第四十九話 《大罪》との再会
「おい、シグ。何やってんだ?」
「カイ! 聞いてくれ! 僕にぶつかってきた者が謝りもせずに、しかも僕の事をチビだと言ったんだ! この僕をだぞ!?」
思わずため息も出る。
その一連を見ていたヴィユノークが質問してきた。
「お知り合いなのですか?」
「うーん、まあ知り合いというか――」
「好敵手だ!」
そう堂々と言い放つシグの姿は、好敵手とは言い難かった。
否定はしないが……。
「そんな感じだな。こんな会い方するとは思っていなかったが。というか、お前はその程度でキレるなよ」
「僕への不敬な態度、そして侮辱は万死に値する。僕は悪くない!」
「ガキだなあ……。ま、反省しろよ」
「ガキ!? いや、違う、それよりも助けてくれ! このままでは捕まってしまう!」
それを俺に言った所でどうしようもないだろ。
元より自分が引き起こしたものだというのに。
「あのなあ、行動には責任が伴うんだよ。精々数日間の拘置くらいだろうから、そこで反省しとけ」
オレーグと呼ばれた騎士が城の中へとシグを引きずって行った。
「あーー、セレネヴィア様ーー!!」
騒がしいやつだな。
流石自尊心の塊だ。
それが力の根源になっているのだから、仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが。
「い、行きましょうか」
シグのせいで若干ヴィユノークが引いてしまったじゃないか。
俺は決して同類ではない。
そのまま街を歩いていると、またも嫌な気配を感じ取ったが一旦無視する。
今の俺の目的はヴィユノークの護衛であって、わざわざ会ってやる必要も無い。
それに、またどんな迷惑をかけられるか……。
ヴィユノークが立ち止まった。
どうやら目的の本屋に着いたようだ。
本の形をした小さな看板が屋根から吊り下がっている。
ドアを押して中に入ると、カランカランと鈴が鳴り、入店を知らせる。
客はやはり少ないが、それでもいる。
子供向けの簡単な絵本や伝承や伝記、簡略化された魔法知識など様々な本が並んでいる。
ヴィユノークはその中でも、何か目的があったようだ。
レアが色々見たそうにしているので放ってやる。
嬉々として眺めに行った。
可愛いな。
きょろきょろと辺りを見渡して、目的の物を見つけた様だ。
だが、少し高い所にあり、手を伸ばすも届いていない。
「これで良いのか?」
後ろから手を伸ばして、取って渡してやる。
少し俯き、呟くように感謝を述べた。
「あ、あり、がとう、ございます……」
「あいよ」
ちらっと表紙を見たが、昔の英雄の物語のようだった。
グラディウス帝国は強者の国。
昔からそういう人達は多くいるのだろう。
強さに憧れでも抱いているのだろうか。
レアが三冊程の魔法に関する本を持ってきた。
値札を見ると高いが、別に払えない程じゃない。
それに、シルヴァレインに行った際にヴァレンティーナから多くの金を握らされた。
向こうじゃ使い道も無いだろうしな。
ありがたく使わせてもらおう。
レアに金を渡すと、さっと支払って俺の横まで帰って来た。
徹夜しないと良いが。
ムート王国の金は、あくまでも世界共通通貨なのでどこでも使える。
まあ、グラディウス帝国ではあまり使われないらしいが。
ヴィユノークもいくつかの本を吟味して選んだようで、支払いに行こうとしている最中だった。
皇帝の娘であり、次期帝位継承者なら悩まずとも全て買えそうだが。
ヴィユノークなりの信念のようなものがあるのだろうか。
兎に角目当ての物は買えたようで、昼食にする事にした。
普段利用している店があるらしく、その店へと歩みを進めている。
が、先程一旦無視した店がそうだったらしい。
何も無ければ良いが……。
ドアを開けて入ると、やはり中にはシトリーヌがいた。
相変わらず飯を大量に平らげている。
「ん? よお、カイにレア。久しぶりだな」
「久方ぶりだな、シトリーヌ」
シトリーヌがこちらに気付いたので、軽く挨拶をした。
するとヴィユノークが小声で囁いて来た。
「こちらの方もお知り合いなのですか?」
「まあ、そんなところだな。〈エンキュトス〉って場所で会ったんだ」
「カイ様は知人が多いのですね」
「別にそういうわけじゃない。ただ、たまたま会っただけだ。知人なんて呼べるやつは少ない」
俺は社交的な人間ではないので、友人などはほとんどいない。
確かに情報収集がてら初対面でもよく話す事はあれど、あれは酒が入ってるからな。
実際のところ、友人と胸を張って言えるのは《運命の輪》の三人くらいだろう。
「飯にするか。何が良い?」
適当に空いている席に座り、レアとメニューを見る。
もう一つあったのでヴィユノークにも渡してやる。
料理法自体はムート王国と大して変わらないものの、あまり見た事の無い素材を使っている。
「じゃあ、これ」
「そうか。ヴィユノークは?」
「私は、これで……」
受付へ注文へと向かう。
厨房が見えるが、シトリーヌのせいか凄く忙しそうだ。
時間がかかりそうなのでシトリーヌと雑談でもしよう。
「なあ、お前金無いって言ってなかったか?」
「ん? ああ、そうだな。でも、今は結構あるぜ」
こいつが普通の仕事が出来るわけがない。
冒険者としてでも働いているのだろうか?
「グラディウス帝国には闘技場ってのがあんだけどさ、それがすげえ儲かるんだよ。流石にヴォルガを使うわけにはいかないから素手でやってんだけど、それでも今のところ余裕だ。オレはここ一か月負け無しの強者なんだぜ」
そりゃそうだろう。
常人が《暴食》の使い手に勝てるわけがない。
いくら素手とはいっても余裕で勝てるだろうな。
というか、先程から感じているこのシトリーヌに対する視線はそれか。
強者に対する羨望の視線。
素手のみで勝ち上がる圧倒的な勝者への憧れ。
そういえばシグとシトリーヌは分かりやすかったが、一人だけまだ所在が掴めていない人物がいる。
《色欲》のミレイナ。
彼女が一番の危険因子だ。
何をしでかすか分からない。
考えても仕方の無い事だが、頭の片隅には置いておいた方が良い気がする。
料理が出来たようなので雑談を切り上げて受け取り、レア達の元へ戻る。
どうも嫌な予感がするんだよな……。




