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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第十一章「葛藤」
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顔見りゃわかる

 

「じゃあ待ってるぞ!」


 ――えっ?


 僕と桂の住むアパートに突如現れたカントリバースのチーフマネージャー・千曲栄さん。彼女の目的は新事務所を立ち上げ、桂こと相模絵美菜や他のメンバーに声を掛けグループを全員移籍させる事だった。

 だが桂は、僕との関係を優先したいという理由でその誘いを断った。しかも芸能界を引退するとまで宣言してしまった。


 ところが! 桂の話を黙って聞いていた千曲さんは、何故か桂がカンリバに「復帰したい」という真逆の解釈をした。どこをどう切り取ったらそういう解釈になるのか僕には全く理解出来ない。


「じゃ、遅くまで悪かったな……それとビナ(相模絵()())! テメーいつまでも既読スルーしてんじゃねーぞ!」

「やだよー! 私、引退するからもう関係無いしー」

「ったく、このガキゃあ……」


 と捨て台詞を吐いて千曲さんはアパートを出て行った。僕は千曲さんが何故そう思ったのか気になったので後を追った。そういや間違った解釈されている筈なのに桂も全く気にしていない様子だ……何なんだ? 僕の常識がおかしいのか?



 ※※※※※※※



「あ、あのっ!」


 僕がアパートの外に出ると、千曲さんは路駐していた黒い高級国産車のエンジンを掛けていた所だった。僕の声に気付いた彼女はパワーウィンドウを開けた。


「おーどうした()()

「ちょっとお聞きしたい事が……」

「おぅ……何だ?」


 千曲さんはエンジンを切り、わざわざ車から降りて話を聞いてくれた。


「何で桂がカンリバに復帰するって思ったんですか? だって彼女、はっきりと辞めるって……芸能界引退するとまで言ってるじゃないですか?」

「何だ、オメーはビナを引退させて自分専属のアイドルにしたいってか?」

「い、いえ……別にそういう考えじゃ」


 むしろアイドルを続けて欲しい位だ。


「真逆のこと言ってるじゃないですか!? なのに何故……?」


 すると僕の言葉を聞いた千曲さんは、まるで僕の事を嘲笑うかの様に「プッ」と吹き出した。僕は何かおかしいこと言ったか? 所謂「ギョーカイ人」はやっぱ感覚が狂ってるのかな?


「オメ―、アイツと付き合ってどの位経つんだよ?」

「えっ、こっ恋人……みたいな形で付き合い始めたのは一週間程前で……」

「何だ、まだ付き合ってるって段階じゃねーな! 仕方無い、教えてやるよ」


 いつの間にか煙草を吸っていた千曲さんはふぅーっと煙を吐くと、


「そんなもん、アイツの顔見りゃすぐわかるわ」

「え?」


「ビナはなぁ、本当に嬉しい事があると……鼻の穴が微妙に広がるんだよ」


 え? そうなんだ……ってかそんな所を見ているのかこの人は?


「もちろん、ビナ以外のメンバーもそれぞれ特徴あるからな! ま、テメーが担当するタレントの本心くれー見抜けなかったらマネージャー失格だわ!」

「そ……そういうモノなんですか?」

「たりめーよ! ああいうガキどもは得てして本心を言わねぇ、だからと言って望まねぇ仕事を与え続けるとメンタル崩壊……何て事になる!」


 そっか、タレントやギョーカイ、スポンサーなど様々な人とコミュニケーション取れなければマネージャーは務まらないのか……ただスケジュール管理だけ出来れば良いって問題じゃ無いんだな。


「じゃあな彼氏! 家ではビナをしっかりマネジメントしてやれよ」

「あっはい、千曲さんもお気を付けて」

「近いうちにビナ借りるぞ……あっそうそう彼氏!」

「えっ、あっはい?」

「駐輪場にある自転車(チャリ)、あれ元事務所の備品だから返さねーとマズいぞ」


 げっ! そういえば……あれは桂がここへ来る時に乗っていた自転車だ。


 こうしてチーフマネージャーの千曲さんは帰っていった。ちなみにこの後、三件も取引先との「飲み会」が控えているそうだ。



 ※※※※※※※



「おーい桂! 駐輪場の自転しゃ……」

「はい……そうですか、わざわざ教えてくれてありがとうございます……では」


 アパートに戻ると桂が電話していた。何も知らないで話し掛けた僕は思わず口を手で押さえた。友だち? それともカンリバメンバー? それにしては桂の口調が丁寧過ぎる……相手は誰なんだろう?

