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愛も変わらぬ地球人  作者: 沖 元道
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第十話 駆出しのママ

 陽平と咲良は、旅行会社のカウンターで話をしている。

「どちらの国がご希望ですか?」旅行会社の社員が二人に尋ねた。

「まだ具体的には決めていないのですが、料理が美味しくて、のんびりした国民性で、遊ぶ場所もある、というような国がいいかなあ」

 陽平がそう言うと、咲良は続けた。

「それと、クルージングもしてみたい」

「かしこまりました」

 旅行会社の社員は、しばらくカウンターでパソコンを操作してから、二人に声をかけた。

「今のご希望に合った国とその観光スポットをいくつかご用意しました。こちらの模擬体験室でご覧ください」

 二人は、案内された部屋に入ると、間もなくリアルな立体映像と音声が流れ始めた。

 世界各国の中から選りすぐった観光名所の案内ビデオに、二人は真剣に見入っている。

「いかがでしたか?」

 二十分間ほどの案内映像を見て部屋から出てきた二人に、社員が尋ねた。

「とても楽しかったです。まるで本当の旅行に行ったみたいでした」

「ありがとうございます。視覚と聴覚ではご満足いただけたと思いますが、実際に出かけることで、味覚も含めた五感でお楽しみいただけると思います。是非、当社の旅行プランをご検討ください」

「そうですね。二人で相談して、またご連絡します」

「当社では、二人乗りの自動操縦型の飛行艇も格安でご用意できます。ご自宅から現地まで乗り換えなしのノンストップで向かうことができます。また、お二人での旅行の楽しい時間を満喫できる様々なサービスもご用意しております」

「素晴らしいですね。御社を第一候補として考えたいと思います」

「よろしくお願いいたします。ご連絡をお待ちしております」

 陽平と咲良は、満足げに旅行会社を後にした。


 翌日の夕方、朝から体調が悪く自宅で休んでいた咲良は、仕事を終えた陽平が家に戻って来たのを見て、嬉しそうな顔で陽平に言った。

「できたのよ!」

「え? 何が?」

「赤ちゃん! 私、赤ちゃんが出来たの!」

「えっ!本当に? 子供か! そうか、ついに子供ができたのか!」

 咲良は妊娠検査キットの結果を見せながら、嬉しそうに言った。「ああ、まだ信じられないわ。さあ、これから、いろいろと準備しなくちゃ」

「子供が生まれてくるのは、まだだいぶ先だろう? 気が早いね」

「そんなことないわ。妊娠中は定期的にマタニティー健診があるし、出産の準備でいろいろ忙しくなるわ。海外旅行は、楽しみにしていたけど延期にしましょうね」咲良は体調が悪かったこともすっかり忘れて、明るく元気な声で言った。

「ああ、分かった。もちろん、それでいいよ」


 咲良は、早速その日の夜から、マタニティー用品やベビーグッズをオンラインショップで楽しそうにチェックし始めた。

――この壁側にベビーベッドを置いて、ベビーメリーをつけよう。

――ベビー服って可愛いわ! 男の子か女の子かまだわからないから、どちらでも良い色とデザインが良いわね。それにしてもなんて小さいの!

――赤ちゃんのお守りにテディベアと犬のぬいぐるみを買ってきて出窓に置こう。

 咲良の頭の中は、これからの生活のことで一杯になっていた。

 毎朝の庭の水やりは、ワロンと楽しく遊ぶ時間だったが、妊娠中の安全のために大事を取って一人ですることにし、その間、ワロンには玄関の中で待たせることにした。

「ワロン、私、赤ちゃんができたの。水遊びしてお腹に水がかかったら体が冷えてしまうし、もし転んだりしたら大変だから、赤ちゃんが生まれるまで水遊び出来ないの。ごめんね」咲良はワロンに話しかけたが、ワロンは玄関の寝床の上に伏せて、つまらなそうに目をつぶっている。

「さあ、ワロン、おいで」咲良は、水やりが終わってから、ワロンを庭に出して餌を与えたが、ワロンは寂しそうな表情である。


 四か月後。

 お腹が大きく膨らんできた咲良が寝静まっている深夜、キミワロン人は、地球上空を周回する飛行体の中で、キミワロン星に向けて情報の発信をしている。

〈地球人たちの愛は、力強いものだが、脆いものでもある。愛に頼って生きることは、楽しいことでもあるが、辛いことでもある。我々は、愛に頼らずにどんな環境下でも生存し続ける道を選んだ。地球人と我々と、どちらが永遠に存続できるかについては、疑問の余地はないだろう。我々の選んだ道が良かったかどうかは、分からない〉

