第十回 ちょっぴり波乱?
そんな楽しい改稿の日々の間にも、ちょっとした波乱がありました。
順調に進んでいた改稿のやりとりの途中で、しばらく担当様の反応が遅れ気味になり、トラブルが発生していて……というお詫びのメールが来た、さらに数日後、突然の意外な打診が……。
十一月刊行の予定を前倒しして十月刊行にできないだろうか、と。
ファン文庫は今のところ基本は毎月二冊ずつの刊行ですが、いろいろあって、このままだと十月は一冊刊行になってしまうかもしれない状況にあり、可能ならばそれを避けたいとのことで……。
その時は『いろいろと(お察しください)事情があって』とだけ聞きましたが、後で伺ったところによると、『単に1冊分の原稿が落ちたということではなく本当に複合的にいろいろなことが起こっており、自分のせいだと思う方が複数いるかもしれないが、そのどれもが要素のひとつであって決定的な要因ではない(要約)』というようなことだそうです。結局なんだかよくわからないけれど(そして私にはあずかり知らぬ事情なので、これ以上聞く気もないけれど)、とにかく、当時、よっぽど大変なことになっていたのでしょう。
(そんな大変なときでも、私の『この一文はこう変えたほうがいいでしょうか。どうしましょう?』みたいな些細な相談に丁寧に向き合ってくださっていた担当様に感謝です!)
そういうわけで、その時も、事情はわからないなりに、担当様がとてもお困りなのはお察ししました。
できることならお役に立ちたい、お世話になっている担当様が困っているなら助けになりたいという気持ちはありました。
しばらく悩んだあげく、(でも……)と、考えました。
出版時期を一ヶ月早めるということは、それだけ、ブラッシュアップにかけられる時間が減るということです。
もちろん、商業出版する以上、誤字脱字や悪文などは出版社側できちんと直してくださるはずで、誤字だらけの本が出てしまったりはしないと思いますが、私は、自分でも、ちゃんと、出来る限りの手をつくさせてもらいたかったのです。
だって、出版社様にとっては毎月毎月出版する本の中の一冊にすぎなくても、私にとっては、たぶん一生に一度の、大切な一冊なのですから。
こういうとき、アマチュアは強いですね。失うものが何も無いですから。
もし私がプロの作家だったら、多少の無理をおしてでも、要望に応えようとしたかもしれません。
でも、アマチュアの場合、たとえば、無理な我儘を押し通そうとした結果、万一、本が出なくなったりしても、もともとゼロだったものがゼロのままなだけでプラスがマイナスになるわけではありません。生活もかかっていないから、いざとなったら、いくらでも、自分のこだわりを優先してしまえるのです。
そんなアマチュア作家を相手にする出版社様には、プロが相手の時とはまた違うご苦労も多々あるのではないかと、お察しします。……なんて、私が言うな、ですが。
そういうわけで、申し訳なく思いながらも、お願いをお断りしてしまいました。
先方も、「無理を言ったのはこちらなので」と、受け入れてくださいました。
私にもっと自信と実力があればここでお力になれたのかもしれないのに、至らぬばかりにお役に立てなかったことには忸怩たるものがあり、その後、レーベル公式サイトの刊行作品紹介欄の十月のところだけ片側が寂しく空いているのを見るたびに、別に私が開けた穴ではないけれど、ちょっぴり申し訳ない気持ちになるのでした……。