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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第十二章「逢瀬」
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ヤバい子

 

「アナタには……どうしても知ってもらいたい事があるの」


 メイドたちがライブの練習でバックヤードに戻り、店内は僕と桂そして店長であるエンマちゃんの三人だけとなった。するとエンマちゃんはさっきまでのおちゃらけた表情から一転、真剣な表情で僕にこう切り出してきた。


「彼氏さんだったら、桂ちゃんから昔の話は聞いてると思うけど……」


 相模絵美菜の本名が「鮎川桂」だという事は、カントリバースのメンバーでも知らない……と以前桂自身が教えてくれた。つまりこのエンマちゃんという男性(女性?)は、桂にとって余程信用できる間柄なのだろう。


「たぶんこの子が話してない……私と出会った時の事を教えるわ」


 そう言うとエンマちゃんは、店内禁煙と書かれた店内で煙草に火をつけた。



 ※※※※※※※



「私ね、元々歌舞伎町のバーでママやってたの! でね、ある日の仕事終わり……朝の七時頃だったかしら……建物の陰でうずくまっている十代位の子どもを見つけたのよ……それが、桂ちゃんだったの」


 そうか、この二人は歌舞伎町で出会ったのか。エンマちゃんはポツリポツリと、昔の記憶を保管場所(アーカイブ)から取り出すかの様に語り始めた。


「そしたらね、この子……私にこう話し掛けてきたの! 『ねぇ、私とセックスしない? お金は要らないから』だって……」


 援助交際かよ!? あっでもお金要らないって……?


「衝撃的だったわ……まぁこの街じゃ十代の家出少女とか珍しい事じゃない、援交や立ちんぼをしている子もいる……でもね、朝っぱらから……しかもお金要らないなんて言ってくる子は見た事が無い! 私は瞬間的にこの子が『ヤバい子』だってわかったわ……目も死んでたし」


 ヤバい子……そう言われた桂は、カフェラテを飲みながらまるで他人事の様に聞いていた。メイドが描いた猫のラテアートは既に消えている。

 あれ? でもちょっと待てよ! エンマちゃんはドラァグクイーン……女装してる姿を見てこの人はゲイ、つまり異性に興味無いって思わなかったのかな?


「仕事終わりは普通の(男性の)姿よ~! 髭も伸び始めて……ってや~ねぇ、何言わせんのよぉ~!」


 ……なるほど、そういう事か。


「もちろん断ったわよ! それと同時にね、この子は(セックス)依存症だって気付いたのよ! まだ子どもだっていうのに……恐ろしくなったわ」


 禁煙となっている店内で煙草を吸いながら、エンマちゃんは話を続けた。


「その時ね、私はこの子を『更生』させようって思ったの! まるで天啓でも受けたかの様に……まぁジジィのお節介なんだけどね、そのまま連れて帰ったわ」

「えっ!? まさか……」

「そうよ、ウチに泊めてやったのよ! もちろん未成年を勝手に泊めたらどうなるか位知ってるわよ」


 未成年者を自宅に泊めた場合、例え未成年者本人の同意があっても「誘拐罪」になる事がある。ただ桂の場合……恐らくこの時点で母親が亡くなり、父親も殺人未遂で収監されている。確か親告罪だからこういう場合どうなるのだろう?


「聞けばこの子は毎晩『神待ち』してたって言うじゃない!? その日も知り合った男に捨てられていたそうよ! もぅ、この子ったら誘拐犯製造機ね~」

「誘拐犯製造機……ウケる!」

「ちょっと桂! アンタの事言ってるのよ」


 そういや桂は、家出して毎晩知り合った男の家に泊めてもらい……対価として性行為に及んでいたと言ってたな。セックス依存症の本人は何とも思っていないだろうが……かなり危険な行為だ。


「そりゃぁね、警察に突き出して児相(児童相談所)ってのが一般的な対応よ……でもね、何となくわかるのよ! この子、絶対に脱走するって……そしたら同じ事の繰り返しじゃない? それじゃ駄目なのよ」


