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セフレ・アイドル  作者: 055ジャッシー
第十一章「葛藤」
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じゃあ待ってるぞ!


「ビナ! やっと準備が整った……今すぐ私の所へ来い!」


 僕と桂が同棲しているアパートに突如やって来た「千曲栄」という女性。彼女は桂こと相模絵美菜が所属するアイドルグループ「カントリバース」のチーフマネージャーだった。


 いきなり桂の頭を叩いたり、本来なら恋愛禁止である筈のアイドルと付き合っている事を咎めるどころかむしろ奨励したり……とにかく型破りな人だが、そもそもこのアパートに桂を訪ねた理由は何なのだろうか? しかもこの千曲というチーフマネージャー、いや事務所は倒産したのだから元・チーフマネージャーは桂に対して「私の所へ来い」と言ってきた。

 えっどういう事? と聞きたかったがこの二人は仕事関係の間柄、第三者である僕が口を挟む事では無いだろう……と黙っていると桂が代わりに聞いてきた。


「えっ? (えい)ちゃん、どういう事?」

「実はな! カンリバ(オマエら)が活動休止している間に新会社を立ち上げていたんだよ」

「新会社?」

「そう、私がそこの社長だ」

「……えぇっ?」


 桂もこの話は初耳だったらしくキョトンとした顔をした。


 それにしても……


 この千曲という人は、いきなり桂の頭を叩いたり乱暴な口をきいたり……こんな性格の人が企業とCM契約交わしたり、社長何か出来るのか?


 〝♪~〟


 そこへ電話の着信音が……だがこの音は僕や桂のスマホでは無い。すると、


「あぁ私だ……もしもし」


 千曲という人が電話に出ると、


「あらぁ~ご無沙汰してますぅ××さん! 元気してましたぁ~? またご一緒させてくださいね~」


 急に声色を変えた。どうやら相手は取引先企業の関係者らしい……怖っ!



 ※※※※※※※



 話の内容、そして今回の騒動の真相はこうだ。


 かつてカントリバースが所属していた事務所の経理がずさんだった事を、この千曲さんは前々から感じ取っていたらしい。

 千曲さんは所謂「敏腕マネージャー」だ。スタッフからの人望は厚いが、その反面「出る杭は……」という奴で、当時の事務所上層部からかなり煙たがられていたらしい。そこで事務所の経営危機と自身の危機(解雇)を感じ取った彼女は「週刊ルード」の中川氏を利用して金の流れを調べさせ、秘密裏にカンリバを連れて独立しようと画策していた……要するにクーデターだ。

 彼女はカンリバのCM契約で多くのスポンサー企業と直接繋がりがある。荒川夢乃のスキャンダルで一時はスポンサー離れが起きたが、何とか食い止めようと努力を重ねていた。その結果、今回の新事務所立ち上げでも資本金は容易に集まったみたいだ。しかも金の流れがずさんだった前事務所より信頼性はある。


「なかなか連絡出来なくて済まなかったな、人材も確保出来たから後はオマエたちが来るだけだ」

「人材って……新しいスタッフなの?」

「いや、マネージャーたちは八割方ついて来たぞ」

カンリバ(わたしたち)だけ? チューブルの子たち……あっ大井さんは!?」


 桂はカンリバの姉妹グループ、チューブルックそしてマネージャーである大井さんの心配をしていた。そういえば彼女たちも当然活動休止中……移籍先も迷走していたので、このままでは解散が避けられない状況だった。


「大井を裏切る訳ないだろう! 私の師匠だぞ、当然チューブルも受け入れる」


 その言葉を聞いた桂の表情がぱぁっと明るくなった。メンバーの葵ちゃんたちを妹の様に可愛がっていた桂……相当心配していた様だ。それと、千曲さんと大井さんってそういう関係だったんだ。


「新事務所はカンリバとチューブル、この二組だけでやっていく! 残念だが他のタレントは採算の見込みが無いから連れて行かないよ」


 うわっ、現実は厳しいなぁ! ていうかあの事務所に他のタレントって……全く知らない。疑問に思った僕はそっと桂に聞いてみると、


「他のタレント? えーっと……Vチューバ―のポンチンさんとか、漫才コンビのヤリキレ(ナイ)´ズさんとか……」


 どれも聞いたことない名前だ。


「あっそうそう! ヤリキレ内´ズってオモシロ内さんとオカシ内さんのコンビなんだけど、ツッコミのオカシ内さんはこの近くの居酒屋でバイトしているわよ……週六で」


 そっち(居酒屋)が本業だな。ていうかそのコンビ名と芸名……売ろうとする気無いだろ!? 残念だが切って正解だな。



 ※※※※※※※



「まぁ給料は前(の事務所)ほど出せねぇが……オマエたちの頑張りでどうにかなる問題だ! どうだビナ、悪い話じゃ無い筈だろ!?」


 確かに悪い話では無い。カントリバースは全員まとまって移籍、主要のスタッフもそのまま、チューブルも大井さんも一緒……給料が下がるとは言ったが、元々彼女たちは同世代のOLとかと比べたら桁違いの収入を得ていた……ここで文句を言うのは相当な強欲の持ち主だろう。

 出来れば僕も桂にアイドルを続けて欲しい。彼女が復帰する事で喜ぶ人は間違いなく大勢居る……まぁ本人の意思が最優先ではあるが。アイドルはファンによって支えられ、ファンもまたアイドルが心の支えになっている。辞めると宣言するのは簡単だが、決断は慎重に考えた方が良いだろう。だが……


「……あのね……栄ちゃん」


 しばらくの間沈黙していた桂は、ようやく口を開くと


「ごめん、やっぱり行けないや! 私、アイドル辞めて芸能界を引退する」


 遂に「引退」の二文字を発してしまった。


「……ふーん」


 だが千曲さんは桂の言葉に怒ったり愕然とする事も無く、桂の目を見ながら冷静に聞いていた。


「何でだ?」

「私、この人と付き合うことになったからね」


 うわっ、僕を巻き込みやがった! ヤバい、僕も殴られそうだ。


「両立すりゃいいじゃねーか! グリ(渡良瀬碧)みたいに」

「私……ぐりんみたいに器用じゃ無いし! ずっと隠し通す事出来ないよ」


「えっ、ちょっと待って! 隠し通すって……ぐりんちゃん、そんな前から彼氏と付き合っていたの?」

「うん、二年位前から」


 僕が思わず口を挟むと、桂がしれっとした顔で暴露した。うわぁ騙された!


「それに私、この人との関係がまだ中途半端だから……今はアイドルよりも彼との関係を優先したいの」


 マズい! この状況じゃまるで僕が桂こと相模絵美菜を引退させた事になってしまうじゃないか! 個人の意思も大事だが、ここでは巨大なお金……ビッグマネーが関係する問題なのだ! 僕が新事務所に損失を与えた……何て事になったら責任を取らされるかも? 僕はドキドキしながら新社長の顔色をうかがっていると、



「そっか、()()()()()()()したいんだな!? じゃあ待ってるぞ!」



 小悪魔的な表情でニコッと微笑んだ……えっ、何でそうなる?

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