怒りのカイナガ
オレンジやグリーンといったビタミンカラーで彩られた、おもちゃ箱のような空間で、カガとアイは土下座していた。凶暴に暴れまわるカイナガに向かい、なんとか落ち着いてくれるよう懇願しているのだ。
「ちくしょう、オレまで騙しやがって!」
事情を知らないまま──つまり死んだと思ったまま、二週間も放ったらかしにされたのだから無理もない。その間、自分の責任だと思い悩み、恥ずかしいことに「2つのグラスに酒を注いで友への鎮魂」までしてしまったのだ。
そのうえ、この部屋に着くまで内緒にされたのだから、たまらない。遺書でもあるのか、それとも形見分けかと、沈痛な面持ちで訪れたのに、「バァ!」と出現されては、怒ればいいのか、喜べばいいのかわからないではないか。
そこで、とりあえず喪服と黒ネクタイを投げつけ、怒鳴り散らしているわけだ。
「生きてたんなら連絡しろ! クソが!」
「お言葉を返すようですが、最重要人物としてマークされているであろうカイナガ様には、当方から生存をお報せするわけにもいかず……」
「オレが信用できねぇって言うのか!」
「そのようなことは思っておりませんが、通信が傍受されては元も子もございません。何卒ご理解のうえ、ご容赦いただきたく……」
深々と頭を下げる二人に毒気を抜かれたカイナガは、矛先を変えた。
「じゃあ、こっちはどう説明するんだ!」
指差す先には、ちょこんとベッドに座ったモモカがいる。ここは第二次冷戦期に造られた核シェルターだから外気の影響がない。さらに再改造されて、ガラスに囲まれた無菌室となっていた。
「だいたいだな! モモカはこれじゃ自由じゃないだろうが! けっきょく隔離場所が月から地球に変わっただけだ」
「無菌状態で保護しているのは一時的なことです。必ず外に出られるよう、じっくり免疫をつけていきます。いつか立派なパイレーツになれるように」
顔を上げたカガの額には、大気圏突入時の傷跡が残った。元が端正な優男だったため、違和感が醸し出す、そこはかとない迫力がある。まだ見慣れていないカイナガは、少し腰が引けたが、踏みとどまって言い返す。
「ああ、そうだな! まったく見事に、日本国籍のパイレーツ誕生だよ! これじゃあモモカは、和光じゃなく倭寇じゃねぇか!」
「あはははは」
「笑ってる場合か! ざけんな!」
「はい……」
あれだけの大事件だったにもかかわらず、トパーズはISS-6のJSDドッグに封印されただけだ。扱いを、武装民間船らしきもの──パイレーツにして手を打たせたのは、軍用船による国際的な戦闘行為として事を荒立てたくなかった、政治的な思惑がある。さらにその裏では、各国および各省庁の間で三すくみ状態を作り出し、のらりくらりと逃げ回る上層部の天下りどもが──その手練手管が、存外に役立っている。
「そういやアイ、お前キャプテンなんとかと言いやがったな」
「正確には『しっかりしなさい、キャプテン・カイナガ!』よ。あれは、ツヨシくんが泣いてたからでしょ?」
「はぁ? 泣いてねぇし!」
「通信でもわかったわよ! ぐずってたじゃない!」
ギャイギャイ
夫婦喧嘩は犬も食わない。
口ごたえするカイナガに対して、ついにキレたアイが、必殺のかかと落としを見舞う。6分の1Gの月でぶちかましたときと違い、地球の重力を活かした1分の1G攻撃だから、効果はばつぐんだ!
その様子をガラス越しに見て、モモカが大笑いしている。付き添うユキの屈託ない笑顔に、あきれ顔のカガが両手を広げてみせた。
おしまい