 まぁいくら付き合っているとはいえ、余計な詮索は避けた方が良いだろう。僕がそう思っていると、少し深刻そうな表情をした桂が僕に話し掛けてきた。


「病院から電話あったんだけど、アイツ……死んだって」


 病院? アイツ? 死んだ? 何の事? 僕が状況をまだ理解出来ずにいると


「もう六年も植物状態だったってのに……何でこのタイミングかなぁ?」


 ――思い出した!


 かつて中学生だった桂に性的暴行を加えたという元・担任教師だ! その後、逆上した桂の父親に車で轢かれて植物状態だと聞いていた。


「えっ、病院ってそんな個人情報教えてくれるの?」

「まさか! 普通は駄目でしょ」


 桂の話だと、中学で同級だった女性がその病院で看護師をしているのだそう。本来は個人情報だが、被害者だった桂にこっそり教えていたとの事。

 だが看護師になった元女子生徒にとって、その担任だった男は「優しくて面倒見の良い先生」だったそうだ。なので騒動が起きた当初は桂の事をとても恨んでいたが、やがてこの元担任の悪事が次々と明るみになると、桂と和解して協力する様になったらしい。


「はぁ……でも何か思ってたのとは違ったわ」

「思ってた……って?」

「本当なら朗報! シャンパンで乾杯したい位おめでたい事なのに……」

「そっ、そうか?」


 ……死んで喜ばれる様な人間にはなりたくないな。


「でも、嬉しくない! かと言って悲しくもない! 何か虚しいっていうか、何とも思わない……何でだろう?」


 桂、そして桂の家族にとって元担任の死はある意味「復讐」が達成されたと同じに違いない。だが復讐をテーマにした創作物と違い、達成しても桂の心がスッキリ晴れ渡る事は無かった。

 復讐の目的は被害者の心が「幸せ」になる事。結局、加害者が死んだ所で一生その「罪」が死ぬ事は無い。それよりも今の桂はアイドルになり、そして僕と恋人になった。もしかしたら関係無い所で得た「それ以上の幸せ」が過去の傷を癒す一番の薬だったのかも知れない。いつか僕にもそんな日が……そう思っていると桂がポツリと呟いた。


「まぁ誕生日前に朗報が聞けたのは良かったって事で」


 ――誕生日?


「えっ、桂ってもうすぐ誕生日なの?」


 そういやお互いの誕生日とか気にした事無かった。


「えっ、何? まっくん! カンリニン(カントリバースファンの通称)のクセにメンバーの誕生日覚えてないの!?」

「えっ、あっ……」


 機嫌を損ねた桂の表情を見た僕はしどろもどろになりながら思い出した! 桂こと相模絵美菜の誕生日は……


「十二月二十五日だ!」

「もしかして(推しの)渡良瀬碧(ぐりん)の誕生日しか興味ないって?」

「いやいや! そういう訳じゃ」

「そうよ、クリスマスよ! だから私、昔からいつも誕生日は()()のついでに祝われちゃ……あっ」


 クリスマスが誕生日……既に鉄板ネタとなっているらしく、立て板に水の如く話していた桂が「イブ」という言葉を発した瞬間に突然話を止めた。そう、前日はクリスマスイブ……僕の元彼女・渋谷小春さんの命日だ。


「ご、ごめんねまっくん」

「いや、いいよ……ていうか仕方が無いじゃん! 誕生日は選べないし」


 桂はバツが悪そうな顔をしたが、こればかりはどうにも出来ない。むしろ何の罪も無い桂にそんな顔をさせた僕が責任を感じてしまう。


「あっ! そっそうだ桂! 誕生日パーティーしようよ!」

「えっ?」

「クリスマスと一緒にお祝いされちゃうんでしょ? だったらクリスマスの方を()()()にして、桂の誕生日をメインに祝おうよ……二人っきりじゃ寂しいかも知れないけどさ」


 僕の言葉を聞いた桂は、


「べっ……別に無理しなくていいよ! まっくんもその日は色々辛いだろうし……何か悪いよ」


 この時、僕は桂の顔をしっかりと見ていた。


 なるほど……本当だ。



 桂の鼻の穴は……僅かながら広がっていた。



「そうか、公式プロフィールの生年月日、月と日だけは本当だったんだ」

「えっ何の事? 私、今年で十九歳になるんだけど」

「そうか未成年か……じゃあシャンパンで乾杯は出来ないね」

「ウソでーす! 二十一歳でーす! 二つ鯖読んでまーす」


 僕も……過去の傷を忘れさせる位の「幸せ」を手に入れよう。

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