第25話:奇襲
「はっ、巣を突かれた蜂みてえに、ぞろぞろと来やがったな!」
「楽しんでいるんじゃねえよ、お前は。間違っても殺すなよ。後々面倒なことになるからな!」
二階通路からの援護射撃と、装甲服姿の能力者が発動した攻撃を避けながら、基地の侵入者であるアレンとジンは互いに声を掛け合いつつ、手近にいる順に敵の数を着実に減らしていた。
刃と銃弾が触れ合い、攻撃が遮蔽物に当たって炸裂する音が、地響きとなって建物全体を揺れ動かす。
そのような戦闘の最中、アレンだけは物陰に身を隠す都度、まるで何かを物色しているかのように戦闘員達一人ひとりをじっと見つめていた。
「おい! キースさん達はまだか!? 俺達の力じゃ、抑えきれ――」
「喋ってるんじゃねえよ、馬鹿が」
目の前で起きている非現実的な光景に、おののいた一人が思わず援護をしていた仲間の方を振り返って叫ぶ。
しかし、その一度だけ見せた隙が命取りとなり、物陰から姿を現したアレンの蹴りが物理的に彼を黙らせた。
「何だぁ? さっきのドンパチ野郎共と違って、今度の相手は能力者か? 何なんだ、この戦闘集団は」
「知らねえよ。大方、どさくさに紛れて戦争を起こしてえテロリストだろ」
「……適当に言っているな。しっかし、さっきの坊やが見当たらねえな。こいつらも『当たり』じゃねえんだろ? アレン」
「ああ。だが、この奥にいることは確かだ」
ちらりと、アレンは二階通路を一瞥する。
「はっ、そうかそうか。……じゃあ、雑魚能力者共は俺が引き受けるから、お前は先に行っているか?」
「ああ。剣よこせ」
アレンの要求に応え、ジンは今まで預かっていた剣を引き抜いて、持ち主の元へと放り投げる。
床の上を滑りながら足元に届いた剣をアレンは拾い上げると、微かに口元に笑みを浮かべて、攻撃が飛び交う空間を一気に駆け出した。
「……くそっ、ちょこまか動きやがって……っ!」
狙いの定まらない銃口を動かしながら、二階で照準器越しにアレンを睨みつけていた戦闘員が苛立たしげに言った。
「お、おい、どうする? 俺達も下に行って、加勢した方がいいんじゃないのか?」
「……! いや、待て」
何かに気づいたのだろう。照準器から目を外した彼は、一向に当たらぬ攻撃に不安感を抱いた仲間を静止し、下を見るように促した。
彼の手の動きは、戦斧を使って攻撃を弾き返しているジンと、そこに向かって一直線に疾走しているアレンを指していた。
「奴らが合流したところを狙え」。そう周囲にいる仲間達にジェスチャーを送り、狙いを一点に絞って機会をうかがう。
「――今だ、撃て!!」
二人の姿が重なった瞬間、号令に従って戦闘員達は引き金を引き始める。
しかし、彼らは気づかなかった。アレンがジンの背中を踏みしめる直前、ジンの背に黒い渦のようなものが現れ、彼女の足に纏わりついていたことに。
「おらぁっ! 行ってこい、アレン!!」
ジンの叫び声と共に、増幅する黒い闇。
その闇に乗せられて、前方へと跳躍したアレンは勢いを落とすことなく二階通路へと飛来していった。
銃口を下に向けた状態で、驚愕の表情を浮かべる戦闘員達。
そんな彼らをよそに、音を立てて着地したアレンはゆっくりと面を上げると、薄ら笑いを浮かべて剣を構える。
「さぁて、よく狙ってから撃ってみろよっ?!」
そう言うや否や、アレンは目の前にいた戦闘員の腕を斬りつける。
剣の動きに合わせて赤い鮮血が飛び散り、壁や床を汚した。
銃を落とし、痛みに悶える戦闘員の下顎を剣の柄で殴り卒倒させてから、アレンは視線の先にいる新たな獲物に向かって嗤いながら飛び込んでいった。
「くそっ、何なんだよ、こいつらは!? おい! あのガキを追い掛けろ! 先に行かせるな!!」
「おいおい、てめえらの相手は俺だって言っているだろ?」
取り乱した様子で指示を出し、急いで二階に赴こうとしていた戦闘員達の足を誰かが止めさせた。
妨害ともとれるその言葉に彼らは表情を歪ませ、背後を振り返ると、そこには巨大な戦斧を片手に、ニヤついた顔で中央にたたずんでいるジンの姿があった。
「馬鹿が……。たった一人で俺達能力者に勝てるとでも思っているのか? お前ら! 『あれ』を使うぞ! もう遠慮はいらねえ、こいつから先だ! 俺達を敵に回したことを、あの世で後悔させてやれ!!」
余裕を見せられたことで興奮気味に叫び、この場にいた全員に呼び掛ける戦闘員。
それを合図に、彼らは懐から緑色の液体が入った注射器を取り出すと、躊躇わずに腕に突き刺して、ジンを取り囲むように円陣を組んだ。
自身の両側に竜巻を発生させる者、全身に眩い雷光を纏う者、猛毒で出来た剣を生み出し構える者。
各々の強化した力を発動し、能力者達は目の前の敵を睨みつける。
「おーおー、マジで遠慮なしだな、こりゃあ」
多勢に無勢な状況下にも関わらず、げらげらと笑いだすジン。
やがてひとしきり笑い終えると、ゆっくり息を吐き、戦斧を床に降ろしてからだらりと両腕を下げた。
「じゃあ、俺も一丁派手に暴れるとするかなぁ」
戦闘員達を見つめ、ジンはそう呟くと、にたりと歪んだ笑みを浮かべて両腕に力を込めた。
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