 キミワロン人はメッセージの送信を終えると、受信されたメッセージを確認した。

〈地球人の愛に関する情報は十分に収集できた。そろそろ帰還してもらいたい。千年後に再び地球を訪れることを楽しみにしよう〉

 キミワロン人は受信メッセージを読み終えると、短いメッセージを追加で送信した。

〈了解〉

 キミワロン人は、深夜の牧草地に立ち、陽平と咲良が住んでいる家を見ている。

――調査が十分だったとは思えないが、これ以上調査を続けても、地球人の愛の意味を解明することは難しいかもしれない……自分としては、分かったような気もするが、やはり分かっていないのかもしれない……。

 キミワロン人は、東京の巨大ドームでの大惨事の後に、今村と咲良と三人で森の廃屋で過ごしたことを思い出していた。そして、別れ際に咲良と交わした会話が頭の中に蘇ってきた。


「愛についてですが……はっきりとしたことは自分でも分かりません。でも、あなたたちのような進化をすることで、愛という大切なものは失われてしまうのではないかと思いました。人間は愛することが大切で、それに臆病になってはいけないんです」

 咲良がそう言うと、キミワロン人は言った。

「実は、私も仲間と愛について意見交換をしてみました。いろいろな意見が出ましたが、私たちは遙か昔に愛というものは失っているのだろう、という結論になりました。愛というものが、生命の維持に必要なものなのかどうかについては、否定的な意見が多かったと思います」

「そうですか……」咲良はそう言って黙り込んだ――。


 キミワロン人は、真夜中の牧草地をゆっくりと歩き、それから庭の中へ入った。見慣れた景色だが、改めてじっと見回した。

――咲良の言葉や行動には驚かされることもあったが、考えさせられることも多かった。咲良を調査の主な対象としたことは正解だったと思う。咲良には心から感謝したい……咲良は、自分にとって特別な人だったのだろうか……。


 その時、咲良は夢を見ていた――。

 ワロンがどんどん大きくなっていき、象のような大きさになった。

 巨大なワロンが牛舎に近づくと、牛たちが怯えて騒ぎ出し逃げ出した。

 咲良は、ブルドーザーに乗って牛たちを追いかけ始めたが、ブルドーザーのスピードが速くなり、牛たちを次々に跳ね飛ばして追い抜いてしまった。

 陽平が巨大なAIロボットを連れてきて、そのロボットが咲良の乗ったブルドーザーの前に立ちはだかり押しとどめた。

 咲良はブルドーザーから降りると、象のようなワロンの上に置かれた台座には、宇宙省の石崎奈々が座っていた。

 奈々が右手を上げると、ワロンの背中には翼が生えてきて、ワロンは奈々を乗せたまま天高く飛び立っていった――。


 咲良は、はっと目を覚ました。寝汗をかいており、喉が渇いている。

 咲良は、そっと寝室を出て、キッチンに行き、冷蔵庫の中のペットボトルの水を一口飲んだ。

「変な夢だった……」

 咲良はそうつぶやきながら、無意識にお腹を優しくさすった。そして、寝室に戻って再び眠りについた。

 

 翌朝。

 咲良は、いつものように庭の水やりをし、それからワロンを外に出した。

 ワロンは、もうじゃれつかないようになっているので、庭の片隅で伏せて、咲良の様子をじっと見ている。

「ワロン!」

 咲良が、夕方、ワロンに餌をやろうと声をかけたが、ワロンはやってこなかった。

 何度も声をかけ、周囲を探したが、どこにもいない。

「ワロンの姿が見えないの」

 咲良が心配そうな表情で陽平に言うと、陽平は落ち着いた声で答えた。

「元々迷い犬で、どこからかやって来たのだから、心配ないよ。それに、さっちゃんがとても可愛がっているんだから、そのうち戻って来るよ」

「そうかもしれないけれど……」

「あまり心配すると、お腹の赤ちゃんに良くないと思うよ」

「そうね……」


「僕、久しぶりにワロンの夢を見たんだ」朝起きてきた伸也は、喜世志と玲子に言った。

「そうなの。どんな夢?」玲子は笑顔で尋ねた。

「ワロンが僕を乗せて宇宙を飛んでいるんだ。すごく速いスピードで、太陽の周りを何周もして、それから僕を小学校まで連れて行ってくれた。それから、友達と一緒に校庭で走り回って遊んだ」

