩りやすい種類のドラゴンです。精々、年に2人程度しか死亡例が無いくらいには弱いので、機会がありましたら是非狩ってみて下さい」
「……弱いんですの?」
「ええもう、弱いですよ。ただ、他の大陸から来られるお客様が言うには『かなりの難敵』らしいですが……」
アリデレスさんが何故かやる気になっていますが、何となくわたくしは読めましたわ。
この大陸、平均しての実力がおかしいですわね。まず、普通ドラゴン退治ってのは物語の英雄がするものですわ。断じて、そこらの一般の平民がするようなものではありません。あろうはずがありませんわ。
だというのに、この大陸ではそれが普通になっている……もし仮にモンテクルズと戦争を起こしてしまったら、わたくしはすぐにこちら側へ寝返りますわね。
しかし、この店の店主らしい、耳が妙に尖った人はかなりよぼよぼなおじいちゃんですわ。これでも倒せるのかしら……?
「取りあえず、ドラゴンステーキ食べたいので頼みますわね。4人分、それでいいですわね?」
「アリーシュ様、ここは先払いですので、私の分もお願いしますね」
「ふっ、ふふふっ、構いませんわこのくらい! ところでアヘンは大丈夫なんですの?」
「……10,000アレサだけ足りない、アリアンローズ様貸して」
「そのくらいなら返さなくても大丈夫ですわ。代わりに、夜にマッサージの方お願いしますわね」
正直マッサージはどうでも良いのですが、恩を感じさせない為に先手を打っておきますわ。こういうので借りを作ったりとかしたくありませんもの。
勿論マッサージだけではなく、過去話も洗いざらい話して貰うつもりですが……これは後で言いましょうかね。ふふっ。
「ドラゴンステーキ4人前ですわ! さあ持って行きなさいドロボーさん!」
アリデレスさんに続き、アリーシュ、わたくし、アヘンの順番にお金を置きます。
すると店主はそれらを目も止まらぬ早さで数えると、頷き厨房の方へ去って行ってしまいましたわ。
……かなりやり慣れている感がありますが、他の貴族なら極刑にされてもおかしくはない態度ですわね。
「ここはバルカ様御用達のお店ですので、刑に処される心配はありませんよ」
「心を読まないで下さいましアリーシュ」
たまーにアリーシュは油断ならない時がありますわね。でもお蔭で疑問が晴れましたわ。
なるほど、王族のお気に入りにちょっかいなんか出したら確かに、ただでは済みませんわね。それもバルカ様はただの王女ではなく、国民にとって英雄と言っても過言では無い存在。
そんなものにちょっかいを出すものなんていませんわよね。
「そういえば、今日は無事なんですね」
「なにが?」
「いつもなら、ジョイク教信者が結構ちょっかい出してきたりとかしているんですけどねこのお店」
いるんですのね、ちょっかい出す人。
しかし、ジョイク教……確か、ちょっと前に滅んだ宗教団体でしたわね。そういえばモンテクルズ大陸が1番信者が多いと言われていましたわね……今思い出しましたわ。
でも何故それがこのお店を襲うのかしら?
「バルカ様が滅ぼしたらしいので、その報復の為でしょうね。まあ婚約者を寝取られたらしいので、当然と言えば当然な気もしますけど」
「……何故でしょう。バルカ様なら単身でそれが出来そうな気がしてしまいますわね」
わたくしの言葉に、皆同時に頷きましたわ。




