第五回 顔合わせ
そうして、日時と場所を決め、六月半ば、いよいよはじめて顔を合わせての打ち合わせです。
出版社にお邪魔しても良かったのですが、交通の便の悪いところに住んでいるので、ちょっと申し訳ないけれど、私の居住地との中間地点まで出向いてもらってしまいました。
編集者様と駅で待ち合わせ、まずは、一緒に駅前の本屋さんへ。
実際の売り場を見て回って、なんとなくライト文芸というものの雰囲気を掴んで欲しいということのようです。初対面でいきなり喫茶店で向かい合う緊張を避けるためもあるのかな、などと想像します。
売り場に並ぶ本を、文庫の棚を中心に見て回りながら、「今はこんな感じのが流行ってますね~」みたいな話をします。
当時はまだ完結の報がもたらされていなかった『アルスラーン戦記』の新装版に目をとめ、漫画版の話や、「続きが出たら最初から読みなおさないと、もう忘れてる」というような話をしたことが印象に残っています。
そして駅前のコーヒーショップへ。
打ち合わせの順序などはすっかり忘れてしまいましたが……。
改めて挨拶を交わした後、まずはマイナビ出版さんがどんな会社か、ファン文庫がどんなレーベルかというところから始まり、編集者様が待ち合わせの目印にと持ってきていたレーベル既刊本一冊を見本にいただき、契約書のひな形や刊行スケジュール案、支払いに関わる書類の用紙などを受け取り、一通りの説明を受けました。
さらに、分厚い封筒から作品をプリントアウトしたものが出てきたのには驚きました。実は私は、この自作を一度もプリントアウトしていなかったので……。
しかも、私は普段から文章を横書きで書いているので、この作品を縦書きで見るのは初めてで、何か新鮮です。
また、プリントには、本文だけでなく、すでにレーベルのひな形にそった巻末の注意書きや奥付も入っているので、『本になったごっこ』みたいで、ちょっと面白いです。
それからもちろん、「この作品はお仕事小説ではなけいけど、いいのですか?」と聞いてみました。
それについては、『たしかにお仕事のシーンは少ないが、司書子さんが司書としての誇りを持って働いている姿が素敵だから大丈夫』というようなお返事。
たしかに、『お仕事小説コン』のページにも、『お仕事小説とは、ストーリーの中に何らかの「お仕事」ネタが出てくる小説、もしくは主人公が何らかの「職業」についている小説』と書いてあったので、それだったら、学生が主人公の学園モノ以外なら、たいていの小説が当てはまってしまうような……(笑)
そして、ファン文庫の公式サイトにも、いただいた見本誌の帯にも入っていて私を尻込みさせていた『キャラクター+プチ謎+オシゴト』というキャッチコピーも、「作品によっては帯に入れていないものも出しているので、じゃあ、入れないということで」と言っていただき、それなら……と、ちょっと勇気が。
また、『こんな目立たない作品を、どこでどうやって見つけたのか』という素朴な疑問も、もちろんぶつけてみました。
その答えは、『小説家になろう』内のキーワード検索。
複数の編集者が企画を持ち寄る編集会議で、別の編集者の方が、候補の一つとして拙作を持ってきたのだそうです。
その方は、『小説家になろう』をキーワード『司書』で検索し、その中から、レーベルに向きそうな作品をピックアップしてきたとのこと。
司書は、お仕事小説の題材として人気の高い職業なのだそうです。
そして、会議の席で拙作を読んだ担当(予定)編集者様が、たまたま拙作を気に入って強く推してくださった結果、『そんなに言うならお前がやってみろ』ということになって、私のところに打診が降ってわいた……と、そういう経緯だそうです。
なるほど! 謎が解けました。
たしかに、キーワードで検索をかければ、どんなに古い作品でも、ポイントが低い作品でも出てきます。
それにしたって、司書で検索して出て来る作品は300作近いので、よく掘り出してくださったなとは思いますが……。
(ちなみに、『木苺~』のタグは、『日常 ラブコメ 探偵ごっこ 図書館員 三十代 ほのぼの ご近所 縁側 地元 お祖母ちゃん スローライフ 古風な女性 レトロ ノスタルジック』で、『司書』は入っていませんが、タイトルや紹介文に入っている単語は検索の対象になるからあえて外して、その分、タグには『図書館員』のほうを入れてありました)
コンテストにも参加せず、ただ作品をネットにアップしてあっただけで、出版社の方がたまたま目にとめて向こうから声をかけてくださるなんて、まさに往年の夢物語。拙作を気に入ってくれた編集者様は、まさに白馬の王子様!(女性ですが)
それもこれも、『小説家になろう』さんに登録していたおかげです。投稿サイトには、本当に白馬の王子様がいるのです。底引き網を持った王子様たちが、隅々まで巡回しているのです。
『小説家になろう』では、タグとあらすじはやっぱり大事なんですね。どんなにポイントが低くても、アクセス数が少なくても、こんなふうに、検索結果から誰かの目にとまる可能性もあるのですから。