第七回 怒涛の打ち合わせ(2)
先方から打診があった変更点ですが、ひとつは、主人公の年齢を下げたいということ。
当然、対象読者層の問題もあると思いますが、それだけでなく、作中でのヒロインの悩みが、三十代より、むしろ二十代のそれだろうということで……。
これは、私も、たしかにそうだと納得しました。
実は、この作品がアルファポリス大賞の最終候補に残った時の選評で上げられたマイナス点も、『主人公の感性や思考が幼い』だったのです。
自分でも、たしかにその通りだと思います。
それで、あっさり了承し、三十ニ歳だったヒロインを二十八歳に、それにともない相手役のタイテイ氏も三十五歳から三十一歳にすることに。
まあ、ヒロインの言動は二十八歳にしても相当幼く、好き嫌いが分かれるところだとは思いますが、それはもう、そういう個性ということで……。
そして、恋愛要素の調整。
WEB版はほぼラブコメで、前回書いたとおり、ラブラブなエピローグがついていますが、二人を最後までくっつけず、『じれじれ』段階にとどめて欲しいという要請です。
これは、実は、最初に『そういうタイトルの架空の本を想像する』という遊びだった頃に想像した通りの内容なのでした。
当初の構想では、作中で恋愛はほとんど進展せず、エピローグ的なシーンで、これから二人は交際を始めるかも……と想像させて終わるつもりだったのです。
でも、実際に書き始めてみると、つい自分が書きやすい方に寄せてしまい、結果的にすっかりラブコメになって、その勢いで、調子に乗って、甘々なエピローグを書いてしまったのです。
なので、恋愛濃度を薄めることは、作品を捻じ曲げることではなく、むしろ、もともと目指していた姿に戻すことなので、抵抗はありませんでした。
それから、作中の時代について。
この作品は四年前に書いたもので、作中の時代は、明言はしていませんが、漠然と、その時点での『今よりちょっと前』のつもりで書いたものです。
これはこのままでいいのだろうか……と、自分から言ってみたところ、やはり現代に直してほしいとのこと。
第二話では戦争経験者(終戦間際に一八歳で徴兵)のおじいさんが出てくるのですが、2017年現在だと九十一歳になり、相当な高齢になります。
今は、直接の戦争を体験した人を現代を舞台に描ける、ぎりぎりの時代なのですね……と、ちょっとしんみり。
そして、第二話の季節の変更。
これも私が自分から持ち出したことです。
実は、WEB版第二話のジギタリスの話は七月が舞台になっていますが、ジギタリスの花期は主に四~六月なのです。
それは知っての上で書いたので、『いつもより花期が遅れた』という一言を入れてあったし、私は八月にジギタリスがまだ咲いているのを現実に見ているので、作中で七月に咲いていても決して嘘ではないのですが、やはり、疑問を持つ人も出てくるかもしれません。
それをあえて七月の話にしたのは、二つの事件を通してふたりの距離を縮めるためにある程度の期間が欲しかったからなのですが、恋愛の進展度を下げることにしたので、作中での経過時間も、短くてもかまわなくなったのです。
その他、全体に係ることから細部にいたるまで様々なことが話し合われ、私は、受け入れられる提案は受け入れ、無理だと思ったことはその理由を説明し、出来るか出来ないかわからないことは正直に『出来るか出来ないかわからないがやってみる』と言い……。
そんな感じで、あまりにみっちり話し込んでいたので、コーヒーショップでたぶん二時間以上、テーブルに置いたコーヒーに口をつける暇もありませんでした。
そんな密度の濃い話し合いの中で、編集者様がこの作品を本当に良く理解してくれていることを感じ、作品をより良くしようという熱意に、私も、ぜひ応えたいと思ったのでした。
帰り際に、すっかり冷たくなったホットコーヒーを飲み干しながら、はじめて少し雑談をしました。それくらい、ずっとみっちり改稿方針を話し合っていたのです。先方も、『打ち合わせが一回でここまで進むことは珍しい、言いたかったことを全部言えた』と言ってくれました。