第二十一話 帰路を刻むは楔
そのまま順調に第二階層も攻略し、ボスも倒した。
第二階層のボスは下位悪魔であり、闇魔法や精神攻撃などをしてきた。
しかし、レアは闇魔法のスペシャリストであるのが悪魔にとっては不幸だろう。
反魔法で相手の魔法陣を乱し、何も出来ないまま倒れて行った。
正直、第一階層よりも弱かった。
が、普通の冒険者には闇の反魔法など使えるはずもない。
実際過去に戦った時は中々に大変だった。
火力が高い上に皮膚も固く、弱点が首だったので面倒だった。
まあ、俺は特に戦ってないが。
「さて、俺らが行けるのはここまでか。帰るぞ」
「うん。でも、どこから帰るの?」
「各階層のボス部屋には、第一階層の入口付近に瞬間移動する転移魔法陣がある。ほら、あれだ」
先程までボスが立っていた場所を指さす。
煌々と白い光が円と細かい魔法路を成している。
「凄いね。どこにでもあるの?」
「いや、どこにでもあるわけじゃない。だが、大きな迷宮は自然発生する事がある。中には無い物もあるが、国が魔導師を総動員して作成する場合もある」
例えば、俺が落ちたあの【王都地下迷宮ゼーンズフト】。
あれは国が作っている。
「結構すぐ来ちゃったけど、この後は何かする?」
「あー、特にやる事は無いな……。まあ、ランク上げがてら依頼でも行くか?」
「うん。でも、先にお昼ご飯にしよ?」
「だな。こんだけ運動すりゃ腹も減る」
一緒に魔法陣の中へと入り、光に包まれる。
光が収まり、先程の入口付近へと瞬間移動した。
多くの人が出入りしている。
浅い層で稼ごうとしている若い者や、下層まで攻略するための重装備を着けた者、様々な人がいた。
一部の者を除き共通しているのは、皆装備以外は何も持っていないという点である。
基本的に迷宮攻略は数日がかりになるからな。
食糧や寝具などを運ぶために収納魔導石は必須だ。
階段を上り、門番に再度証書を見せる。
そして先程書いた俺の名前に横線を引いた。
このように冒険者の出入りを管理し、十日出てこなかった者がいれば、ギルドに捜索願が出される。
そのため、冒険者には十日以上の攻略は禁じられているのだ。
深さ相応に期間が定められているが、大半の迷宮は十日とされている。
「んじゃ、ギルド行って魔石の買い取りと飯だな」
昼という事もあって人が多いので、レアの手を取って歩く。
少し強くぎゅっと握ってくるのが何とも可愛らしい。
真っ直ぐギルドへ入り、買い取り受付へと向かう。
「魔石の買い取りをしてもらいたいんだが」
「はい、こちらへどうぞ」
受付の女性がそう言いながら容器を出す。
ボスから出た大き目の魔石を除いて他は全て売る事にした。
俺には使い道が無いからな。
「夜哭冥晶ですね。お預かりします」
魔石の入った容器を重量計に乗せ、重さを量る。
「138gなので銀貨46枚になります」
魔石を袋に入れ、銀貨を渡してくる。
十枚束が四つと七枚の銀貨を確認して受け取る。
「また頼む」
「はい、またのご利用をお待ちしております」
そのままレアを連れてエアフォルクへと向かう。
昨日悩んでいた料理のもう片方にするらしい。
俺は適当にステーキ定食で良いかな。
「で、レア。さっきよりも残滓が強くなってる気がするんだが」
「うん。私もそう思う。朝は微かに香るくらいだったのに、今はもう、少し見えるくらいに出て来てる」
【ノクティルム】に入る前にも感じていた《大罪》の魔力の痕跡。
第一階層よりも第二階層の方が強く感じたので、恐らく下層にいるのだろう。
であるならばいつかは出てくるはずだ。
しかし、これ程の残滓が残っているとは、迷宮下層で一体何をしているのだろうか。
何の《大罪》なのかも分からない上に何をしてくるかも分からない。
《大罪》を持っている以上、他の《大罪》を殺す事が目的なのは違いないが。
料理が届いた。
分からない事を考えても無駄なので、とりあえず飯を食べてしまおう。
そう思っていると不意にギルドの扉がバン! と開かれ、一人の男が血相を変えて飛び込んで来た。
「大変だ!! 【ノクティルム】第三階層で暴徒が現れた! 至急対策会議を要請する!」
迷宮で暴徒……?
