56「尻軽同士は尻軽同士と引かれ合う……なのです」
アリデレスさん、すんごい食べるわね。いや、そりゃあ私に比べれば量は少ないけれどもね? でも今彼女が食べているメニュー、アリアンローズが4分の1でギブアップしたやつなのよね。
確かあの時はアリーシュもそれを頼んで、残ったのを私が……結局3人前くらい食べたわね。そりゃ太るわ。
「で、アリデレス。そこのええと……ラストのつがいとはどういう関係なの?」
「つがい……おほん、アーノルドはワタクシの屋敷で雇っている守衛長ですわ。実力も申し分ない、仕事『では』頼れる人ですわね」
仕事ではというのをかなり強調して言ったわねこの子。
となるとつまり、結構な浮気者、遊び人って感じかしら? まあ、なんとなくヤり慣れているって感じはするわね。
なんか妙に脂汗掻いてるっぽいけど。
「で、なんで貴方はラスト様と、まるで恋人みたいにしているのかしら? 貴方、確か妻子持ちですわよね?」
「おいマジかアリデレスさん」
マジかよ……あっこの様子だとマジだよこれ! なんかビクッてなったかと思ったら急に振るえだしたよこの人!
うわあ……なんかごめんなさい。マジごめんなさい。
「ちっ、違います! ラスト様は男の子だから、う、うううう浮気には」
「狼狽えすぎだろこの人」
「というか、同性愛もワタクシは別に認めておりますので……浮気になりますわね」
ニッコリと、それはもうかなり良い笑顔で言い切ったアリデレスさん。私この人怖いわ。
いや落ち度は完全にノトーリアス……じゃないアーノルドにある訳だけど。というかここ同性愛も認めていたんだ。
ミハル教ってそういうのもOKなのかしら。後で調べておかないといけないわね。上手く使えば更に利益を上げられる。なんで私商人みたいな思考回路してるんだろ。
「ワタクシはある程度の性癖を受け入れますわ。同性だろうと、獣だろうと、何でも愛すれば良いと思います。でも不倫浮気は駄目ですわ。ギルティですわ」
「おっ、お願いしますアリスお嬢様! どうかこの事はご内密に! どうか! どうか妻には!」
アリデレスがそう凄んだ瞬間、アーノルドが凄まじい勢いで床に移動し、それはもう見事な土下座を披露した。
そもそもやらなければいいのに、と私は思ったが、こういうのって禁じられているからこそ燃え上がる、一種の背徳感? 的なのも作用しているんでしょうね。
しかしまあ……守衛長の面影なんて全く無い、見事なまでの落ちぶれっぷりね。店内から見ていた様子ではデキる男を演じていたみたいなのに。
アリデレスはそんな彼に慈愛に満ちた表情で、言葉を投げかける。
「顔をお上げなさい、アーノルド」
「あっ、アリスお嬢様――もがっ!?」
顔を上げたアーノルドに、容赦ないスタンピング! やめて、アリデレスさんやめて。店内のみんなが見てる。私ら注目されちゃってるよ。
「ねえお姉様、この店オススメの料理ってなーに?」
「土下座というのは、身分の高い者が低い者へして初めて意味をなす行為ですわ。元からワタクシより身分が下な貴方の土下座に、価値なんてありませんの」
「そっ、そんな!?」
「このお肉の筋煮込み、っていうの美味しそうだな-。すみませーん!」
「ごめんあそばせラスト様、それは後にしてくださいません?」
「やだお腹すいた」
あいつ脳天気だな天然か!? いやもう面倒くさいって感じなんでしょうね、どうでもいいって感じなんでしょうね。
ラストにとってはアーノルドも、ただの1本の逸物に過ぎなかったという……哀れアーノルド、自業自得だから同情はしないわよ。
でも謝罪はするわ、心の中で。うん、ちょっとだけごめんなさい。
「そ・れ・に。ワタクシ、メルスカトとは個人的にお茶会を開き合う仲ですわ。彼女の人生が損をするような選択、ワタクシには出来ませんの。だから、諦めてくださいまし、アーノルド」
「そっ、そんな! お願いします! どうか、どうかメルスカトにだけは!!」
「すみませーん! この牛の筋煮込みってのとタンの串焼きを1つずつくださーい!」
泣き叫ぶアーノルドに、先ほどまでの沈んだ表情は何所へやら今や恍惚に浸っているアリデレス、注文を繰り返し叫ぶラストを見ながら野菜を食う私。
そしてこちらを見て見ぬ振りする客達……なんだこのカオス。
取りあえず私は、彼らを見ぬ振りして野菜の山を片付けよう、と固く決意したのだった。
現実逃避とも言う。




