第八回 いきなり大鉈
(※ここからの作品作りの経過は、あくまで私個人のケースです。ファン文庫には複数の編集者様がいて、それぞれやり方が違うでしょうし、私の担当編集者様も、いつもこういうやり方というわけではなく、作者さんの性格やその時のスケジュールの都合等によって、進め方は異なるということでした。)
打ち合わせを経て、必要書類も郵送し、書籍化実現のためにがんばろうと決意した私ですが、自分が本当にこの作品を要求された文字数に収めることが出来るのかは、まだ確信がもてませんでした。
この段階で、私は改稿することそのものにはすっかり納得し、乗り気になっていましたが、自分にそれができる技術があるという自信がなかったのです。
『改稿ができるかどうか自信がない』と言った私に、『一人では戦わせません』と言ってくれた担当編集者様の頼もしい言葉が心の支えです。
そこで、まずは、目安として提示された12~13万字に納められるかどうかを、ざっくりと試してみることにしました。
もし必要な部分があったら後で元に戻すことを前提に、とりあえず、冗長な部分や本筋から脱線した述懐、ストーリー進行上は必要のない遊びの会話などを、ごく乱暴に、ざくざく削ってしまうのです。
当然、必要な情報が抜けてしまったり、前後の整合性がとれなくなる部分も出てきますが、あとで直せばいいということにして、今は気にしません。とにかく、どの程度減らせるかの実験ですから。
(実は、この、『あとで直す』というのが意外と大変で、この時の乱暴な大鉈振るいによって生じた不整合や説明漏れが、再校のときまで残っていたりしましたが……)
実際に始めてみると、かなり無理めな気がしていたこの数字は、意外と、そんなに無理ではありませんでした。
というのは、まるごと削ることになったWEB版のエピローグが意外と長くて、それだけで約2.5万字分あったからです。4~5万字という削減目標の半分以上は、これで満たせてしまいます。
試行の結果、17万字近かったものを、目安を大幅に下回る11万字台にまで減量することに成功。
約三分の二近くまでの減量というと、よっぽどのことみたいですが、エピローグ分が減ったおかげで、残りは意外と無理のない数字だったのです。
それに、比較的簡単に大幅な減量ができたのは、この作品が、もともとそれだけ贅肉が多い作品だったからもあると思います。最初からスリムな作品だったら、こうはいかなかったでしょう。
この作品に限らず、私の書くものは、だいたいいつも、話の規模から考えられる適正文字数の1.5~3倍くらいなっている気がします……。
いずれにしても、これだけ文字数に余裕が生まれれば、削った中で必要な箇所があれば復活させることも、足りない部分があれば加筆することも可能になります。
(私でもやれば出来る……のかもしれない!?)という自信も生まれました。
普段は推敲すればするほど長くなる一方の私が、このときは思い切って削ることができたのは、もし必要になったら後で元に戻せるという気楽さの他にも、この作品が、すでに三年の間、ネットで公開してきたものだからもあるでしょう。
まだ誰にも見せていない部分は、削ったら最初から無かったのと同じになってしまうけれど、すでにネットで公開してたものは、もう大勢の人に読んでもらっているから、最初から無かったことにはならないのです。
それと、もう一つ、趣味の作品であれば、自分が書いて楽しく、どんなに無駄だろうと(あって欲しい)と思う部分は、それだけで自分にとっては存在意義があるのであり、作品全体の完成度より自分の書く楽しみを優先しても良かったけれど、商業で出すのだと考えたとたん、「これを『商品として』見た時には、ここは余計だろう」という客観的な判断を優先できてしまったこともあります。
一週間ほどでこの作業を済ませたのち、提出期限を待たずに、これをいったん担当様に見てもらうことにし、メールで打診しました。
だって、これから一生懸命細かい文章の推敲を終わらせて、それから初めて見てもらってから『その部分をまるまる削りましょう』とか言われたら、時間の無駄になって、効率が悪いですから。