第二回 お仕事小説じゃないんだけど……
その出版社さんは、『小説家になろう』さんとのタイアップでお仕事小説のコンテストを開催しているマイナビ出版様でした。
レーベルは、創刊して一年ちょっと(当時)の新進ライト文芸レーベル『ファン文庫』。
その公式ページを拝見して、あらためて、(なぜ私に……?)という疑問が大きくなりました。
だって、ファン文庫の公式ページには、お仕事小説コンテストを開催している会社のレーベルだけあって、『キャラクター+プチ謎+オシゴト』と書いてあるじゃないですか。
それなのに、先方が書籍化を打診してきた拙作は、別にお仕事小説ではありません。
確かに、主人公は図書館員だし、仕事のシーンも皆無ではないのですが、仕事自体が題材なわけではなく、ストーリーには仕事はあまり関係ないのです。
『小説家になろう』でも、ラブコメという扱いで、恋愛ジャンルに登録しています。
それでも打診してきたということは、先方はこれをお仕事小説だと思ってくださったのかもしれませんが、もしかして、『全編図書館内を舞台にストーリーを大改造、しかも○月までに』とかの難しい条件だったらどうしよう……。だったら、のろまで不器用な私にはムリ……。
と、いきなり弱気になりつつ、それでも、せっかくのチャンスですから、とりあえず前向きに検討してみようと決心。
打診のメールでは『まずは一度お会いして、難しいようならお電話で』ということでしたが、最初から全く無理そうなら、お互いに会うだけ無駄になるので、その前に、メールで、もう少し詳細を確認したいと考えました。
この時点での、私の最大の懸念は、どの程度の改稿を、どの程度の期間で要求されるのかということ。
そしてもうひとつ、もし出版した場合、自サイトに掲載している該当作品を取り下げる必要があるかどうか、また、もし取り下げた場合、絶版・品切れ後は作品の再掲載が可能かどうかでした。
自分の作品がすごく売れるなどとはこれっぽっちも思わないので、(どうせ一ヶ月とかで店頭から消えるんだろう。その後、せっかく書いて、これまで気に入ってくれた人もいるお話が、永遠に誰にも読んでもらえなくなるのは寂しい)と思ったのです。
『小説家になろう』からの取り下げだけなら、さほど抵抗ありませんでした。
私はもともと個人サイトで活動しており、『小説家になろう』には、スマホ対応のために一部の作品を転載している形なので、そちらを取り下げても自分のサイトには置いてあるのであれば、私にとっては単に平常運転なのです。
『お仕事小説コン』の募集ページにも『受賞作の「小説家になろう」上での掲載もご遠慮ください』と明記されているので、私は『お仕事小説コン』に応募していないとはいえ、先方の方針に合わせてもいいと思います。
が、もし個人サイトにも残せないなら、ちょっと思案のしどころかもです。
で、『前向きに検討させていただきたいと思いますので、まずはメールで、もう少し詳細をお知らせくださいますでしょうか』とお返事した上で、これらの疑問をぶつけてみたところ、最初のメールの方からの引き継ぎを経て、もし拙作を書籍化する場合に担当予定の編集者様から、非常に率直なお返事を頂きました。
改稿については、『改稿はお願いする。大幅か小幅かはそれぞれだが、作者さんはおおむね大幅と感じるようだ』というようなことでした。
もっともな話で、誠実な回答だと思いました。
作品の取り下げと絶版後の扱いについては、『基本的に取り下げてもらうが、どうしてもという場合は応相談、そして紙の書籍と同時に電子書籍も刊行するので、そちらで絶版が発生する可能性は、現時点では低い』とのこと。
(もちろん、電子書籍版も、双方の合意に基く絶版はありえるそうです)
なるほど、電子書籍があるのなら、WEB版削除の方針も納得できます。いざという時には交渉の余地が残されているのも、心強いです。
(※これはたぶん、私が『お仕事小説コン』とは関係なく声をかけていただいたからであって、『お仕事小説コン』応募作の場合は、また話が別だったのではないかと思います)
改稿への不安(改稿自体が嫌なわけではなく、遅筆で不器用な自分に短期間でそれができるという自信がない)は消えませんでしたが、『事前にしっかり打ち合わせして双方納得できる方針を立ててから実際の改稿に着手してもらう。こちらも作品のためにいいと思ったことは全部遠慮なく口にするが、譲れない点があればはっきり断ってくれていい』(要約)とのお言葉に信頼できるものを感じ、一度お会いしてお話を伺う決心がつきました。
……が、先方にそれを伝える前に、私には、一つ、先にやっておきたい――道義的にやらなければならないことがありました。