販売に向けて準備する
特例が発令されたということなので、翌日になってからギルドへ手続きをするために向かう。
翌日まで待ってから行くのは、余りにも早すぎるとギルドへ情報が届いておらず二度手間になるかもしれないからなのだけれども……。
「おはようございます、ミーアさん」
何度かギルドに来ているので、受付嬢のミーアさんともすっかり顔馴染みになれた。
「おはようございます、エリスさん。ラインハルトさん。今日はどうされたのですか?」
「えっとですね……」
まずはギルド内に告知がされていないか周囲を見渡してみる。
しかしどこにもその案内は貼り出されていない。
まだ情報が解禁されていないのであれば自分たちだけが手続きをする訳にはいかないが、そもそもギルドには情報が届いているのか他の人には聞こえないように聞いてみると……。
「……少々お待ち頂けますか? ギルド長に聞いてきます」
何やら慌てた様子のミーアさんは確認の為に、ギルド長であるライアスさんの元へ向かう。
そして暫く待っていると、ここでは話せないということでギルド長の部屋に通されることになった。
「また貴女たちですか…………どこで聞いたのか……と聞くのは野暮ですかね。むしろ国王様が今回の発令を下されたことに、貴女たちは何か関わっているのですかな?」
「えっとそれは……」
私はラインハルトの顔を見る。
この事を話しても構わないのかの確認だったのだが、頷いてくれたので話すことにした。
「……確かに提案はさせて頂きました。ポーションを自由に売り買い出来る環境になった方がより多くの人たちがポーション作りを始めると思ったからなのですが、何か問題があったのですか?」
わざわざ聞いてくるということは何かしらの疑問を持っているからだと思うのだが、ライアスさんは首を横に振るう。
「いえ……問題は無いです…………冒険者にとってはきっと便利が良くなるでしょうね」
「そうですよね、分かって頂けて良かったです!」
「…………つまり、本日お二人はポーションの販売認可を受けに来られたということで宜しかったですかな?」
「はい、その通りです……ですがまだ告知されていないようですし、また出直した方が良いのでしょうか?」
発案したのが私たちで既に発令されたことを知っているとは言っても、肝心のギルドが準備出来ていないのであればそれに従うまでだ。
「いや、貴女たちであれば問題ないでしょう。オルタスの町でのポーション販売に関する自由化は、王令として既に発令されたこと。そして貴女たちは条件を満たされている。追って許可証は発行しますが、今から販売に移られても構いませんよ」
ライアスさんは許可を出してくれるが、まだ他の人が知らない状態で先んじて行うつもりはない。
そんなことをして必要無いトラブルを招き寄せたくないからね。
「いえ、大丈夫です。またギルドの方で通達がされてから改めて許可を貰いに来ますから。販売はそれからにします」
「分かりました…………それでしたら、なるべく早く公布出来るように準備致しましょう」
「お願いします」
こうしてライアスさんとの話し合いを終える。
許可証をまだ貰えなかったけど着々と準備を進めてくれるとの事なので、それを待つことにして帰宅した。
販売はまだ出来なくてもそれに向けて準備しなくてはいけないことは沢山ある。
販売に向けてポーションを準備しなくてはいけないし、その為には薬草を大量に採集し、容れるための瓶も必要だ。
「さぁ、みんなで手分けして頑張るわよ!」
他の人に先んじて販売するのは気が引けるけど、その準備をするぐらいなら悪いことではないだろう。
『あんまりムリをしたらダメだよ?』
やる気に満ち溢れて拳を握りしめた私を見て心配したのか、フェリがすり寄ってきて足下に座る。
「うん、ありがとね。でも私は大丈夫だよ……ううん、むしろ今頑張るのは、後々に楽をするためだからね」
『そうなの?』
「うん。ポーションが沢山売れたら、お金がたくさん手に入るから、生活に余裕が出来るからね」
『そうなんだ……良く分からないけど、エリスが楽をするために必要なんだね?』
「うん、そうだよ」
『わかった。なら僕も頑張るよ。エレン、手伝ってくれる?』
フェリは私の足下から立ち上がり、エレンの方を見る。
「うん、いいよ。今頑張ってお金が入ったら、美味しいお菓子が一杯食べられるようになるんだよね?」
「えっと、まぁそういうことにもなるわね」
「ならオレも頑張って手伝うよ!」
「ありがとう、エレン君。でも疲れたら直ぐにフェリ君に頼ってね?」
「うん、分かったよ。なら、行こうぜ、フェリ!」
『うん!』
フェリとエレンは外に飛び出す。
あれだけヤル気に満ち溢れてくれているから、きっと帰ってくる時には薬草を一杯持って帰ってきてくれるだろうね。
「私は何を手伝えばいいのかな、エリス?」
「そうね、ラインハルトにはポーションを容れるための瓶を準備して欲しいかな。たぶん直ぐに需要が高まると思うから、買い占めるのではなくて新規で作製して貰いたいの」
「それは何故だい? 売っているものを買った方が早く準備出来るし、今からでは間に合わないと思うけど?」
確かに既存品を買った方が簡単だし、直ぐに手に入るだろう。
でもそれで他の人が買えなくなったら、きっと恨みも買うことになるだろう。
それに私には他の目的もある。
「いいのよ、どうせそんなに直ぐにはポーションを大量に用意は出来ないからね。それに特注の瓶だと私たちのポーションだってことが一目で分かるようになるでしょ? 皆が売るようになるなら、差別化を図れるようにしておきたいの」
ポーションだから買ったという所から私たちのポーションだから買ったに変えられれば、沢山の業者が溢れてもお客さんを確保し続けられるだろうからね。
「……そうか、確かに信頼を得ることは大切だからね。なら、どんな風な特注品にするんだい? 差別化を図るなら、他にはない何かが必要だと思うけど」
「そうね……瓶の形を変えると値段が高くなりそうだから、一目で分かる印を付けるぐらいにすべきよね……」
紙に幾つか図形のアイデアを描いていく。
どれにしようか迷うけれども、この世界に無くて日本人だった私にとって馴染み深いデザインを選ぶことにした。
「これなんかどう思う?」
「うーん、見たことはないけど、これは花なのかな?」
私が描いたのは桜の花びらだ。
五枚の花弁が集まったデザインはこの世界では見たことがないし、可愛らしくて特徴的である。
「ええ他にはないと思うからいいと思うのだけれども、どうかな?」
「うん、いいと思うよ。珍しいし、分かりやすいからね」
「良かった。ならこのサクラ印を入れたら瓶を特注してきてね」
「サクラ? この花はそういう名前なのかい?」
「えっと、今名前を付けたのだけれど、変かな?」
桜がこの世界に無いので、誤魔化しておく。
「そうか……うん、いい響きだし良いと思う。ならサクラ印を入れた瓶を発注してくるよ」
「うん、お願いね」
ラインハルトは私のサクラの絵が描かれた紙を持って出掛ける。
「よし、ならニコちゃん。私たちは他に必要な物を買いに行こうか!」
「はい!」
自分たちで販売をするならその為の準備も必要だ。
店舗があるわけではないから何処かの場所にポーションを運んで販売をする必要がある。
屋台とまではいかなくても、何かしらの物は欲しい。
こうして私たちはポーション発売に向けて着々と準備を進めるのであった。