「そうか、それは楽しい夢だな」喜世志も笑顔だ。

「また、ワロンに会いたいなあ……」

「いつか、山川牧場にまた遊びに行こうね」玲子は優しく言った。

 伸也は昼休みに、小学校の窓から校庭を見ていると、お座りしてこちらをじっと見ている犬の姿を見つけた。

「あ! ワロンだ!」伸也はそう叫ぶと、教室を駆け出し、校庭に飛び出した。しかし、校庭を見回しでも、ワロンの姿はどこにもなかった。

「どうしたの?」友達の一人が駆け寄ってきて尋ねた。

「ワロンを見なかった?」

「え? 伸也が背中に乗って空を飛んだっていう犬のこと?」

「そうだよ。今、ここにいたはずだ」

「見なかったなあ。それに、犬は空を飛べないって、お父さんは言ってたよ」

「ワロンは、特別な犬なんだ」そう言うと、伸也は校庭の中を何度も見回した。

 少し離れた物陰から、ワロンは伸也の姿をじっと見つめていた。


 ワロンが姿を消して三日経っても戻ってこなかったため、咲良はとても心配し始めた。

「陽平さん、どうしよう。ワロンはどこかで死んでしまったのかもしれない」

「大丈夫だと思うよ。ワロンは賢い犬だから、どこに行っても生きていけるよ」陽平は穏やかな口調で言った。「だから、あまり心配しないで。お腹の赤ちゃんに悪影響があると困るからね」

「ええ、そうね。今は大事な時だから……」咲良はそう言いながら、大きく膨らんでいるお腹をさすった。



 半年後。


 太陽から遠ざかり薄暗くなったキミワロン星で、キミワロン人たちは話し合っていた。

――現時点の我々の身体能力では、冬眠を続ける期間は二万年が限度だ。銀河系の中で最適な別の太陽系を探しそこまで到達するためには、それを百万年程度まで伸ばしておく必要がある。つまり身体能力を現状の五十倍に向上させなければならない。

――我々は、これまでの三億年の間に十倍ほどの向上を実現した。これまでのペースだとさらに十五億年かかるが、進化のスピードを飛躍的に高めてきたので、あと一億年ほどで達成できるだろう。

――可能であれば一億年後に太陽系から脱出することを目標に、身体能力の進化に努めよう。

――いや、急ぐことはない。三億年後くらいでも良いのではないか。我々の兄弟ともいえる地球人たちにも、太陽系から脱出して永遠に生き続ける方法を丁寧に伝え、彼らの身体能力の向上をしっかりとサポートしようではないか。三億年もあれば、地球人たちの身体能力も必要なレベルまで向上させることができるのではないか。


 今村賢一郎が、研究所の一室で真剣な表情で実験装置を見つめている。

「よし、これなら良い」今村はそうつぶやくと、周囲で見守っていた数名の研究者たちに向かって言った。「これで完成だ。ご苦労様。今日はゆっくり休んでくれ」

「今村先生、おめでとうございます」

「新しい材料物質は、強度をこれまでのものよりも十倍に向上させることができた。みんなの献身的な協力のお陰だ。ありがとう」今村は笑顔で礼を言った。「人工衛星や隕石の落下の衝撃にも耐えられるドームを実現するためには、もう少し強度を高める必要があるが、その目途もたってきた」

「今年こそ、今村先生のノーベル賞の受賞を期待しています」

「はっはっはっ。そんなもの期待するもんじゃないよ」今村は笑いながら答えたが、すぐに真面目な表情になりつぶやいた。「まだまだキミワロン人たちの足元にも及ばない……目指すべき目標は遥か遠くにある……」

 今村は遅めの昼食をとるため、いつものように自分の研究室の机で、愛妻の美鈴が作ってくれた弁当を広げた。他の研究者たちはみな外に食べに出たので、今村は一人だが、目の前には美鈴の立体映像を映し出している。

