優奈を殺しに来たって?
「あっ。
お前は北村」
優奈のお兄ちゃんが言ったその名で、俺も思い出した。優奈がスマホで見ていた番組でやっていたあの力が使える男ではないか。
「おい。
警察に電話して、応援を呼んでくれ。
それと、優奈は絶対家の外に出すな」
俺はその言葉に慌てて優奈の家に飛び込み、警察を呼んだ。
深夜の住宅街の静寂を打ち破るパトカーのサイレン。警察はすぐにやって来た。異様な気配に近所の住人達は起きだし、家の窓から顔を出して、何事かと様子をうかがっている。
俺の家の前に一台のパトカーが停車すると、警官たちが降りてきた。
その警官たちに北村の身柄を渡すと、優奈のお兄ちゃんが事情を話しはじめた。俺はその様子を優奈の家の玄関の前で眺めていた。回転したままのパトカーの赤色灯の明かりが時々、俺の顔を赤く照らし出す。
優奈に実害は無かったが、事件を知って怯えているんじゃないだろうか。何しろ、今日一度襲われている訳だし。優奈の事が心配になって、優奈の家に入ってみようかと、優奈の家の玄関のドアの取っ手に手を添えた。
優奈のお兄ちゃんが飛び出してきた訳だから、鍵は開いている。そう思っていたが、甘かった。きっと、この物々しい雰囲気に優奈のお母さんあたりが、鍵をかけたんだろう。ぴくりとも動かず、優奈の家の玄関ドアは俺のために開いてはくれなかった。
仕方ない。そう思って、俺が再びパトカーに目を向けた時、優奈のお兄ちゃんはもう戻って来ようとしていた。
早っ!
そして、北村は一台のパトカーの後部座席に押し込まれようとしている。北村を乗せると、そのまま走り去るのか。そう思っている内に、優奈のお兄ちゃんは俺の横までやって来て、並んで立ち止まった。二人並んで、パトカーに視線を向けている。
二人並んでいたいとは思わないが、並んでしまった以上、俺には聞きたい事がある。あまり話したくない相手だが、そんな事は言ってらんない。
「あの、すみません」
俺の言葉に優奈のお兄ちゃんが振り向く。
「教えて欲しいんですけど」
優奈のお兄ちゃんは黙って俺を見つめている。
「昼間に襲ってきた奴も、異能の持ち主だったんですよね?
あの北村もですよね?
どう言うことなんですか?
ただの偶然なんですか?」
優奈のお兄ちゃんは少しの間黙っていた後、話し始めた。
「昼間の男、岩下と言うのだが、あいつの自供によると、優奈を殺しに来たらしい」
「な、な、何でですか?」
偶然ではなく、意図的に優奈を殺しに来た。俺はその衝撃的な話に、声が上ずってしまった。
「とにかく、優奈が憎いんだそうだ。
殺したいくらい」
「どうしてそこまで?
優奈ちゃんが、どうしてそこまで憎まれなきゃなんないんでか?」
優奈のお兄ちゃんが一瞬俺を睨み付けた。が、すぐに俺の問いに答えてくれた。
「岩下自身にも分からないらしい。
まだ、調査中だが、岩下と優奈はそれまでに面識も無かったはずなんだ。
憎む理由もない。
北村の話が聞ければ、何か分かるだろう」
面識もなかったら、どうしてそこまで優奈を憎むんだろうか?
俺が悩んでいると、優奈のお兄ちゃんが俺の両肩に手をかけて、真剣な表情で語りかけてきた。
「とにかくだ。
なんとしても、優奈を守る気だが、学校の中までついている訳にはいかない。
そこでだ。君に頼みたい。
妹を守ってやってくれ」
俺は少し考えた。
優奈を守るのはそもそもこの人ではなく、俺の仕事だ。その当然の事をやって、この人の俺に対する好感度を上げられる事になる。一石二鳥とはこの事じゃないか。
「はい。
任せてください」
俺が元気よく、そう言うと、優奈のお兄ちゃんが頼んだぞと頷いた。
やったぁ。
そう思った時、俺にはとんでもない事を見落としていた事に気付いた。
「で、で、でも、そいつらって、あの力を持っているんですよね?」




