表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/86

第66話 もう一つの足音と、少し広がる輪

朝、空はうすく曇っていた。

 光は弱いが、冷えはやわらいでいる。

 冬の中に、少しだけ緩みがある。


 台所で湯を沸かす。

 火の音が静かに広がる。

 味噌桶の蓋を開けると、匂いが落ち着いている。


 縁側に出る。

 坂の下を見る。


 戸の音。

 佐伯さんが外に出てくる。


 その後ろに、もう一人。


 スキー帽の子どもだった。


 二人で何か話しながら、坂を上がってくる。

 足取りが、昨日までと少し違う。


 「来たな」

 みーちゃんが言う。

 「うん」


 縁側の前で、二人が止まる。


 「おはようございます」

 佐伯さんが言う。


 「おはよう」

 そう返す。


 子どもが少しだけこちらを見る。

 警戒はしていないが、近づきもしない。


 「この子、さっき会った子で」

 佐伯さんが言う。


 「知ってる」


 子どもが少し驚く。


 「なんで」


 「顔は知ってる」


 それだけで十分だった。


 少し沈黙。


 佐伯さんが少しだけ迷う。


 「中、どうですか」


 今度は、佐伯さんが言う。


 その言葉に、少しだけ驚く。


 子どもがすぐに首を振る。


 「いい」


 はっきりした拒否。


 佐伯さんが少し困った顔をする。


 私は少し笑う。


 「縁側でいいですよ」


 子どもが少しだけ近づく。

 完全には来ない。


 その距離がちょうどいい。


 タマが縁側に出てくる。

 子どもが目を丸くする。


 「触ってもいい」


 「多分」


 手を伸ばす。

 タマは逃げない。


 少しだけ、距離が縮まる。


 佐伯さんがほっとした顔をする。


 「さっき、一緒に坂の下まで行って」


 「うん」


 「ついてきたんです」


 子どもが小さく言う。


 「ついてきただけ」


 それでいい。


 風が通る。

 三人分の空気が、少しだけ混ざる。


 みーちゃんが少し離れた位置で座る。


 「増えたな」


 心の中でうなずく。


 「うん」


 子どもがタマを撫でる。

 動きはぎこちないが、優しい。


 佐伯さんがそれを見る。


 少しだけ安心した顔。


 「ここ、あったかい」


 子どもがぽつりと言う。


 縁側は冷たい。

 でも、空気はやわらかい。


 「そうだね」


 短く答える。


 しばらく三人で座る。

 言葉は少ない。


 でも、空気は重ならない。


 やがて子どもが立ち上がる。


 「行く」


 それだけ言う。


 佐伯さんも立ち上がる。


 「また来ます」


 「どうぞ」


 二人が坂を下りていく。


 足音が二つ。


 縁側に戻る静けさ。


 みーちゃんが言う。


 「輪ができたな」


 「まだ小さいけど」


 それでいい。


 冬の村に、

 もう一つ、

 足音が増えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