不気味だな。
通常、迷宮はいくつかの形態を持ち合わせており、下層に行けば行くほど人と鉢合わせる事はそうそう無いのだが。
だが。
「……恐らく《大罪》の仕業だな」
「ん」
レアも分かっていたようだ。
仮に人を操るとすると……。
「ロカ……?」
いや、それは無いはずだ。
俺は王都から遠く離れるために〈ヴァルグレイア〉まで来ている。
なのにロカがいるはずがない。
それに、この残滓はロカの《強欲》とは違う。
しかし、男の一報でギルドがやけに忙しくなったな。
まあ、それもそうだろう。
迷宮で暴徒が現れる事など普通は有り得ないからな。
「レア。どうする?」
「……私が何を言っても、カイの行動は変わらないでしょ。私はカイのしたい事は何でも手伝うよ」
「……助かる」
今度また、何かプレゼントしてやらないとな。
しかしそうなれば話は早い。
だが、恐らくすぐに【ノクティルム】は封鎖されてしまう。
そのため、動き出すのは本隊が向かってからだ。
といっても一般人に被害が出る事は避けたい。
ならば、招集されるであろう本隊に入るしかない。
「まあ、ひとまずは待機だな。さっさと食うか」
「ん。どうやって戦う?」
確かにそれは考えておいた方が良い。
推測だが、人を洗脳するというよりは、思考を奪う力の方が正しいだろうな。
だから暴徒と化しているのは、元はただの冒険者だ。
出来る限り傷付ける事は避けたい。
「あー、そうだな。レアの《嫉茨侵花》で無力化とかは出来るか?」
「出来るよ。毒を付与出来るから、麻痺とか昏睡、魔力撹乱も引き起こせるけど、どうする?」
「まあ昏睡で良いんじゃないか? ただ、問題はそいつらを魔物から守る方法だな……」
ただ眠らせて転がしておいてしまえば魔物に食われてしまう。
ならば、そいつらを守る必要があるのだが……。
俺とレアは《大罪》の元へと向かわなければならないので、そんな余裕などあるはずもない。
俺達の事情を理解して手伝ってくれる者など……。
「……そうか、あいつらに頼めば良いんだ」
《運命の輪》の三人がいたじゃないか。
あの三人なら拘束した冒険者達を引きずって運んでくれるだろう。
「誰に頼むの?」
「エルナ達だ。あいつらなら、俺達の事情を察して手伝ってくれるだろ」
「確かに。でも、エルナ達を危険に晒すの?」
「……それもそうだな」
それは考えてなかった。
何かエルナ達を守る方法は……。
そう考えながら、収納魔導石の中に何が入っていたかを思い出す。
大事な物はそんなに無いので、特に使える物があった気はしないが。
いや――。
「あった、これだ!」
《帰途の楔》。
空間魔法の最上位導師しか作れないため、非常に高価な物。
金貨にして数百枚程の価値がある。
迷宮に楔を打ち込むと空間の亀裂が出来、それに飛び込む事で迷宮入口まで弾かれる。
「それは……空間魔法の魔道具?」
「そうだ。《帰途の楔》といって、緊急脱出用に作られている。万が一の為に買っておいて良かったな……」
まあ、迷宮では魔力の動きが乱れているために、正常に作動しない可能性もあるが。
ちなみに、テスト段階で草食系魔物を入れてみたら半身のみが出てきた事もあるそうだ。
勿論色々と修正されたおかげで今はそんな事は無い……はずだが。
「魔力が凄く不安定な魔道具だね。多分だけど、使わない方が良いと思う」
「やっぱりか……。でも、これ以外に有用な物はねえからなあ……」
「貸して。私が直す」
レア……!!
お前、マジで最高だな。
「ああ、ほら」
と手渡して三秒後にはもう手元に返って来た。
速過ぎないか?
「も、もう終わったのか?」
「ん。魔力統制が取れてなかっただけだから、簡単だった」
どうよ、とどや顔をしているレアの頭をわしゃわしゃと撫でてやる。
目を細めて嬉しそうにするので、つい抱き締めてしまった。
「ちょ、ちょっと、息苦しい……」
レアが苦しいそうなので放してやる。
周囲の視線も集まっていたので、そろそろ落ち着くか。
だが、《帰途の楔》が使えるようになったのは大きい。
これで、安全にエルナ達を退避させる事が出来る。
俺の彼女は何と天才なのだろうか。




