43「万雷の拍手をおくれ世の中のボケ共なのです」
結局ドレスを2着、アリーシュの分も買うはめになってしまったわ……別にいいのだけれどもね、端金だし。
でも問題は、ドレスなのよね……ゆったゆったで、ふりっふりで、動きにくいったらありゃしない服。あんなので堅苦しい中食事をするなんて、なんて面倒な……!!
隣をルンルン気分で歩いているアリーシュは浮かれている。貴族みたいな服を着られて嬉しいのだろうが、私にはあれのなにがいいのか全く分からない。動きにくいだけだというのに……。
まあそれは置いといて、スラム街近くにあるここはいいわね。色々な匂いが混ざり合って、人の脈動というものが感じ取れるようだわ。
「この街にも、こういうのってあるんですね」
「ええ、わたくしも初めて知りました……」
「結構いいでしょ?」
ふははは、焼き鳥五本持ち! アリアンローズよ、喰いたかろう喰いたかろう。獣のようにむしゃぶってもよいのだぞふはははは。
あらアリーシュが先に食いついたわね。可愛い憹可愛い憹。
「あら、アリアンローズは食べないの? 美味しいのに、ねーアリーシュー?」
「ふぁい、ふぉいふぃいれしゅ!」
「飲み込んでから喋りなさい」
食べながら喋るアリーシュを咎め、私も一本焼き鳥を食べる。
やっぱりいいわこれ、パリパリではなくしっとり? でっぷり? まあそんな感じの脂肪が肉全体を覆っていて、味がもうめちゃんこ濃厚。
たれは複数の果実やらなんやらをブレンドしたソース、それに三日間ぐらい浸けているらしいから味が肉にまで染みこんでいる。ザ、ジャンクフードという味。これ以上に素晴らしいものなんて存在しないわマジに。
やっべ、マヨネーズ欲しい。そういえば私作ってなかったわねマヨネーズ。この世界にもあるらしいけど、高級品らしいから持ち歩けないのよね……あー勿体ない。あー勿体ない。
「……結構いけますわねこれ」
「ふっふっふっ」
落ちたな(確信)。
夢中で、頬にソースが付くのも構わずに食べるアリアンローズ。これはもう、彼女はジャンクフードの虜。麻薬のように中毒性があるのよね、こういうのって。たまーに無性に食べたくなるのよね。
やがて串丸々一本食べ終えたアリアンローズが、名残惜しそうにしょんぼりする。そこに私は、串を差し出す。
ぱあっ、と花の咲いたような笑顔で感謝の言葉と共に串を受け取るアリアンローズ。ふっふっふっ、優等生を不良の道に引きずり込むのはやめらんないわ。
「しっかし、これなんの肉なんでしょうねバルカ様?」
「さあ、私達の大陸では見かけない肉なのは確かなのだけれど……」
カエルでもヘビでもないのよね……そういえば前世でも今世でもゾウとか食べてないわね。案外あれだったりして。
いや、オークって可能性もあるわね。私の大陸じゃ絶滅しちゃってたし、エルフみたいにDNAも残っていなかったから復活させられなかったけど。文献によると、脂がかなり乗っていて、昔は女の奴隷にオークの子供を孕ませて養殖していたとかなんとか……。
ただ、ジョイク教が全部根絶やしにしたのよね。魔物は悪だって。まあ私もそれには否定しなかったけど、なにも絶滅させる事はないじゃないの。尋問とかにも使えたろうに……これだから頭の凝り固まった連中は嫌なのよね。
というか美味しいものを絶滅させるとか、万死に値させて良かったわマジで。
「……何でしょうか。この、歌?」
「あそこからね」
そういえばいつもここに来る時、奇妙にも時計塔の前だけ不自然にスペースが空いていたわね。
どうも歌は、そこから聞こえているみたい。道中適当な屋台で買い食いしながらそこに行ってみると、私達は目を丸くした。
「けっ、ケツァルコルトニー!?」
そう、ケツァルコルトニーが、ギターを弾いていたのだ。それもかなりの集客力を集めているらしく、貧民とみられる者も破落戸とみられる者も、普通の庶民や子供と一緒に、私と同じように出店で買っただろう商品を食べながら聴いていた。
つかなんでビートルズの曲を……しかも無駄にむっちゃ上手いっていう。
「はえー、すっごいですねー」
「意外な特技ですわね……にしても、こんなところでやらなくてもいいでしょうに」
アリアンローズ、彼は同級生にこういうのを見られるのは恥ずかしいと思うお年頃なのよ。私にも覚えがあるわ。
私が個人ブログでミリタリー物小説を書いていた時は『お願い神様どうか同級生にこれを書いているのがバレませんように』と思っていたもの。
やがて演奏が終わりケツァルコルトニーが一礼すると、観客達は一斉に拍手し、彼の前にある空き缶めがけて小銭を投げ入れる。
……結構な量があるわね。学費を払うのは無理だろうけど、自由に使う分には十分な額よね。
「あっ、そろそろお店に行かなきゃいけない時間です」
「あら、そうですわね。着替える時間も入れたら……あんまりお腹すいていませんが」
……アリアンローズ、いっぱい食べてたもんね。




