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第三十三章 そして、愛の賛歌へ……①

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【前回までのあらすじ】

さらわれたアンジェを助けに向かった黒狼ルゥ(ルーク王子)は、異母兄ギルバートが自分と同じように黒狼として生きていたことを知ります。アンジェをめぐる決闘をしていると狩人が現れ、黒狼ルゥは銃弾を受けて滝つぼへと落ちてしまい……


聖女狩りの男らに捕まったアンジェは偶然訪れたフェルゼン王子に救助されますが、彼は一目惚れしたアンジェを口説き、一気に溺愛モードへ……。そこへ黒狼ルゥのフリをした黒狼ギルバートがアンジェを独占したくなり……


--ラント国 アンジェがラント国へやって来て14日目—



ラント国第二王子フェルゼンが、銀髪の少女アンジェ(川野)をラント国へ連れてきてから、早いもので二週間が過ぎようとしていた。

彼は自室の窓辺に立ち、中庭を眺めていた。

視線の先には、朝の柔らかな光の中で、銀髪をなびかせて歩くアンジェの姿。

その傍らにいるのは影のようにぴったりと黒狼が寄り添っていた。



アンジェ(川野)が愛おしそうに黒い毛並みに顔を埋め、抱きしめる姿を見るたび、フェルゼンの胸の奥には、赤ワインの底に溜まる濁った(おり)にも似た不快なえぐみが広がる。

その要因のひとつは先日知った彼女の夜着に示された黒狼の(よこし)まな欲望の残滓(ざんし)だ。



ふっと溜息をついた瞬間、フェルゼンが窓辺から黒狼がよく見える位置で、アンジェ(川野)が足を止めた。

彼女は黒狼の傍らに腰を降ろす。

その頭を撫で始めると、黒狼は、彼女の頬ではなく、わざとらしく彼女の唇ばかりを熱心に舐め回している。

それを抵抗することもなく無防備に受け入れるアンジェ(川野)。



(……あの獣めっ……嫉妬!? まさか、ただの嫌悪感だ)



先週、彼女を元気づけようとハーブの自生地へ誘って、偶然にも遭遇した黒狼。

自分にとっては招かれざる獣だが、アンジェ(川野)はソレを『相棒』と呼び、その『相棒』にアンジェ(川野)と過ごす短い時間まで奪われてしまった。



他国からの来客を喜ばないラント国の使用人たちにとって、銀髪の少女と、昔話にも登場する不気味な黒狼のせいで、”銀髪の小さな魔女”とまで揶揄され、いまだ彼女に対して氷のように冷たい。



こんな時、もっと彼女の側にいたいところだが、ちょうど今年の秋の収穫穀物にかける主税について、近隣の領主や貴族らとの会合が続いていた。

フェルゼンにとって、朝と夜の僅かな時間しか、自分の時間が取れない。



当然ながら、その時間にアンジェ(川野)と挨拶をする程度となった。

自分が接することの出来ない時間、彼女が一人部屋に籠もり、所在なげに本を読み耽っている姿を見るのは、フェルゼンにとって耐えがたい思いでもあった。



「……最近、忙しくて時間が取れない、ごめんよ、アンジェ。君が……何かしたいことがあれば、遠慮せず俺に言ってほしい」



昨夜、就寝前の挨拶に訪れた際、彼は謝罪にも似た気持ちで、アンジェ(川野)へ問いかけた。



彼女は少し考えてから伏せ目がちに答えた。



「フェルゼン様……小さくても古くてもいいので……もしピアノがあれば、弾きたいです」



ピアノ……

フェルゼンは、かつてこの王宮で愛らしく笑っていて、事故死した妹ベルのことを思い出した。

彼女の部屋には、まだ静かに眠っているピアノがある。



「明日の早朝でよければ少し時間を取るから……ピアノのある部屋へいこう」

アンジェ(川野)の顔に花が咲いたような笑みがこぼれた。


 

翌朝早く、フェルゼンが彼女を迎えに部屋のドアの前へ行き、ノックをすると、すぐに扉が開く。アンジェ(川野)は、みるからにそわそわしている。



「おはよう、アンジェ……愛しているよ……」

とフェルゼンはアンジェの額にキスをすると「今日も君は可愛いね……」と一言付け加えた。

いつも読んで頂きまして、ありがとうございます。

次回は5月1日19時に投稿しますので、どうぞよろしくお願いいたします。



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