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異なる世界で見つけた○○!  作者: 珈琲に砂糖は二杯
第一章《歩けば道となる》
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第2話 『○○→遭遇!』

 

(ん……、明るい?)


 全てを照らす明かりが昇り始めた静かな森に、なにかが動く音がする。それを発した何かが声を出した。


「って朝か、んーっと……ふぅ、良く寝たな!」


(さて、改めて……ふふっ、いいなぁ、テント!)


 テントとは言えないが、雨風はそこそこ凌げそうな物体を起きぬけに眺めているのは加藤かとう ひろ。ボサボサの黒髪を乱暴に掻きながら身体を起こす。


「さて、これをどうやって更に見事なモノにするのか……、それが問題だ」


 そう言うと、加藤は目を瞑り、ゆっくりとかみ締めるように呟く。


「友人も認めてくれた俺の魅力の一つ……」


(そう、『お前は急に変な事に夢中になるな? 別にそれはいいけど飯は食えよ! いきなり隣で死なれたら困るだろ? お前が死ぬはどうでもいいけど、変な疑い掛けられたら堪ったものじゃない……』ってさ)


「まったく俺はいい友人を得ていたんだなぁ、もう会えないだろうけど……。失ってこそ分かるものもあるんだなぁ……ってあれ?」


(って俺の馬鹿っ何勘違いしてるんだ! ……確かにこのテントは素晴らしいが、大事なモノを忘れていたっ! ってか、気付いたら急に……くそっ、鳴り止めっ!!)


 彼の居る森は静かなところだった。

 風が木々の葉を揺らす音が微かに奏でられていたところへ、腹部から主へと何かを求める低音が不協和音として大きな音を上げて乱入した。


「はぁ、らへった……、なんかミスったなぁ。こうテントってか家? 憧れの一戸建て? で、俺の体力スタミナをかなり消費してしまった……。残りの体力スタミナは……くそっ! 回避行動は連発できずに一回のみ……。走りが使えないだと? ちぃっ、どうやってレウス亜種MkⅡの攻撃をっ!?」


 体力をただでさえ温存しなくてはいけないと気がついている加藤。

 しかしそれでも尚、大きな声を、無駄に大きな声を出すのだ、誰かに伝えるために、まだまだ大丈夫だと。


「…………。よしっ! 大丈夫だ、馬鹿を出来る程度はまだ余裕がありそうだ。さーて、どうするかな?」


 彼が悩んでいるのには理由がある。

 テント周辺には、つまり森の入り口付近には一見して食べられそうな物がなかったからだ。その上水場もないと来ていた、だが。


「奥に行けば、何かしらありそうだし、湧き水が出てる所もあるかもしれない。実際この森、見え始めた頃から終わりが見えなかったからなぁ。草原といい森といい、なんでこんなにでかいんだ?」


 そう言いながら、彼は何かを求めるように、森の奥を、今いる場所に比べて若干薄暗い空間を凝視する。そこには見る限り何も見て取れない。いや、正確には森が続いている事しか分からない。


「それになんでちょっと奥に来ただけでこんなに暗くなる? 俺がお化け苦手なの知っててこういう事してくれてるんだろうか?」


 当然ながら、たとえ異世界とは言えどもそんな事があるはずはないだろう。しかし彼がお化けという非科学的なものを怖がっているのは事実だ。


「いや違うから、それは大事だけどそうじゃないだろ俺? 行ってなんか見つけれたとして、戻れるのか?」


 これは難しいものだ。この場所では生命活動を維持するのは困難ではある。だが、一夜限りとは言えども安全に過ごせた場所なのだ。それから離れ、そこに戻れないというのは一種の恐怖を抱かせる。

 この場所はこの世界で唯一、彼にとっての居場所となっているのだから。自分から迷子となるような事を嫌うのも頷けるものがあるだろう。


「どうしよう……。俺の今までの失敗という名の経験で考えれば、戻るのは不可能だ」


(冷静に考えればテントを捨てても奥に進むのも道の一つだ……。なにせあそこには水もないし食い物もない……)


「でもなぁー、アレは捨てたくないっ」


(いや、でも隣のおじさんも言ってたじゃないか! 『確かにニンジンの皮を剥いてしまうのは勿体無い…あぁっ!勿体無い! だがっ剥いたニンジンだからこその甘みがっ!』って!)


 加藤は何事か呟くと、今まで考え事のためか下に向けていた顔を勢いよく上げる。そして軽く、しかし長く息を吸うと同じく勢いを付けて、唾を飛ばす勢いで言葉を発した。


「……良し、行くぞっ! ありがとうテント! 俺はお前を捨てる! 恨んでくれて構わない……ブってくれて構わない! その上でも俺は許してくれだなんて言わない! 言えないんだっ! だが、決して無駄にはしない! お前との出会いをっ!」


(おっさんの名言をお借りします、こんなだったよな? ……しかしアレだ、言ってみるとかなり厳しい。俺の中の何かがガリガリ削れる。研究者ってのはすげーよ、いやあの時はすっと受け入れられたが、臭い言葉ってのは使い時が大事なんだな。いや、使う人間によってかもしれない……。少なくとも俺にはまだ、こいつを使いこなせないな)


