プロローグ
わたくしの主ルベリア様は、辺境の地を治めるコレイン伯爵家の第二夫人の娘です。
魔力に乏しく、一族の中でも立場の弱いルベリア様に侯爵家からの縁談が回ってきたのは、奇跡ともいえる事でしょう。
お相手は王宮で代々、王子の教育係をしているライフィステ侯爵家の三男、フィラルド様です。
上位貴族との繋がりを持ちたい伯爵家と、一族を増やしたい侯爵家で利害が一致し、婚約は即座に決定しました。
そんなルべリア様から婚約破棄の相談を受けたのは、婚約が済んでから二か月後のことでした。
「ねぇ、ハイテ。私、フィラルド様との婚約を破棄したくて……」
「フィラルド様に何かされたのですか? それとも、唆されましたか?」
フィラルド様はお優しい方だと存じていますし、何よりルべリア様を大事にして頂いています。
わたくしはルべリア様からそんな相談を受けたことに、心底驚きました。
「その……フィラルド様と婚約式を挙げた頃から、お姉さまたちからのあたりが強くなって……」
「レーヴェラ様やタイレーン様からですか?」
確かに、親の決めた相手と結婚しても、一つも利益を出すことが出来なかったレーヴェラ様たちから妬みや僻みを受けるのは想定内でもあります。
ですが、今思えばあの一族会議ではルべリア様の考慮を一つもしていなかった気がいたしました。
元々、子を産ませるための政略結婚ですから、当事者たちの意見が採用されなかったり、あるいは重要視されないのはよくあることです。
それは、レーヴェラ様方も同じですが……婚約者に目に見えて優しくされているのは、ルべリア様だけですから。
「それにですよ、ハイテ。なんだか、フィラルド様が優しすぎる気がするのです。私が何もしなくても物事が進んでいくのに、少し引っ掛かりがあって……」
優しすぎる。
そのような意見を聞いたのは初めてで、思わず表情に出してしまいました。
ルべリア様は驚く私に頭を下げて一度謝り、お茶を一口飲んでまたこちらを見やりました。
「私、もう五年後には死んでしまいますし」
「ルべリア様、あのような呪術師に騙されては……」
「けれど、日に日に体が重くなっているように感じていて……」
ルべリア様は十年ほど前にとある呪術師の怒りを買い、十五年後に死んでしまう呪いをかけられました。
あれからもう十年も経ってしまった今、ルべリア様は心配のあまりその呪いを信じ込んでしまったようです。
呪術師は金さえ積めばなんでもすると、国内外問わず噂を立てているようですが……。
ルべリア様は自身やその周辺のことについてとても敏感です。
嫌な予感が頭を過りました。
「……では、婚約破棄のお話ですが。婚約破棄をするといっても方法があるでしょう? 正規の方法で契約を解消する方法。公の場で相手の罪状等を並べて勢いのまま破棄する方法。フィラルド様は罪を犯している様子もありませんから、前者が一番効果的且つ確実と思われます」
「ハイテはよくそこまで協力してくれるのですね」
「二十年間支え続けた主ですよ? 主の願いを叶えるのは、側近として侍女として当然ではありませんか」
そう言ったわたくしに、ルべリア様は安心したような心の底からの微笑みを浮かべました。
その笑みに釣られて笑ってしまうのは、皆共通だと思います。
「私、フィラルド様を悲しませたくありません。本当にお優しい方ですから。だから、悲しませるというより憎しみ、でしょうか……悪役を演じれば、まだ結婚していないということで立場が対等ではありませんから不敬にもなり得ますし、そうなれば一族の一員から簡単に抜け出せます」
「つまり、ルべリア様は平民になりたいということですか?」
確かに貴族でいるより、一介の町娘の方が自由度は高いです。
ルべリア様は私の言葉にうなずきましたが、先程とは打って変わって愁いを含んだ表情をしていました。
「その……ハイテはコレイン家の傍系として、一族に汚点を残すのは嫌ではありませんか?」
「いいえ。わたくしはルべリア様の侍女です。ルべリア様が生まれたときから、ずっと」
「……とても心強いです。ありがとう、ハイテ」
その後は婚約破棄根回し作戦を二人で練ったり、ルべリア様の手帳に書いてある「やりたいことリスト」というものを見せて頂きました。
まるで令嬢とは思えないような内容ばかりでしたが、とても微笑ましくてつい笑ってしまいます。
最後の百のことが空白だったことをいくら問うても、答えは返ってきませんでしたが……。
最後まで読んでくださりありがとうございました!!!!
プロローグということで字数は少な目に書いています。
頻度は頑張って週六、七程度かな~……
もし少しでも良いなと思ってくれれば評価やコメント気軽にお願いします!
※誤字、誤字が……!