 確かに……合法か違法かは別にして、桂の様なタイプの人間へ四角四面のマニュアルに則った対応が適切とは考えにくい。


「丁度この時ね、友人からアキバでメイド喫茶の店長やらないか? って話があったの! 良い機会だったから引き受けたのよ……この子を連れて」

「えっでも! その時って桂は中学生じゃ……?」

「そうよ~まだバイトも出来ない年齢……しかも当時のアキバってJKリフレが流行り出して警察が目を光らせていたのよ! だから()()の桂ちゃんはずっと()()、接客なんて絶対無理~!」


 時々笑えないギャグを交えながら、エンマちゃんの話は続く。


「警察に目を付けられないため必死だったわぁ……アルコールは出さない、深夜営業はしない、メイドは全員十八歳以上……全て桂ちゃんのためだったのよ」

「お陰で料理の腕だけは上がったよ!」

「だけじゃないでしょ!? この子が中学を卒業した年になったから、メイドとして初めて人目に付く仕事をさせたの……そしたらあっという間に一番人気のメイドになっちゃって……」


 そうだったのか!? 当時から人を寄せ付ける才能があったのかな。


「でもってある日、店の前でビラ配りさせていたらこの子がもの凄い勢いで戻って来たの! どうしたのって聞いたら名刺を持って『エンマちゃーん! 私、スカウトされたー!』ってもう大騒ぎ! そうしてこの子はアイドルになったのよ」

「そうだったんですか」

「私もビックリ! でもあの時の桂ちゃんの表情は一生忘れないわ~!」


 深刻な表情から一転……今度は嬉しそうな表情をしたエンマちゃんの話が一通り終わると、桂はトイレに行くと言って席を離れた。店内はエンマちゃんと二人きりに……すると彼(彼女)が僕に話し掛けてきた。


「ねぇ彼氏さん、えーっと……」

「……鶴見です」

「鶴見さん、スカウトされたって話……あの子から聞いた?」

「え、えぇ」

「何か言ってなかった?」

「何かって……?」

「アイドルのスカウトって言ってた?」


 あぁ、もしかしてあの事か?


「いえ、最初はAVのスカウトだと思ってたと……」


 それを聞いたエンマちゃんは、目を閉じて軽く溜息をついた。


「そんな訳ないでしょ~! 当時あの子は十五歳、そんな子どもをスカウトするAV関係者なんて居る訳無いわよ!」


 だろうね……僕も薄々感じていた。


「あの子にとってアイドルは天職よ! そしてあの辛い過去から逃れられる唯一の方法なの! でも、わかっていると思うけど……アイドルなんていつまでも続けられる仕事じゃない……」


 その時! 突然エンマちゃんは僕の手を握ると、思いもよらない事を告げた。


「その時はね、アナタの存在が必要なの! あの子を心の底から愛してくれる人が必要なのよ!」


 ――えっ?


「あの子はね、体ばかり求められて心から『愛される』事が無かったの! 犯されて……見捨てられて……弄ばれて……そんな時、アイドルになって初めてファンから『愛される』って事を知ったのよ」


 そうか! 担任から性欲の捌け口にされ学校から見捨てられ、家出先でも体だけ求められて……唯一の理解者だった両親も居なくなり、桂は誰からも愛される事が無かったんだ。


「あの子が認めているんだから間違いない! アナタは桂ちゃんを愛している……だからお願いします! あの子の事……アイドルを引退した後もずっと愛してやってください!」


 エンマちゃんは僕の手を握りながら、目に涙を浮かべていた。この人は桂がどん底に堕ちた時の姿を知っている……だからここまで真剣に心配しているんだ。


「お待たせ―! あれ? 何話してるの?」


 僕がエンマちゃんに返事をしようとしたら桂がトイレから戻って来た。


「チッざんね~ん! イイ男だから口説こうと思ってたのに~!」

「ちょっとぉ! 止めてよね人の彼氏を捉まえて……」


 エンマちゃんは精一杯の照れ隠しをした。その時……


「エンマちゃーん! 練習終わりましたー! いつでもOKでーす!」


 バックヤードからメイドたちの声が聞こえた。ステージの準備が整ったらしい。

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