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第十九話 罠

扉には鍵がかかっていた。


「……開かないわね」

「じゃ、帰りましょうか。皆さん、撤収~」


私が宣言すると、皆が出口に向かって歩き始める。


「そんなわけないでしょっ!ハンナ達もなに帰ろうとしてるのっ」


ローミが扉と格闘しながら大きな声を出した。


全員で顔を見合わせ……、仕方ないから扉の前に戻る。


帰ろうよぉ、これはもう中に入るなってことだよぉ……。


「……もうこれは扉を破るしかないわねぇ」


ローミは後ろにいた軍人たちに言う。


「この扉、破ってちょうだい」


彼らは顔を見合わせ……。背中にモーニングスターを背負った、ガタイのいい男性が前に出た。


「お待ちください、ローゼマリー様」


発言したのはゲルダだ。


彼女は扉近づき、丹念に調べていく。鍵穴をのぞきこみ、懐からなにやら長い針のようなものを出して差し入れた。


ガチャン。


鍵の外れる音がした。ゲルダがノブを回すと、扉が開く。本当に何者なのよ、ゲルダ?


「……あなた、つかえるわね。どう?うちに転職しない?」


感心してローミが言う。


私はあわててゲルダの腕にしがみついた。


「絶対ダメ。」


目を怒らせてローミを見ると、彼女は肩をすくめた。


「仕方ないわね。

では、行きましょうか」


扉を大きく開くと、暗かった中が一瞬で明るくなる。まっすぐ続く通路に等間隔に据え付けられたランプに火が入ったのだ。扉の開閉に連動するよう、魔法がかけられているようだ。


ローミは自分の城にでも入場するように、躊躇ちゅうちょなく中に入っていった。すぐそのあとを、ハンナが警戒しつつ従う。


私はゲルダと顔を見合わせると、ため息をついてローミの後を追った。




ある程度進んだとき。


ローミが一歩踏み出すと、横の壁から矢が飛んだ。


彼女は腰の長剣を一閃いっせん、それを切り落とした。


すごい……。


ローミの剣の腕、初めて見た。もしかしてものすごく強いんじゃないの?


ハンナがあわててローミの前に出る。


「姫様、私が先行します」

「いいのよ、ハンナ。わたくしが行きます。

だって、とってもワクワクするんだもの」


目を輝かせて先を歩く侯爵令嬢。ジェットコースターとか好きなタイプか……。


ハンナや護衛は明らかにハラハラしている様子で、何かあったら前に飛び出せるようローミの後ろにぴったりとついている。


なんか大変そうですね、無茶する主人を持つと……。


私は彼らに同情しつつ、その後を追った。





途中落とし穴とつり天井が落ちる罠があったが、難なくそれを避けてローミは先に進んだ。


「でも、守護獣モンスターとか転移の魔法陣とか、高度な罠があると思ったんだけど……ぬるいわねぇ。あまり大した物は守ってないのかもしれないわね」


ローミがつまらなそうに言う。


いや、十分スリリングでしょ。ゲームキャラのHPとかじゃなくて、本当の命がかかってるんだから……。


先に扉が見えた。一番最初の入り口と同じものだ。


「ゲルダ」


ローミが呼ぶ。って、彼女はうちの使用人なのっ、こき使わないで……。


ゲルダが私をうかがうよう見たので、仕方なくうなづいて同意する。


彼女は、また丹念に扉を調べるとさっきと同じように開錠した。


「さあ、これで終点ゴールかしらね?」


ローミは喜々として扉を開け放った。





中は大広間だった。シャンデリアやランプに一斉に明かりがともる。


両側の壁はガラスで、日の光差す海底が見える。魚の集団が通り過ぎて行った。その後を大きなさめみたいなのが追いかける。まるで水族館みたい……。


正面はガラスではなく装飾された壁だったが、真ん中の大きな丸い窓にステンドラスがはめられていた。


皆はきょろきょろとあたりを見回す。


「これは、なんとういう……」


誰かの口から、感嘆のため息とともに漏れ出る言葉。


その時。


大きな音を立てて、入ってきた扉が閉ざされた。


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