優奈の力の範囲
男が放った死の呪いの言葉に、一瞬、俺の心臓が止まりかけたが、すぐに効いていない事を確認した。優奈のいる場所では効かない。俺はモップを持って、襲い掛かった。
「うぉー」
雄たけびと共に、男の頭上にモップで鉄槌を下す。
あの力が効かなかった事で、戸惑い気味の表情だった男が、俺のモップを横によけると、俺に殴り掛かってきた。
長い柄が邪魔になって、すぐに次の攻撃にも防御にも移れない。
俺は手にしていたモップを離して、男の右こぶしを横になってよけた。狭い教室、机が俺の体にあたって、俺は少しよろけた。
「くっ」
しかめっ面で体勢を立て直そうとした時、男の鳩尾に拳がめり込んだのを見た。
どちらかと言えば、細い腕。しかも、白い肌。
若原さんだった。
男はお腹を抱え、よろめきながら呻いている。
今だ。
俺は両手を固く結んで、振り上げると、前かがみで呻いている男の後頭部にその拳を振り下ろした。
床に突っ伏した男。俺はその上に馬乗りになって、男を取り押さえた。
教室の中に歓声が沸き起こった。
「若原さんって、すごい!」
「若原さん!」
突っ伏した男を馬乗りになって、取り押さえている俺への声はないじゃないか。
「ううん。高橋君が勇敢に戦ってくれたからよ」
その言葉に俺は若原さんの方に目を向けた。
「ねっ」
そう言って、にこりと微笑む若原さん。俺の心がとろけちまうじゃねぇか。
「そんな事ないっすよ」
俺は照れながら、そう言った。
「きっと、あの力を持った男のはずなのに、翔君は怖くなかったの?」
若原さんがしゃがんで、俺に顔を近づけながら言った。
「あ、ああ。今もこいつ力を使えなかっただろ。
ここでは使えないんだ」
「ここって、教室?」
「誰にも言わないでね。
優奈ちゃんの近くでは。理由は分かっていないんだけど」
迷ったが俺は小声で若原さんにそう言った。衝撃の事実にてっきり驚くかと思っていた俺の予想は見事に外された。若原さんはそうなんだぁと言う感じで、数度頷いただけだった。
やがて、男は警察に引き渡され、校舎を出て警察署に連れて行かれることになった。校門の外では飯田が待ち構えていて、力が使えるタイミングを見計らっていて、力が使えるようになった瞬間に、男は心臓を握りつぶされて死に絶えた。その場所は校庭の中ほど。優奈があの力を無効化できる範囲はそれほど狭くもなく、広くもないものだった。
徐々に分かってきた優奈の無効化の力。でも、力の源は一向に掴めないでいた。そして、どうしてなのか、この手の力を持つ者は増え続けている。今日襲ってきた者はこの前優奈を襲おうとした者とは違うらしい。どう言うきっかけで、力が使えるようになるのか。それが源につながる鍵だと分かってはいたが、見つけられないでいた。