「っと、早く行かないと決心が鈍る……、さよならだっ!」


 そして、時折テントを振り返りながら、惜しみながらもそれを振り切るように徐々に歩みを速めながら、その場から姿を消して行った。 


 ――

 ――――

 ――――――

 ――――

 ――


 あの場所を離れて、それなりに時間が経っていた。既に今からあの場所に戻るのは難しい程度には距離が離れているのは間違いないだろう。


「はぁはぁっ……、草原での大陸横断もかなりのものだったが……。まったく、今度も中々ヘビーな相手だ……油断できんよ、こいつは!」


 そういう彼のジーンズの膝辺りには転んだのかドロや草の汁が染み付いていた。

 しかし気にした風もなく、どんどん前に進んでいく。


「ふぅ……、俺は一つの真理に辿りついた。あれだな、ゆっくり確実にいけばいいんだよ、なんで逃げるように突っ切ろうとしてるんだ俺?」


 こんな経験をした事はないだろうか。

 暗い道で不意に恐怖を感じてしまい、家までの帰路を小走りで走っていった事が。小走りと同様に何かを楽しい事を考えながらであったりでもいい。 

 事実、彼自身はまだ気が付いていないが独り言が多いのも、暗さには関係しないがやはりこれも恐怖に類するものをごまかし、精神を安定させようとする本能だ。


「ま、まぁ、なんだかんだでそれなりの距離は稼いだっぽいしな。ちょっとだけど小さな植物の花が咲いているし、虫がきっといる! つまり……」


(それを捕食している小動物がいるはず……ウサギとか? ってかウサギって虫食べるのかな? いやドキュメントムービーを思い出せ……。草<虫<蛙<蛇<鷹……あれ? ウサギってか小動物いなくね?)


「いや待て待て……、それは有り得ないだろ……! くっ、考えろ!」


(そうだよ!蛇らへんにウサギとかいそうだよな! あれ? でもウサギって蛙とか食べないよなぁ? 草だった気が……っておいおい! 蛙に食われるのかよウサギ!)


「……ふぅ、216通りのバトルを想定したが、そうそうウサギが食われるのは無いな。つまり草<兎<<<鷹になるわけだっ! つまり兎がいる可能s」


 加藤がそう呟いた時、小さな音が響いた。

 葉が擦れる音だ。しかし普通ではない、それに彼は一瞬身体を硬くする。


「っ!?」


 突然、彼の立っている10mほど前方の長い丈の草が揺れ、静かな森には似合わない音が鳴る、この音は風によるものではない。

 何故なら風は吹いていないからだ。そして、この音を出していたのは先ほどまで森を歩いていた彼だけだった。だが今、彼は止まっていた。当然この音は彼が出したものでは無かったのだ。つまりは。


「…………っ」


(はぁはぁっ、くっ落ち着け落ち着け、何ビビってるんだよ? ただ、草が揺れただけさっ、そうだろ?)


 彼は未だ自分を、人間を凌駕する生物の可能性を考えていない。

 当然だ、彼の時代ではそういった大型の猛獣類は絶滅、なくとも目にする機会も人と会う事も有り得ない環境だったのだから。彼はそういうモノが、存在したという歴史は教わっても、それがどれだけの脅威かを教わらなかった、必要ないからだ。

 だが、彼の身体は身体を緊張させ、息を潜ませる事を彼に強いた、恐るべきは本能だ。


(何か……何かないか!? 武器! そうだっ、武器! レーザーガンなんて贅沢は言わない! せめて包丁でいい、いや棒! 棒でいい!)


 彼が武器で棒を思い浮かべたのには理由がある、別に棒術を会得しているとかいう訳ではない。彼は娯楽の一つであるゲームを思い浮かべてしまっただけ、ただそれだけだ。


「……よしっ、ど、どうせ草が揺れているだけだ……、何もいやしないさ!」


(そうだっ、実際今まで何もいなかったじゃないかっ、いるわけがないさ!)


 彼はまるで伝説の剣でも得たかのように、棒と言えなくも無い木の枝を拾い上げて握り締めると声を上げた。

 本当にそれでソレらに立ち向かえると思っているのか、それとも恐怖を拭い去るためかは分からない。しかしそれを軽く振るって何かを確かめていた。


「……っふぅ。反応は何も出てこない、やっぱり何もいなかったんじゃないか!」


 音が鳴った草が群生している所へ手近にあった木の枝で突いて確認をしたが、反応は返ってこなかった。その事に安堵したのか、今まで無意識に少なくなっていた呼吸を再開させるために大きく息を吐いた。


(はぁはぁっ、良かった…全く! 驚かせないで欲しいよ……。けど棒? ってかこういうのいいな、なんだろ安心感がある、やっぱり冒険には最低でもこういうものがひつy)


「……キュイ!」


「って、うわぁ!」


 突然先ほどの草むらから一匹の、奇しくも彼のイメージしていたウサギのように白く、しかしモモンガのような姿をした小動物がヒョコヒョコと出てきたのだ。


「…………」


「キュキュッ?」


(なんだコレ? コレに俺は怯えてた訳? てかコイツ、なにちょっと頭傾げた感じなわけ? キュっての二回鳴いたし『何ビビってんの? ヘタレ?』ってか?)


「否定できません……」


「キュ……?」


「いやマジで、もうそんな言わないで下さい、ほんとごめん」


「キュッ、キュイー」


「許して下さい……」


 こうして彼は、この異世界へ来て初めての異世界に住むモノと出会ったのだ。

 この時に感じた恐怖、その結果の出会い、これが何を意味するのかは未だ分からない。

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