44「食べ過ぎにはご注意をなのです」
高級レストラン『レヴァティエ』。何でもこの国の古い言葉で魔法の剣、という意味合いを持つらしい。
そしてここはレストランであると同時に、武器屋でもあるようだ。豪奢なシャンデリアやテーブルクロス、絨毯に似合わず、壁にいは見るからに凶悪そうな斧や、傷口を広げるのに特化したレイピア等が壁に掛けられている。
店主曰わく、『モンテクルズの冒険者食堂っていうのに貴族は惹かれるもの』らしい。アリアンローズから聴いた。
確かに冒険者食堂はこんな感じだったような気もする。武器が飾られたりはしてなかったけど。
さて、料理はというと……絶品である。マグロのトロ炙り。この国に冷凍技術を出して置いてよかった、と本気で私は思ったね。ええ。このマスタードソースとマグロのトロ炙りの相性はかなりグーよグー。
これで白いドレスじゃなけりゃあもっと良かったんだけどね、動きやすくって。
「……どう、アリーシュ。美味しい?」
「緊張しちゃって、味が分からないです……」
私と正反対の白いドレスを身に包んだアリーシュの表情は、微妙そうだ。
まあ平民が貴族に囲まれて食事とか、普通の平民はしないだろうし、その重圧はかなりのものだろう。しかも年上ばっかりだし、このお店。
じろじろ見られているしねー……まあ仕方ないけど。
「……あんまり食べていないのに、お腹いっぱいですわ」
「あー、まあ……正直すまなんだ」
あれからアリアンローズ、五本くらい一気に買って食べてたもんね。そりゃ腹膨れるわ。
しっかしまあ、ここフルコース形式なのね。態々食べる速度を合わせるの面倒だわ……美味しいけど。それに、アリーシュはともかくとしてアリアンローズの食事ペースが落ちてきている。
私? もっとイケる口よ。むしろ物足りないわ。
ようやっとアリアンローズがトロ炙りを食べ終えると、次に運ばれてきたのは、小さいお肉だった。脂の乗った、いいお肉。かかっているソースはバルサミコを使用したやつね。よくわかんないけど。
「おっ、美味しいけど……ちょっと、キツいですわね……」
「太りそう……」
確かに、普通の人にとってはキツいわね。私はいつもこれくらいの量を食べているけどさ。
まあ、太りそうだわ……最近全然動いてないし。ここら辺は全然冒険者ギルドとかないし。カロリーをどう消費するかなぁ……。
……ジョイク教が襲ってきたりとかしないかしら。来て欲しくない時に来てきて欲しい時に来ないのよね。いや、私が悪いんだけどさ。強すぎるせいで。強くってごめんねー。
「……食べないんなら、代わりに食べようか?」
「えっ、いえ、大丈夫ですわ。流石に王女様に残飯処理は……」
「わっ、私のお肉ですからね! お肉ですからね!」
大丈夫よーアリーシュ、そこまで私意地汚くないからねー。
というか、この娘の中での私ってどういうイメージなのかしら。あれかしら、よく食べ放題のお店に行ってたからかしら。結局モンテクルズ全部で出禁になったのよね……王女様だぞ私。
いや、時間内に食べたら無料っていうのを駆けつけ三杯いったのは悪かったと思っているけどさ。でも美味しいんだから仕方ないじゃ無い! 体重全然増えて無くて、お姉様に妬まれたけど。冒険者って便利な言葉ね。ダイエット中のエクレールお姉様の前で脂たっぷりの豚肉をかぶりついたのは気分爽快だったわよ。
「……アリーシュ、これの後にも色々と出てくるけど、無理しちゃ駄目よ? いつでも連れて行ってあげるからね」
「……バルカ様、私のお母さんみたいな事言いますね」
「せめてお姉さんにして」
ねえアリアンローズ、なんでニヤニヤしてるのよ。いや、そりゃあちょっとは私もそうかな~って思ったり、ぶっちゃけアリーシュを妹のように可愛がったりしたけども。でもまだこんな大きい子供を持つような歳じゃないわよ!
……まあ、もう婚約者どころか結婚していてもおかしくない年齢なんだけれども。この世界では。
「うぷっ、食べきりました……」
「ちょっ、ちょっとキツいところがありますわね……」
次に、なんとか食べきった二人と、容易く食べきった私の前に、口直しにジェラートが、何故か輪切りにされて運ばれてくる。
うわっ、うっすい。一枚一枚が超うっすい。
「わあっ、氷菓子ですか?ということはデザートですね!!」
「残念だけどアリーシュ、これの後にロース肉がまだ残っているのよ」
「まっ、マジですか……?」
「マジですの」
アリーシュはどうも微妙そうな表情をする。
アリアンローズも、アリーシュと同じようにちょっと苦しい顔になる。まあ気持ちは分かる、ちょっと昔の私もこんな量食べられなかったから。
まあでもソルベのおかげで少し余裕が出来たのか、二人は次に運ばれてきたロースステーキを三枚、ぺろりとたいらげた。まあ薄かったものね。私の以外。
次に生野菜のサラダ(私だけ何故か細切れステーキ入り)が運ばれてきた。見たことのない野菜ね。どれ、一口……うん、普通ね。
なら次は肉と一緒に、この白いカブみたいなのを食べてみよう。……なにこれ、すんごい。まるで前世から赤い糸で結ばれていたかのように、この料理は合う!
「おおっ、これ美味しいです!」
「……バルカ様、よくそんなに食べられますわね」
「そう? このくらい普通じゃない?」
私の言葉にアリアンローズの表情が少し強張る。仕方ないのよ、今回のために朝食抜いてきたんだから。
さて、それらを全てたいらげて次に運ばれてきたのは、ドラゴンフルーツによく似た果物だった。というか、もう、見るからに、あからさまにドラゴンフルーツである。
スプーンでそれを抉り、真っ白な果肉を一口……うん、ドラゴンフルーツだこれ。普通に美味しい。
アリーシュはバクバク食べているが、アリアンローズは大人しく、まるで食べ飽きているとでも言いたげに食べている。
アリーシュにとってはとても珍しい果物みたいね。まあ、モンテクルズ大陸には無いものね。これ。
……取りあえず、アリアンローズに合わせるか、食べるペース。
見事ドラゴンフルーツを食べきった(何故かアリーシュは皮までも食べていた)私達に珈琲が運ばれてきた。モンテクルズ産の珈琲ねこれ。
でも、取りあえずウェイターさんにこれを言わなきゃあいけないわね。
「ごめんなさい、もう一週フルコースって出来ます? ちょっと物足りなくて……」
アリーシュもアリアンローズもウェイターさんも、信じられないものを見るように、まるで化け物を見るかのように目を剝いた。
……仕方ないじゃ無い、あと二週は出来るくらい食べられるんだから。




