22「やばい人と同室になったのです……」
聖アリストテレス学園は王族だからといって贔屓したりはしないとは訊いていたけれど、それは寮に関しても含まれるとは、流石の私も見抜けなかったわ。
まあ流石に庶民と一緒に過ごさせるのは無いらしいけど、それでも男爵の子供と王族が同室になる可能性のあるという、一風どころか他に例が無いぐらい変わった決まりがある。
一人部屋? 感染症にかかったら入れるよ、やったねたえちゃんという感じですわ。
……さて、問題があるとすれば、私の同室相手。
「……あの」
「ああああああ、やだやめて近づかないで! 虫が、やだっ虫やだっ!」
本来は綺麗であろう黒く長い髪をかき乱し振り回し、くまが目立つ顔が恐怖に歪んでいる。瞳を痙攣させガクガクと口が震え、注射痕が点々と残る腕を振り回している。
……うん、ヤバいわここ。というかヤバいわあの娘。
「虫、いませんわよ……?」
「毛虫!? やだ、やだ! 痛いよ、痛いよぉ……ああああああああああっ!!」
何も無い部屋の隅でがたがた震えていたかと思えば、突然腕をぶんぶん振るう私の同棲相手。
勿論虫なんていない。というか、そんな欠陥構築をこの学園がする訳が無い。つまりあの娘が見えているのは幻覚で、何故幻覚が見えているのかというと……まあ、私の足下に転がっている、空箱のせいね。
ラベルには大麻って書いてあるし。はい直球ストレートでアウトよこれ。どう考えても原因これですわね本当にありがとうございました。
……実際、あの娘のベッドにパイプらしきもの転がっているし。
「お願いします助けてごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「……よし」
見なかったことにしよう。
私は運び込まれていた荷物を整理しようともせず扉の外へと避難した。
そりゃあ、数々の苦行を経験してきたわよ。でもね、ああいうのとの対人経験なんてある訳ないわよ。
「あれ、どうしたのお姉様」
私が廊下でさてどうしようかと悩んでいると、ラストから声を掛けられる。
「どうしたのって……まあ、見てみて」
「えっ、あの、ボク一応男だけど……」
「いいから」
ラストの腕を掴んで無理矢理私の悪夢の巣を見せる。ええい抵抗するな生娘じゃあるまいし、先っぽだけ! 先っぽだけだから!
「みっ、見るな! なんでみんな私を見るんだ! やめろ! 見るなあああああああっーーー!!!」
ラストは静かに扉を閉める。
そして、私の肩に手を置いてこう言った。
「ドンマイ☆姉さん」
「ぶっ飛ばすぞお前」
他人事だと思いやがって。