51「ハービバビバなのです」
あ^~いい湯だわ~……。海水と魚の血と汗やらにまみれる漁師達の為にあるという、大衆浴場。私はそこで足を伸ばしていた。白いお湯のこれ、ミルク風呂ではないわよね……何かしら?
まあいいわ、いやー良い湯だわ。アリアンローズとアリデレスも交流を深めるために裸のおつきあいしようと誘ったんだけれども、何故か断ったのよね……アリーシュは普通に付き合ってくれてるっていうのに、何故かしら?
「バルカ様、良い湯ですね~……はふう」
「そうねえ、良いお湯だわ~……」
本当、良い湯だわ。一つ欠点を挙げるとするなら……妙に視線を感じる事なのよね。
私の制服を見てなんか目を丸くして驚かれたし、私の裸を見てどういう訳か声を出して驚かれたし……海の男なら身体に傷くらいあるでしょうに。あっ、私女の子だった。
「女同士なんだから、なにも恥ずかしがる事無いのにねえ。そう思わない? アリーシュ」
「そうですねー……やっぱり、バルカ様って本当は男の――」
「あんた私の股見たでしょうが」
何処をどう見たら男に見えるのかしら、本当謎だわ。
……そりゃ、寝ぼけてるときに鏡見て『誰かしらこのイケメン』とか思ったりするけどさ。ナルシストじゃないよ、ナルシストじゃないよ!!
「しっかしバルカ様、凄い傷の量ですね……」
「名誉の負傷って奴よ」
アリーシュ、ペチペチ叩くんじゃ無い。そういえばこの街に来てから、傷全然増えてないわね……あるとしても精々、雷魔法だっけ? それの火傷くらい。
治安はそこそこ良いし、適度なスリルもあるしで割と楽しいわね。婚約者は相変わらず見つからないけど。
「……凄い傷だね、姉ちゃん」
「んあ?」
声のした方を見上げてみると、そこには茶髪の、顔にそばかすがちょいとある褐色肌の少女の顔があった。歳は大体……私の2つ下ってところね。
彼女は私の隣でお湯に浸かる。髪を纏っていないのが気になるわね……でも私もあんまり得意じゃないから、今日もアリーシュにやってもらった訳なんだけど……。
「お嬢ちゃん、髪纏わないの?」
「ん? ああ、普段はこいつを隠しているからね」
そう言って少女が後ろ髪を掻き上げると、そこには大きな火傷跡のケロイドが、まるでへばりつくようにあった。
「こんなの見ていて気持ちが良いものではないだろう? だから普段は隠しているのさ」
「ふーん。まっ、今は髪を挙げときなさい。貴族命令よ」
私がそう命じると、彼女は大人しく髪を結び始めた。と同時に、私の横でアリーシュがついうっかりと口を滑らしおった。
「あれっ、バルカ様王族じゃありませんでした?」
「王族でバルカって名前だとバレちゃうじゃない、姫騎士バルカって。私は婚約者を探しに来たの!」
「みんな気付いていると思うんですけど……」
はっはっはっ、なにを言うのよアリーシュ。貴族ってことにしておけば、『ああ、あの英雄バルカの名前に肖って名前を付けられたんだな』って思うかもしれないじゃん。顔に傷のある貴族とか、探せばいっぱいいるでしょ!
……アリーシュ、なにその呆れたような目は。
「ひょっとして、あのバルカ様……ですか? 9歳でドラゴンを殺し、13歳で前線で指揮を執り、あらゆる国々を空と地両方から攻め入り、あらゆる戦争で完勝してきたという」
「ちょっと待ってそれかなり膨張されてるからね!?」
13歳で前線に立ったのは確かだけど、ぶっちゃけネクロがいたから可能だった訳だし、ドラゴンに至っては私だけの力じゃないからね? 私の親衛隊と協力してやっとだったんだからね? しかも幼体だったんだからね?
アリーシュも頷くんじゃあない! 嘘だから、プロパガンダで広めた嘘だから!
「でもバルカ様、街がドラゴンに襲われている時に命がけで私達を護ってくださいましたよね。ドラゴンも倒しましたし」
「あれは下竜種、大したことのない種類のドラゴンよ。確かにあの時の実力だと危なかったけども」
「普通ドラゴンなんて倒せないものだと思うんだけど……あっ、ですけど」
「普通に喋っていいわよ。というか、ドラゴンくらいちょっと実力があったら倒せるでしょう」
私がそう言うと、信じられないとでも言いたげに少女は目を丸くした。
……あれっ、ひょっとして私の周りって、かなりおかしな実力の奴等ばっかりだったのかしら?