65「意外なところで意外な人の意外な正体、なのです」
「バルカ様、その席ご一緒させていただいてもよろしいでしょうか」
「んあ、いいよ。アリデレスさん、構わないか?」
「ワタクシは大丈夫ですが……バルカ様、誰ですのこの人?」
アリデレスの横によいしょ、と座ったのは、いつぞやの銭湯で見かけた少女だった。
というか、見るからに貴族な2人と危ない格好している女の席によく座れるな。肝っ玉がデカいというか、なんというか。
「この子は、前に銭湯で出会った子よ。詳しくは私にも分からん」
「すみませーん、アラブタのロースステーキ1つお願いしまーす!」
割と高いもの頼んだわねこの娘。ただの庶民……ではないのかしら。
よくよく見れば服装も、割と良い生地を使っているみたいね。白いワンピースっていう子供っぽいチョイスだけど、年相応と言えるかしら。
「ああ紹介するわね。あんたの隣に座っているのがアリス・アリデレス。ミハル教教会と重要文化財を破壊した悪党令嬢よ」
「ちょっ、バルカ様その紹介はやめてくださいまし!」
強ち間違ってはいない。実際、あの事件からアリデレス家と他の名家は、かなり距離を取られているらしい。とはいってもアリデレスは次女な訳で、長女の方は仲むつまじく暮らしているらしいから、まあ家の方に関して言えば問題ないだろう。
アリスの方のアリデレスはヤバいだろうけど。多分私と同じ運命を辿る気がする。修道院からも拒否されるような、あれと。
あの時のお父様とお母様の「信じられない……」という感じの目は、正直向けられていて結構辛かったわ。いや私の場合自業自得なんだけども。
あっ、アリデレスもある意味自業自得か。
「んで私の隣に座っているのが――」
「久しぶり、お姉さん。最近買いに来ないからちょっと心配してたんだよ、ついに死んだんじゃないかって」
「――アヘン、知り合い?」
正直アヘンと親しい人なんて、私ぐらいなもんだと思っていたわ。
だって普段引きこもっているし、私以外の人が話しかけようとするのなんて……アリーシュぐらいかしら。まあそれくらいだったし。
「用心棒」
「雇っていたよー、ボクのファミリーでね」
あらボクッ娘だったのねこの子。
……いや待てよ、ファミリー? 家族って意味……ではないわよね、どう考えても。
……マフィア? マフィアって確か、ファミリーって言ったわよね自分たちのグループのことを。前世の記憶はおぼろげでどこから出典したかも分からないくらいだけど、そのくらいは覚えているわ。
……となるともしかして、こいつマフィアの娘?
「あんた、名前は?」
「アリルナ・アリンエッタ・アレンティーノ、アレンティーノファミリーって言えば分かるかな?」
「……すんごい知ってるそれ」
なんやかんやあって私の配下になってしまったマフィア組織の1つ。確か薬の売買を手広く行っているけれど、この街には卸していないというよく分かんないマフィア組織だったわね。
まあ、直接行けば売って貰えるらしいけど。私は詳しくは知らないわ。
「アレンティーノファミリー? 聞いたことのない名ですわね……」
「あれっ。結構有名だと思っていたんだけどなあ……ちょっとショック」
まあ、貴族令嬢であればその噂も耳に入ってこないでしょうからね。あえてそれを言うつもりもないけど。
貴族の子息子女は、悪い噂ってのは徹底的にシャットアウトされ、普通は箱入りに育てられるもの。例外なんてのは前世の記憶を持っていた私くらいなもんよ。アリデレスが割と汚い言葉知っていたのにゃ驚いたけど。
「ま、まあいいや。えっと、これからよろしくね? アリデレスさん」
「よろしくお願いいたしますわ」
軽く自己紹介を終えたところで、私達の頼んだメニューが運ばれてきた。アリルナのは頼んだばかりなので、もう少し時間がかかるのだろう。
そして私は蛮勇さを持っているが、同時に共有願望というものも持ち合わせていた。とはいっても共有したいのは幸福ではなく不幸だが。
なので私は南部オオカミのステーキを少し切り分け、フォークで突き刺す。ふっふっふっ、多分だけどものすっごい名誉になるようなことをしてあげようアリルナよ。
「アリルナ、あーん」
「ふぇっ!? えっ、ええと、その……」
「バルカ様、毒味に使わないであげてくださいまし」
「毒味じゃないわ、不味味よ」
「なんですのそれ……」
どうせ不味いんなら、気持ちを分かり合いたい。そのためなら私は手段を選ばない!
ところでなんでこの娘は顔を真っ赤にして狼狽えてるのかしら。私もちょっと恥ずかしいのよこれ。
「あーん」
「あの、流石に恥ずかしいというか。その……」
「あーん」
ついに根負けしたアリルナは躊躇いがちに口を開ける。そこにつかさずお肉を突っ込む。
フォークから肉を話したアリルナはもぐもぐと咀嚼する。
……表情からは、不味いという感じのは見えないわね。隠すのが上手いという訳では無さそうだし。でもかといって、美味しいという感じでもない。
「……味はどう?」
「堅いけど噛む度に味がしみ出てくる。スルメみたい」
ほう、スルメがあるのか。
そういえば、海の方に出たことはなかったな私。別に興味が無い訳ではなく、ただ機会が無かっただけだけど。色々とあったのよ、色々とね……。
そうこうしているうちにアリルナの頼んだアラブタステーキがやってきた。私は、そのステーキがテーブルに置かれると同時に肉を食べた。
あらやだ堅い。




