第二十五話
環礁のラグーンを駆けてくる姿が拠点から見えた。今日の見張りをしていた冒険者は駆けてくるリーグを見て「何だよあれ……」と唖然としていた。
リーグはカニのハサミを掲げて海面の上を駆けていた。もちろんサップは係留したままである。リーグたちは早朝のサップは様式美と思っていた。
砂浜まで駆け抜けたリーグは唖然としている冒険者に挨拶して設営してある拠点に向かった。冒険者はフラフラとリーグの後をついていった。
リーグはハサミを置いて振り返ると冒険者がハサミを見ていた。
「このハサミを持ってたカニがいたよ。少し食べたけど美味しかった。もし手すきだったら乾燥をお願いしていい? 落とし物じゃないから乾燥させるの」
リーグは冒険者に話しながら乾燥魔道具を荷物から出してカクカクと頷いている冒険者に渡した。受け取ったのを確認すると「網借りるー」と駆け出した。
「わかった……」
冒険者はフラフラとハサミに近寄りペチペチと叩いてみた。この大きなハサミを持ったカニを想像して顔色を悪くした。普通に考えて討伐は無理だった。
「なんか保管空間にめちゃ切身あった。だいぶ戦い慣れたのかな。落とし物の切身は腐らないし非常時用なんだろうけど……真面目だよねー」
リーグは拠点に作った保管空間に入った。
この保管空間は暴風で吹き飛ばされないようにリーグが掘った穴を冒険者たちも加わり整備された。浮き桟橋もここに仕舞われる事になる。
リーグは網を取り出して砂浜に向かって駆け出した。
「爆裂ココナツが八十個はヤベえと思うんだが……。置いていく選択肢はないよなー。基本は頑丈だから大丈夫なんだけど慎重に運ぶか」
リーグは一面に並べられた爆裂ココナツを網で包み始めた。網と言っても筒状ではないので三十個ぐらいで諦め背負袋に八個ほど詰め込んで外に向かった。
往復して戻ってくると冒険者たちが遠巻きに眺めていた。
「おーいリーグ。それまさか爆裂ココナツか?」
ベルクが遠目からリーグに声を掛けてきた。リーグは「爆裂だよ?」と軽く答え網に次の分を包み始めた。冒険者たちは呆れ顔でリーグを見ていた。
「それ……爆裂したらマジやばいって。最初の爆裂で三人飛ばされたんだそ? おまっ……そんなに詰めるな! それ爆裂したらリフールまで飛ばされるぞ!」
冒険者たちはジリジリと後退し始めた。
「頑丈だからこれぐらいは大丈夫だよ。それに新技を開発したから鍋はココナツ水を入れるのに必要なだけで歪まないから大丈夫!」
「いやいやいや、前もそう言って爆裂させただろ!」
リーグには爆裂の前科があるためベルクは簡単に信用しなかった。確かに一つなら死ぬことはない。しかし明らかに致死量としか思えない数を詰め込んでいた。
リーグは今回も三十個ぐらいにして背負袋にも詰めて拠点に移動した。
「マジかよ……えっ? リーグの中で爆裂ココナツはどういう認識なんだ? 大体、最初に吹き飛んだのあいつだろ……リーナの好物だとああなるのか?」
ベルクは遠い目でリーグが出ていった通路を眺めていた。仲間に促されベルクたちはリーグと距離を取りながら外に向かうため通路に入った。
三回目の輸送で全ての爆裂ココナツを運び出したリーグにリーナも合流した。拠点に戻ってきた二人は早速爆裂ココナツを処理する事にした。
「爆裂ココナツ用に水壁を工夫してみたんだ。そこにあるパイプで取り出すんだけど……明らかに鍋が足りないかな。大鍋を二個借りてきて」
リーナに鍋の調達を頼みリーグは水壁を展開した。展開した水壁の見た目は大鍋だった。位置を固定した鍋水壁にリーグは爆裂ココナツを一つ入れた。
「爆裂ココナツは飛び散るココナツ水をどれだけ散らさないかに掛かってるんだよな。この鍋水壁は強度を高めにしてるから大丈夫だとは思うんだよな」
鍋水壁を発動したがリーグは強度に自信があったわけではない。また爆裂ココナツの厄介な点は爆裂まで持って行く方法だった。
「まぁ……拠点からは離れた砂浜だし爆裂しても被害はない……はず。最初に試すならやっぱりこれだよな……」
リーグは鍋水壁に蓋をした。本来であれば爆発的に膨張する爆裂ココナツを完全密封した状態でリーグは爆裂させようとしていた。
「よーしいくよー……ドリルビット!」
リーグはドリルビットを展開して思い切りよく外から爆裂ココナツに刺した。
「ドゴッ!」
鍋水壁の中で爆裂ココナツが爆裂した。しかし鈍い音とともに水壁内部が白く濁った。リーグは水壁が破裂しなかった点を評価した。
「第一段階は成功した。次のステップはとにかく空気を抜く事だな」
リーグはパイプをそっと蓋の水壁に差し込んだ。
「……」
パイプは水壁を通り抜けたが特に変化はなかった。
「あっ!……そうだった。防御面でない方は突き抜けるけどパイプを差し込んでもパイプ内の中空部分にも水壁が展開されるから……抜き取れるわけなかった」
リーグはイケると思った方法がいきなり暗礁に乗り上げた。
「大鍋借りてきたよ〜」
リーナが大鍋を二つ持って歩いてきた。ちなみにリーナの手袋は筋力強化ではなかった。リーナの考えでは器用強化じゃないかとの事だった。
「あれ? 準備終わってない感じ?」
腕を組んで眉を寄せたリーグを見てリーナは首を傾げた。リーグは状況を説明した。本命のパイプはそもそも最初からダメなやつだったと自白した。
「んん?……ていうかココナツ水を入れるのに大鍋二個持ってきたんだよ? なんで大鍋と同じ大きさの水壁で爆裂させたの?」
リーナは大鍋サイズの鍋水壁を見てリーグに指摘した。指摘されたリーグは目を見開いてリーナを見つめた。
リーグはリーナに下がるように指示してリーグも下がった。そして大鍋四個分の鍋水壁を展開し更に蓋をした。そして小さい方の鍋水壁を解除した。
鍋水壁内が一瞬白く濁りココナツ水が姿を現した。




