46「鼻の頭に血管が浮き出るのです」
「えっと、取りあえず顔を上げてくれる? 私、謝られるような事をした覚えが無いんだけど」
「頼む! あそこで見たことは秘密にしててくれェーーーーッ!!」
この問答をやって早十分、全く話が進まない……あそこで見たことってなに? なに見たっけ?
演奏? あれかしら、ビートルズの曲演奏してたからジャスラ●クに秘密にしておけ的なあれかしら? 異世界だから問題ないと思うけど……いや、この大陸にはそういった音楽著作権を管理している奴等が居るのかしら……衰退しかないわね、この世界。
「俺があそこで金を稼いでいたなんてバレたら……親父に殺されちまう!」
「……金稼ぎ?」
確か、ケツァルコルトニーは貴族だった筈よね? 何故金を稼ぐ必要が……? そもそも、金が必要なら冒険者ギルドに登録すれば――あっ、この大陸じゃ冒険者ギルド無いんだった。いや、大陸じゃなくて国かもしれないけど、どちらにせよ冒険者になるにはかなりの額が掛かるわね……。
「取りあえず、顔を上げてくれるかな。私は誰にも言うつもり無いから」
「マジっすか!? おっ、お願いしますよ! 絶対! ぜぇええええっったいに言わないでくださいよ!!」
ものすっごい念押しだなこいつ……ああ、思い出すわ。確かトロントが妻以外の女と浮気している時に『お願いだから誰にも言わないでくれ! 頼む!』って言ってきてたのを。懐かしいわねぇ、結局私以外の誰かが嫁さんに浮気しているって伝えて、離婚したんだっけ。
いやー、懐かしいわー。
……あれっ? でも、ケツァルコルトニーに婚約者がいるなんて聞いたことないわね……。
「取りあえず、何故秘密にしてほしいか教えてくれないかな? ここまで念押しされちゃあ、私の好奇心がウズウズして『うっかり』口を滑らせてしまうかもしれないからなぁ」
「うぐっ、えっと……それはそのぉ……」
ああ、きっと今の私、すんごい悪い顔してるんだろうなあ。知ってるもん、弟に『まるで物語に出てくる魔王みたい』とか言われたもん。
「……あー、分かった言えば良いんだろう! クソッ、実は言うとよォ、あの街にさ、孤児院ってあるじゃん」
「……んなのあったんだ」
不味いわね……なんでか嫌な汗がだらだら流れているわ私。子供とかあれだもん、戦争孤児はうちで鍛えて兵士にしてたもん……。何かしらこの後ろめたさ。
いやね! ちゃんと鍛えてたし! 使い捨てにしてなかったし! 後、竜騎士育てるのは子供からの方が抵抗が少なくていいのよ! ……ゲリラ戦とかにも使ってたけど私も前線で頑張ったからノーカンよねノーカン。
「あったんだよ。まあそこな、どうも経営があまり上手く行って無くて……それで、ちょっとでも力になれたらって思ってよ。でもさ、俺貴族の息子じゃん。要は親父のな訳よ。それで募金するってのはさ、カッコ悪いって言うかさ……」
「だから路上ライブでおひねり頂戴してた、と」
「あと、親父は平民を見下しててよ、親父の金を使っちまったらきっと俺、殴り殺されるだろうからな」
……割とまともな理由で私驚いてる。というか、平民嫌いの貴族の息子って、大体父親の影響を受けるもんだと思っていたんだけど……奇跡ってあるもんなのねぇ。
いや私の両親もジョイク教だったけどさそりゃ。特に母親。あれか、私に冷たい理由それもあるのか。だって仕方ないじゃん、発展に犠牲は付きものデースってどこかの大丈夫な博士も言ってたし!
ただ……どうも臭いな、こいつ。嘘の臭いだ。
「――それだけじゃあないでしょう、ケツァルコルトニー。まだ何か、隠しているんじゃあないかしら?」
「……」
こいつ目を反らしやがった。いや、じっと瞳を見られると思わず反らしてしまうのは分かるんだけどね。故に私は、他のところ(漫画知識)で相手を攻め落とす!
「まあ、いいわ。どう一杯、月見酒ってのも中々乙なものよ」
「あっ、ああ……なら、一杯だけ」
一杯だけ、と言ったので私は、テキーラの瓶をもう一本袖から取り出した。とはいってもカップ酒みたいなもんに入っているんだけどね。
だがアルコール度数は驚異の44%! いやー、これ一杯全部飲んでも酔わないとか私の肝臓マジヤバい。
ケツァルコルトニーがテキーラの封を開け、おそるおそる一口飲む。ワインであればいつも飲み慣れているだろうけど、山岳の魔物退治の時に冒険者が愛用するような度数の酒を飲むのは初めてなようだ。
「っくぅあ~、なんじゃあこりゃあ~!? 喉が焼けるように熱いぞ!?」
「ギッヒッヒッヒッ、冒険者が愛用しているもんさ。で、どうよ味の方は」
「しっ、刺激的だけどよ……俺にはちょっと刺激が、強すぎるぜ」
「それがいいんじゃあないの、全く」
さて、飲んだな。こいつ、飲んだな。
なら引っかけてやらんとなあ、ギッヒッヒッ。私って悪い子かな~、こんなことやっちゃうなんて。
「ところで知ってるかしら、ケツァルコルトニー」
「んあ?」
「秘密ごとをしている人がテキーラを飲んだとき、鼻の頭に血管が浮き出るんだってさ」
「へっ!?」
サッ、とケツァルコルトニーが鼻の頭を手で押さえる。ひっひっひっ、引っかかったな。
「あっはっはっはっ! 嘘だよケツァルコルトニー、私が冒険者になりたての時に使われたハッタリなんだけど、どこでも通じるんだな~」
「あっ、てめっ騙しやがったのか!?」
「――で、だ。なにを隠している? ん~、お姉さんに話してみんしゃい」
私が問うてみると、ケツァルコルトニーは顔を背けた。顔も耳も真っ赤だ。
……はっは~ん、なーるーほーどー。分かりやすいなーこいつ、超分かりやすい。ニヤニヤ。
「そういうことか~。まっ、応援はしてやんよ。フラれたら私を伴侶にしても良いぞ」
「いやそれはいいわ」
なんでや。




