第三十三章 そして、愛の賛歌へ……②
※新しい活動のお知らせ※
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☆★✰*次回作は5月1日です、
よろしくお願いいたします☆★✰*
「お、おはようございます、フェルゼン様」
(くううっ、毎朝のルーチンワークっぽいけど、これはこれでいい感じぃ……)
と、いつもながらにアンジェ(川野)は心の中で叫ぶ。
転生前の川野星流の時は、20代後半で結婚した夫の達郎からも、周囲の男性からも「可愛い」という言葉を投げかけてもらったことは皆無。
それが今では一日最低でも2回は「可愛い」「美しい」「素敵」と、気分が昂揚する言葉とともに熱く見つめてもらえる。
フェルゼン以外のラント国の人間は冷ややかでも、それすら苦にはならない。
すでに身支度を終えていた彼女の後ろ、テラスの窓の外では、黒狼が低い唸り声を上げ、フェルゼンを見つめていた。
フェルゼンは不快感を押し殺し、黒狼から目を背けると、アンジェ(川野)の手をゆっくり優しく握り、
「さあ、行こうか……」と、共に部屋から出た。
廊下を歩きながらフェルゼンはアンジェ(川野)の方を見ると、彼女もフェルゼンの顔を見つめている。
「……王宮にあるピアノはね……もう誰も弾いていないんだ。俺の妹ベル……事故で亡くなった彼女の部屋にピアノがあってね……君が弾いてくれたら、きっとベルも喜ぶと思う」
アンジェ(川野)は何も言わずフェルゼンの手を、ぎゅっと固く握りしめた。
フェルゼンに案内された一室は、王宮の北側に位置する、陽当たりの良い静かな場所にあった。
扉を開けると、部屋の隅々には季節の花が飾られている。
前日、妹ベルの部屋を使うから、整えて欲しいと侍女に伝えたとおり、部屋は整然とし、塵ひとつない。部屋の中央には生前のベルがお気に入りだった白いグランドピアノが鎮座していた。
アンジェ(川野)はピアノを見るなり、「きれい……」と目を輝かせ、「弾いてもいいですか? 」とフェルゼンに声をかけた。
頷くフェルゼンに「ありがとうございます」と一言言うと、アンジェ(川野)は吸い寄せられるように、ピアノ前の椅子へと座わる。
「……亡き王女のパヴァーヌ……フェルゼン様の妹のベル嬢へ、祈りながら弾かせて頂きますね……」
彼女が静かに鍵盤に指を置いた……その時。
フェルゼンの目の前に奇妙な光景が出現した……アンジェの華奢な白い手が、魔法にかけられたかのように、大きく逞しい、男の手に変わったのだった。
(……錯覚!? いや、間違いない、男の手だ……)
驚いてアンジェ(川野)の顔を見るが、彼女は瞳を閉じて、鍵盤に指を置くと、
その指先から美しい調べが奏でられ始めた。