――ありがとう。美鈴のお陰で、また良いものを開発できた。

 今村は、立体映像の妻の姿を見ながら、弁当箱の中の卵焼きを箸でつまんで口に入れた。

「旨いなあ……」今村は独り言を言いながらゆっくりと味わっている。

 弁当を食べ終えると、今村は美鈴に電話をした。

「今日の弁当も旨かった。毎日、ありがとう」

「そう、それは良かったわ。研究の方は順調に進んでいるの?」

「いったん区切りがついたよ。今日は早めに帰ろうと思う」

「良かったわね。じゃあ、今夜はお祝いに鰻にでもしましょうか」

「いいね。そうしよう」

 今村は電話を切ると、早速帰り支度を始めた。


 拘置所の面会室の窓越しに、女は男の顔を見つめている。その男は、これまで田口という偽名を使って詐欺を続けてきたが、罪を償うために数か月前に自首をして裁判を受け、懲役三年の実刑判決を受けたばかりだ。

「三年後に俺がどうなっているかなんて分からない。俺のことは忘れてくれ」男は窓越しに言った。

「あなたが出てくるのを待っているわ。三年経ったら、二人で新しい暮らしをはじめましょうね」女は真剣な表情で男を見つめている。

「その気持ちはありがたいが、俺は犯罪者だ。俺と付き合っても何にも良いことはない。だから……」男は女から目をそらしてうつむいた。

「自首して罪を償ったら、あなたはもう犯罪者じゃない。世間はどう思うか知らないけれど、あなたは私にとっては特別な人なの」女は男の顔に手を触れるような仕草で、面会窓に手を寄せた。「あなたほど私のことを分かってくれた人はいない。だから……」女は声を詰まらせ、涙を流し始めた。

「すまない……」男はうなだれるように頭を深く下げた。

「私……もっと頑張って働く……お金貯めておくから……心配しないで……」女は顔を面会窓につかんばかりに寄せながら、声を絞り出した。

「すまない……」男は顔を上げ、目に溜まった涙のせいでかすんで見える女の顔をじっと見つめた。

「愛している……」女は男の顔を見つめながら言った。「だから、元気に戻って来てね」

 男は溢れ出る涙をぬぐおうともせずに、女の顔をじっと見つめ続けている。


 食堂が休みの日の夜、喜世志と玲子と伸也がそろって夕食をとっている。

「この前、学校でみんなで将来の夢を話したんだ」伸也は喜世志と玲子に向かって嬉しそうに話し始めた。「僕の夢は、宇宙探検家になることだよ」

「そうか、それはすごいな」喜世志も嬉しそうな表情だ。「探検していろいろなものを発見するなんて、かっこいいね」

「発見するんじゃなくて、いろいろな星に住んでいる人たちと話したり、その人たちの様子を絵に描いたりしたいんだ」

「素敵ね」玲子は笑顔で伸也を見た。「どんな人たちがいるんでしょうね。宇宙は広いから、いろいろな人が住んでいるんでしょうね」

「お父さんみたいに、いろいろな人たちと会って、話をして、いろんなことを知りたい。そして、僕が知ったことをみんなに伝えたいんだ」

「そうか、それは良いな」喜世志は、真剣な表情で伸也を見つめた。「お父さんも、日本中を回って、いろいろなことを経験した。それは、とっても良かったと思っている」

「僕は絵を描くのは好きだけど、まだ上手く描けないから、お父さん、教えてよ」伸也は真面目な表情だ。

「写真ではなく、絵が良いのか?」

「うん。写真と違って、絵には自分の気持ちが込められているからね」伸也は、喜世志が何度か使った言葉を、そのまま使った。

「そうか、分かった」喜世志は真剣な表情になった。「その通りだ。じゃあ明日からでも始めよう」

「ありがとう」伸也は嬉しそうに言った。

「お母さんも応援するわ」玲子はそう言ってほほ笑んだ。


「キミワロン人か……」火星基地の隊長である坂本(さかもと)隆太(りゅうた)が、奈々の顔を見ながら感慨深そうに言った。「大昔は、火星人が存在するという夢もあったようだが、キミワロン人が本当にいたとはな。しかも地球にやって来たとは驚きだ」

