第39話:三つ巴の死闘
「……面白い。その死にかけの体で、まだ、私に挑むか」
ゼーリオンは、奥義を使ったことで魔力を消耗しきっているはずのゼノンを、余裕の表情で見下ろした。
「だが、お前一人で、私を止められるとでも?」
「一人では、ありませんよ」
ゼノンは、不敵に笑った。
その言葉に応えるかのように、崩落した洞窟の入り口から、数多の光が差し込んできた。
王都騎士団の精鋭たちが、ゼノンの元へと、集結しつつあったのだ。
「――ゼノン様! ご無事でしたか!」
「遅くなりました! 全員、到着しております!」
騎士団長が、ゼノンの隣に並び、剣を構える。
その数は、百を超える。一人一人が、王国最強を謳われる、屈強な戦士たちだ。
「……なるほど。これが、お前の切り札か」
ゼーリオンは、集結した騎士団を見渡し、それでも、なお、その表情を崩さない。
「だが、数が増えたところで、結果は同じだ。烏合の衆が、いくら集まろうと、獅子には勝てん」
「それは、どうでしょうか」
ゼノンは、杖を構え直した。
「我々の目的は、あなたに勝つことではない。ただ、時間を稼ぐこと。……その一点において、我々は、獅子をも喰らう、蟻の群れとなってみせましょう」
「――全軍、聞け!」
ゼノンが、声を張り上げた。
「我々の使命は、ただ一つ! 勇者リアンが、その役目を終えるまで、この魔族を、この場に釘付けにすることである! 命を惜しむな! 己が身を盾とし、我らが世界の、未来を繋ぐのだ!」
「「「オオォォォォ!!」」」
騎士たちの雄叫びが、山々にこだまする。
彼らの士気は、最高潮に達していた。
「……フン。愚かなことだ」
ゼーリオンが、指を鳴らす。
すると、彼の周囲の地面から、先ほどと同じ、無数の黒い棘が、森のように出現した。
「一人残らず、串刺しにしてくれる」
「――行けぇぇぇっ!!」
ゼノンの号令と共に、壮絶な戦いの火蓋が、切って落とされた。
騎士たちは、死を恐れず、次々と黒い棘の森へと突撃していく。
魔法使いたちは、後方から、支援の魔法を雨のように降らせる。
ゼノンは、その中心で、的確な指揮を飛ばしながら、自らも、最大級の攻撃魔法を、ゼーリオン目掛けて放ち続けた。
それは、まさしく、死闘だった。
騎士たちは、黒い棘に貫かれ、次々と倒れていく。
だが、誰一人として、退こうとはしない。
一人が倒れれば、次の者が、その屍を乗り越えて、前に進む。
彼らは、自らの命を、未来へと繋ぐための、燃料としていた。
「……しぶとい、蝿どもめ……!」
さすがのゼーリオンも、その、常軌を逸した決死の猛攻に、わずかに眉をひそめていた。
彼は、初めて、本気の魔力を解放し始めた。
空からは、黒い氷の隕石が降り注ぎ、大地は、底なしの闇の沼へと変わっていく。
戦場は、阿鼻叫喚の地獄と化した。
だが、それでも、ゼノンと騎士団は、決して退かなかった。
彼らの心は、一つだった。
友のために。世界の未来のために。そして、自らが信じる、正義のために。
――その頃、俺は。
エリアを背負い、広大な針葉樹の森を、ひたすらに南へと向かっていた。
背後で繰り広げられているであろう、壮絶な戦いの気配を、肌で感じながら。
聖剣が、俺の心と共鳴し、断片的な映像を、俺の脳裏に送り込んでくる。
倒れていく、名も知らぬ騎士たちの姿。
血を吐きながらも、杖を構え続ける、ゼノンの姿。
そして、そのすべてを、嘲笑うかのように見下ろす、ゼーリオンの姿。
「……っ……!」
俺は、何度も、足を止めそうになった。
戻るべきではないのか。
仲間たちが、命を懸けて戦っているのに、俺は、こうして、背を向けて逃げ続けていて、いいのか。
だが、そのたびに、俺は、背中で聞こえる、エリアの、か細い寝息に、我に返った。
俺には、俺のやるべきことがある。
彼らが、命を懸けて作ってくれた、この時間を、無駄にするわけにはいかない。
俺は、唇を噛みしめ、涙をこらえ、ただ、前だけを見て、走った。
一歩でも、早く。
一秒でも、早く。
約束の場所へ。
俺の旅も、ゼノンの戦いも。
すべてが、最後のクライマックスへと、向かっていた。
二つの戦場は、遠く離れていながらも、見えざる絆で、確かに、繋がっていたのだ。




