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逃亡と星空の夜

「ルべリア様、よく頑張りましたね。根回しまで、この数週間よく耐えました。さ、準備は出来ましたよ」


 私は頑張りました。

 春の三の社交会で、見事に悪役を演じきったのです。

 けれど、私は婚約破棄までの根回ししかしていません。

 当てはあるのでしょうか……。


「では、取り敢えず旧都シゼル近くの森へ身を隠しましょう。魔獣も少ないですから、比較的安全です。野宿の覚悟だけしておいてください」

「そ、そうですよね。さすがにもう伝手を見つけたわけでは……」

「見つけましたよ?」


 何を言っているんだと言わんばかりに、ハイテはコテリと首を傾げました。

 仕事が早いのは良いことですが、早すぎませんか?


「さ、追っ手に捕まる前に逃げましょう。王宮直属の騎士団はお強いですよ? 『群青の騎士』でしたっけ。馬鹿馬鹿しい……そのようなものに国色を使わないでいただきたいです」

「ハイテ、あなたが私に使える前に所属していた騎士団ですよね?」

「……同族嫌悪、でしょうか。今でも敵を見ると今すぐ斬りかかりたくなる衝動に駆られるのですよ。一種の副作用でもあるでしょう」


 同族嫌悪、ですか。

 もしや私に仕えていたせいで、ハイテは騎士団嫌いになってしまったのでしょうか。

 私がそう言葉に詰まった瞬間、怒鳴り声のような大声と足音が聞こえてきました。


「おい、ここがあの女の部屋だ! フォイゼン、叩ききれ!」

「待ちなさい! 中にはルべリア達が……その大剣を今すぐ仕舞え!」


 それは覚えのない太い男性の声と、フィラルド様の声でした。

 太い声は騎士団長のグレゼードのものでしょうか。

 なんて現実逃避をしている間に、扉の外の光景はすぐに見られるようになりました。

 フォイゼン、という騎士がフィラルド様の制止を振り切ってドアを叩き斬ったようです。

 ドアの倒れた先は……私ですか!?


「ルべリア様、失礼なのは重々承知ですがお許しをを!」


 ハイテは、ルベリアの「ベ」の部分ではもう私の体を抱き上げていたのですが……。

 私はドアに潰されると目を瞑って覚悟していたせいで、その時の光景を見ることは出来ませんでした。

 聞こえたのは、私を抱き上げて駆けるハイテの背後の騎士たちが光と轟音とおびただしい量の血に上げる悲鳴だけだったのです。




「ルベリア様、起きましたか?」


 私はハイテのその言葉で自分が寝ていたということに初めて気が付きました。

 目を閉じているだけのつもりだったのですが、疲れていたのでしょうか。

 随分長い時間寝てしまったのでしょう、城が見えないところまで来ているようです。


「ハイテ、おはよう。もうシゼルの森には来たのかしら?」

「そうですね。ルべリア様が陽刻の終わりから三鈴(みつすず)分寝ていましたから、十分すぎる時間でしたよ


 一鈴(ひとすず)が大体星刻の十二分の一程度ですから、私は夜更けとも言えない微妙な時間まで寝ていたことになります。

 あとから寝られるのでしょうか。


「死んでしまったかと思いましたよ」


 ハイテはクスリと笑って私を見やりました。

 緊急事態……と言えばそんな状況ですが、ハイテはいつものハイテです。


「こ、怖いことを言わないでくださいませハイテ……」


 ハイテは元騎士ですし、なんだか物騒な一面もあります。

 けれど、ハイテも私の侍女です。

 私が「死」に人一倍忌避感があると知って、耐えられるくらいの軽い話でからかってくることもありました。

 私の限界を知っているという意味ではこの上なく有能で、私には釣り合わないような有能な侍女です。


 耳を澄ませると、微風に揺れる木々のや小鳥の声が辺りを埋め尽くしているのが分かりました。

 目の前からはパチパチと爆ぜる薪の音もします。

 静寂に包まれた城やお屋敷とは違い、ここはずっと自然を感じられるような気がしました。


「これで、やりたいこと一つ目は終了ですね」

「えぇっ!? 確かにそれはそうですが……」


 ハイテが言っているのはきっとリスト一つ目の「焚火を囲んで夜を過ごす」のことだと思います。

 けれど、こんなドタバタ状態で達成したとは到底思えません。


「一つ目だけ何故か力が入って情緒的だったのが面白かったです」

「そのような感想などいりません!」




「……ここは空気がとても綺麗ですね。愚鈍な貴族たちの吐きだす息を吸わなくて済む、良い場所です」


 おもむろにハイテが口を開け、そう言いました。

 ……ハイテは思想が強くありませんか?

 二十年間一緒に居た身としては、気づかなかったことに驚きです。


「確かに私もここは良い場所だと思います。灯りで見えなくなっていた星空が、こんなに鮮やかに見えているのですよ」


 白い星、青い星、赤い星。

 星は全て同じものだと思っていたけれど、こうして見るとはっきりと違いが分かりました。 


「星にも名前を付けてあげたいですよね、ハイテ」


 ハイテは面白がるように片眉を上げ、答えました。


「太陽と月以外の星に名前を付けるのですか? 面白いことを言いますね、ルべリア様は……ルべリア、様……そういえば、ルべリア様の名前と容姿を変えなければなりませんでしたね。わたくしもですが」


 ハイテは一度私の名前を呼んだ後、そう言いました。

 そういえば今は逃亡中で、騎士団に狙われていたところでした。

 伝手を見つけたと言っていましたが、平民になるなら貴族らしい響きは消さなければならない気がします。

 私、平民の名前の付け方は分かりませんが……。


「西国の地に住む名誉男爵夫人の養女であり愛娘。それがルべリア様、あなたです。貴族らしい響きの名前でも不思議はありませんし、侍女もいるでしょう。金力もそこそこあると思われます」

「その男爵夫人というのは?」

「実在してらっしゃる方で、ミュラーティ男爵夫人とおっしゃいます。因みにルべリア様は、ヴァイツェン商会の娘という設定ですよ」


 どれも聞いたことがある名前で商会です。

 ミュラーティ男爵夫人はあの複合魔術を作り二重詠唱の手間を無くした偉大な方ですし、ヴァイツェン商会はそれに関係する魔術陣を刻んだ商品を販売している貴族向けの商会です。

 にしても、何故私がそこの娘だということになっているのでしょうか?


「買い取りました」


 不思議そうな顔をする私を見て、心中を読んだかのようにハイテは正解をくれました。

 買い取った、ですか!?


「い、いくら使ったのですか!? まさか、煌金貨を使ったのでは……」

「一つの商会に国家予算の八分の一も使いませんよ。それに、そんなお金ありません。せいぜい金貨十枚分でした」

「さ、先程に比べると……ではなく、それでも大金です!」


 私、いいえ国家にさえ悟られずにそんな大金を動かしたのでしょうか。

 疑問符が飛び交って仕方がありません。


「では、お名前と容姿を変えましょう。良い案がいくつかあるのですが……」




 残り、リストは100。

二話目ですよ、記念すべき二話目です!

(焚火の話は、ルベリア様のやりたいことを完全に全てはできていないようなのでカウントしていません)

プロローグより1000字増やせただけで大満足です。

あ、できれば短編の方ものぞくだけ覗いて行ってくださいね!!!

少しでも良いと思ってもらえたら評価コメント気軽にお願いします!!!!!


※ちょっとだけ初めの説明(?)を足しました

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