「いい人になりたい」「……なれたら、いいね」6
「それについて、どう思う?」
「どうも思わない」
「あれがないと生きていけない」
「他のモノで代用できないの?」
「できると思う」
「じゃあ少し嘘だね」
「悪い?」
「別に嘘が悪いとは一言も言ってないよ」
「じゃあなにが悪いの?」
「一つだけを悪くすることはしないよ。それだけを指摘したら、まるで他の全てが良くなってしまう気がするし」
「言ってることが難しい」
「難しいけど簡単だよ。生きていけないなんて独りで決めつけるのはやめた方がいいよ」
「なんで?」
「独りよがりって痛々しいじゃん」
「なにが?」
「あれをしたって無駄だよ」
「生きてることが無駄なのに?」
「いや、生きてることは無駄じゃないだろ」
「そうなの?」
「そうだよ」
「だって生きることは希望そのものだろ?」
「いいこと言うな」
「だろ」
「で、その言葉のどれぐらいが嘘なんだ?」
「これが真実だ」
「事実じゃないんだね」
「どういう意味だ?」
「この中に、犯人がいる」
「はあ」
「これとこれが決定的な証拠だ」
「まあ」
「だからおまえが犯人だ」
「そうでしょうね」
「なんだ。物分かりがいいじゃないか」
「だって、二人しか登場人物がいませんから」
「そうだったな」
「真実はいつも複数。二人いれば、ふたつの真実がある」
「そうだったな」
「自分はやってない。ということを自分だけが知っている場合、登場人物が二人しかいない空間で、あなたが犯人だという真実を証言することは誰だってできますよ」
「で、結局、おまえが犯人なんだろ」
「違います。嘘をついていました。あなたが犯人です」
「いつになったらそうなる?」
「いつになってもそうならないよ」
「いつになったらああなる?」
「あと数十年後くらいかな」
「ああなった後はどうなる?」
「ああなったらもうお終いだよ」
「嫌だ。ああなりたくないよ」
「いつになってもああならないのは嫌じゃないの?」
「そんなのわかんない」
「ああなりたくないのに、ああならないでい続けることは苦痛にはならないのかな?」
「わかんない。ああなるってなんなの」
「それは、ああなった者にしかわからない」
「わかんないなら、考えるだけ無駄だね」
「考えること自体は無駄にはならないよ。わかんないなんて、もう、それって考えてないじゃん。つまり考えることを諦めたってことじゃんね」




