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54「まさかの才能開花なのです」

 ぎしっ、ぎしっと気がこすれ合う音が鳴り響く。

 別に性なる儀式をしている訳では無く、私とアリデレスは今、教会の天井裏にスニーキングミッション中なのだ。

 しっかし薄暗いし埃っぽいし、あんまり長井したくはないわね。

 私は慣れているけれども、アリデレスとか貴族だし――


「アリデレス……さん? あの、何をしているの?」

「なにって、覗き穴制作に決まっているではありませんか」


 手慣れた様子でアイスピックで床に穴を開け、そこにガラスのスコープを差し込むアリデレスの姿が。こいつ本当に貴族なのか? 盗賊の間違いじゃないのか? 若しくは暗殺者。


「あの、アリデレスさん。こういったことはよくやってらっしゃるのかしら?」

「いえ? これが初めてですわよ?」


 初めてでそんな手際よく出来る訳ねーだろ!

 というか、いつの間にか私の分の覗き穴も制作終了しているアリデレス。良い仕事したぜとばかりに汗を拭う仕草をする彼女に、私は将来の不安を覚えた。


「さあバルカ様、どうぞ」

「うん、ありがとう」


 早速覗いているアリデレスに若干引きながら、私も彼女の横で同じように覗いてみる。

 うわっ、すんごい綺麗に見える。このスコープ凄いな! うちでも似たようなの作れないかしら……1つくらいサンプルでもらっても……いやでもこういうのって大体国家機密とかだからなぁ。

 私、ガラスの知識全然無いからなあ……ドワーフとかいたらすぐポンと作れたんだろうけど、少なくともうちの大陸じゃ見かけないし……。奴隷で売っていないかしら?

 さて、肝心の下の方はどうなっているのかというと、なんか聖歌歌ってる。

 しっかしでっかい胸だなあの娘。


「……バルカ様、何処を見てらっしゃるのですか? ケツァルコルトニー様が見ているのは、ピアノの置いてある方向ですわ」

「えっ、あっはい」


 言われたとおり、ピアノの設置している方面を見てみると……ふむ、見た感じ、アリデレスより胸の大きな女性はいなさそうね。同じくらいの大きさの奴はいるけれども。

 となると……顔か? おっとり系か、ケツァルコルトニーはおっとり系が好みなのか!?


「……流石にここからじゃ、誰を狙っているかは分かんないわね」

「ええ。ですがある程度目星は付きましたわ。まず手前の彼女、あれは無いですわね」

「やめたげなさい」


 そりゃ、ちょっと太っているというか、若干ハート様入ってるっぽいけども。やめたげなさい、可哀想でしょ!

 それに、私もちょっと人のこと言えないくらい太って……いやいや、まだ大丈夫よバルカ。貴女はまだ太っていない、ちょっとぽっちゃりしてきたくらい。男性が望むくらいのちょうど良いぽっちゃりなのよ。


「……バルカ様? ブツブツ呟いてどうなされたのですか?」

「いやなんでもない」


 しかしここからじゃ本当に誰狙いか分かんないわね。何となく太っているのと、インスマス面なのと、ピアノ弾いてる老シスターは違うだろうとは予想出来るけど……。

 いや、もしかしてケツァルコルトニーがブサ専な可能性もあるかしら……? ラストの誘惑に耐えきったというのが、どうも微妙に引っかかるわね。

 あいつは女の敵とでも言えるくらい可愛い男の娘、はっきり言うとどこぞの王女様にしか見えない時の方が多い王子様なのよね。それからの誘惑を断ち切るなんて……。

 あっ、そうなったらアリデレスに勝ち目無いわね。ようこそ、婚約破棄の世界へ。


「……で、どうする? 直接行って問い質してみる?」

「いいえ、そんなはしたないことはいたしませんわ」


 今のこれははしたなくないのか。


「ケツァルコルトニー様が尻尾を出すまで徹底的に付け纏うだけですわ。うふっ、うふふっ、うふふふふふふっ」


 やだこの令嬢怖い。

 箱庭で箱入りに育てたら、こんな手段も選ばないえげつない少女に育つのね……バルカ学んだ、将来の子育てで生かしてやる。まず相手いないけど。

 というか、アリデレスまだ気付いてないわね……。


「ワタクシを裏切ったのは貴方なんですからね、ケツァルコルトニー様……」

「アリデレスさん、アリデレスさん」

「いかがなされましたか、バルカ様?」

「ん」


 私がアリデレスの右側を指差す。アリデレスもゆっくりとその方向に顔を向ける。

 するとそこには、小型犬くらいの大きさはあるだろう鼠が……数十匹。

 私はああいうのに慣れているけど、アリデレスはきっと多分慣れていないだろう。テンパらなければいいんだけど。


「ふぁっ」

「ふぁ?」

「ファイアーボー――――!!」

「せいっ」


 私は咄嗟に、アリデレスの口を塞ぐ。我ながらもの凄く早い動きだったわ。

 そしてそれを合図に動き出す鼠の大群。うわあ波みたい。


「ンーッ! ンンーッ!!」

「逃げるんだから暴れるんじゃあ無い!」


 鼠が追いついてきませんようにと心の中で願いながら、私はただひたすらに走った。

 うわ鼠早っ!? なにあれ怖い! 私怖い!

 しかも梁のせいで動きづらい私に対して、鼠公の奴は小さいから動きが阻害されないっていう! ファック!

 だが、伊達にアマゾンやらで戦争をやってた訳じゃあないのよ! このくらいで動きが阻害なんて――


「あぶぁっ!」


 痛い……柱に頭ぶつけた。

 でっ、でも今はそれどころじゃない! つか逃げた先行き止まり!? 畜生、前問の虎後門のバッファローだわ!

 ……仕方ない。


「悪いなミハル!」

「ちょっ、バルカ様一体なにをきゃあああああああ!!!!」


 私は瞬間的決断で、勢いを逃がさず壁に向かってドロップキック!

 巻き散る木片! 照らすぜ夕日! そして2人は自由落下!

 あっ、これヤバイ。


「ミスったあああああ!!!!」

「きゃあああああああ!!!! エアークッション!!!!」


 アリデレスが呪文を唱えると、石製道路にぶつかる直前に空気が私達の方へ強く吹き、勢いを弱める。

 スカートめくれるけどこの際気にしないわ。命あっての物種だからね!


「ぎゃふん」

「へぶっ」


 ただ、着地はしっかりしてほしかったかなー……。


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