 火星基地には各国から数名ずつ派遣された職員たちが共同で仕事をしており、今年から二年の任期で日本人である隆太が隊長を務めることになっている。

「キミワロン人は、地球人より遥かに優れた科学技術をもっていて、それでいて優しい心を持っていて、しかも地球人たちのことを愛しているんです」奈々は懐かしむような表情だ。

 異星人調査班に所属していた奈々は、夫との死別後、火星基地への転勤を強く希望した。火星基地は、仕事がハードなため、宇宙省の中ではあまり人気のない職場だが、人生を大きく変えようと考えてのことだ。奈々は、火星基地に赴任してからは情報分析の仕事を担当している。

「異星人調査班では、どれくらいの種類の異星人の情報を把握しているの?」隆太は真面目な表情で尋ねた。

「それは機密情報なので言えません。でも、キミワロン人ほど素敵な異星人は、他にいないかもしれません」奈々は、ほほ笑みながら答えた。

「君は、もしかするとキミワロン人に恋したのか?」隆太は少し驚いたような口調で尋ねた。

「ふっふっふ」奈々は思わず笑ってしまった。「そうかもしれませんね。地球人よりはずっと良いかも」

「多くの異星人のことを知っている君が言うことだから、あながち間違っているとは言えないのかな? 僕も地球人の奥さんとは上手くいかずに別れてしまったから、今度はキミワロン人の奥さんをもらうことにしようかな」隆太は真面目な顔で言った。

「千年後にですか?」

「いや、そんなには待てないな」

「それはそうですよね」奈々はそう言って大笑いした後で、真面目な表情に変わり隆太に尋ねた。

「昨日の情報分析の資料はご覧いただきましたか?」

「ああ、見たよ。太陽の異常爆発の観測と予測が、これからの重要課題の一つだな」

「地球人は、宇宙についてまだまだ知らないことが多すぎますね」

「君は、火星に来てまだ二か月だから、火星のことはあまり知らないだろう?」

「これから勉強します」

「勉強も結構だが、火星にも良いドライブコースがあるので、週末に行ってみないか?」

「そうですね……でも、まだ仕事に慣れていないので、週末も仕事をすることになるかもしれません」

「あまり頑張りすぎないことが、長く続ける秘訣だよ」

「そうかもしれませんね」

「じゃあ、ドライブに行って気晴らしをしよう。地球のレストランほどではないけれど、旨いものを出すレストランもある。ただ、店員が全員ロボットだけどね。ロボットが握る寿司も、慣れれば結構いけるよ」

「そうですか」奈々は笑顔で言った。「じゃあ、楽しみにしています」


 咲良は、生後間もない赤ちゃんをそっと抱きながら、話しかけている。

「ごきげんですねー。ママですよー」

 赤ちゃんは咲良の顔を見ながら笑っている。

「よく笑いますねえー」咲良は、赤ちゃんのおでこにそっと頬をよせて、甘い匂いにうっとりとし、愛おしく感じてギュッと抱きしめた。

「どんどん可愛くなるね」陽平は咲良に話しかけた。

「本当に……」咲良は目をつぶりながら赤ちゃんの柔らかさを体感している。

 ワロンはあの日以来、戻ってきていないが、咲良は、今でも、ワロンのことを時々思い出すことがある。風が強い日に外でコトンと音がすると、ワロンが帰って来たのかと窓の外を見回してしまうこともあった。

――どこに行ってしまったのかしら……無事に生きていてくれればいいのだけれど……それとも、キミワロン星に帰ってしまったのかもしれない……。

 その時、赤ちゃんがぐずり始めた。

「ああ、よしよし。どうしたの? お腹がすいたの?」咲良は素早く赤ちゃんを抱き上げると、すぐに温かいミルクを用意し、飲ませ始めた。

 胸に抱かれて無心にミルクを飲み続ける我が子の顔を、咲良はじっと見つめている。


 地球から遥か離れた宇宙空間では、キミワロン人たちが千年の眠りにつこうとしていた。

――そろそろ冬眠期間に入る。この続きは、また千年後に話し合おう。そして、地球人たちが千年後も安泰であることを期待しよう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 予測不可能な展開が面白かったです! 愛とは何のなのか。答えが出ないのが、またいいですね!
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