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特例


 翌日の朝になってもラインハルトは帰ってこなかった。

 仕方がないのでニコと一緒にポーション作りを再開する。

 そしてお昼を過ぎた頃には全ての薬草をポーションにし終えた。


「うん、これだけあれば結構な儲けになるだろうね」


 積み上がったケースの中にはポーションがそれぞれ一ダース入っている。

 なんだか中身がビールに見えてくるのは気のせいだろう。


「お昼にするから、エレン君を呼んでこようか?」

「はい!」


 エレンとフェリを探しに家の外に出る。

 どこにいるのかなと思ったら、町の外で訓練をしていた。

 泥だらけで帰って来た理由はこれだったみたいだ。


「凄いね、エレン君。本当に強いんだね!」


 私が目で追えないフェリの動きに、エレンはしっかりと付いていっているのだ。

 それだけでも、少なくとも私よりもエレンが強いのだと分かる。


「フェリが凄いんだよ! オレ、本当に強くなった気がする」

「そうなんだ……フェリ君、ありがとうね」


 私はフェリの頭を撫でてあげると、何かを訴えるように私の目を見てくる。


「うん、いいよ。二人ならきっと受け入れてくれるから」

『まぁ、既にエレンには話したんだけどね』

「え、そうなの?」

『うん、エレンに教える為には喋った方が都合が良かったからね。駄目だった?』

「ううん、駄目ではないよ。エレン君の相手をきちんとしてくれて有り難うね」


 私はもう一度、フェリの頭を撫でてから、エレンとニコの方を見る。


「二人も聞いたことあるかもしれないけど、フェリ君は聖霊獣と呼ばれる存在なの。他の人に知られたら大変なことになるかもしれないから、言わないでね?」

「うん、分かってる。喋るワイルドウルフなんて聞いたことないもん」

「それもなんだけどね。フェリ君は本当はワイルドウルフではなくフェンリルなんだよ。これも知られたら騒ぎになるから秘密ね」


 二人はフェンリルのことを知らないようで首を傾げる。


「エリスさん、フェンリルって何なの?」

「えっとね……簡単に言うと物凄く強いウルフさんって感じかな? でも怖くはないから、今まで通り普通に接して上げてね」

「うん、私は怖くないよ」


 ニコは近付いてきて、フェリの頭を撫でる。


「おい、ニコ! フェリは凄いんだからな。本当に強いんだぞ!」

「お兄ちゃんより?」

「ああ、フェリはオレより強いよ。全く歯が立たないもん」

「そうなんだ……フェリくん、凄いね!」


 ニコがフェリに抱きつく。


『うん、僕は凄いんだよ。だからもっと撫でてもいいんだよ?』

「うん、一杯撫でてあげるね!」


 フェリはニコに撫でられて満足そうな顔をする。

 そんな微笑ましい姿をみた後に、昼ご飯を食べる為に家に戻ることにした。

 すると家には王都から戻ってきたラインハルトが待っていた。


「おかえりなさい、ラインハルト。遅かったみたいだけど、何かあったの?」

「心配させてすみません。問題といいますかね……色々とありまして、一つの特例が国王様より発令されました」

「はい?」


 特例とは一体何のことなのであるのだろか?

 私はラインハルトに王都で何があったのかを聞く。

 王都に戻ったラインハルトは御母様に手紙を渡してくれたのだけれども、何故かそのまま国王様へ一緒に謁見することになったらしい。

 そして実験的にオルタスの町に限って、ギルド以外のポーション販売を許可して頂けたそうだ。


「……つまり、私たちは自由にポーションを販売しても問題ないということ?」

「ええ、そうです。エリスが作ったポーションをギルドを介することなく販売出来るのですよ。それにニコが作ったポーションも町の外でコソコソと売る必要なく、町の中で堂々と売れます」


 ラインハルトの言葉でニコは顔色がパァっと明るくなる。

 これまではギルドに納入しようにも年齢の壁があり、そもそもギルドに登録することさえ出来なかったのだ。

 だからこそニコとエレンは、危険を承知で町の外でポーションの販売をしていた側面もある。

 これから町の中で売っても良いことになれば魔物に襲われる危険は無くなるし、かなりの違いになるだろう。


「ほんとうですか!?」

「うん、本当だよ。でも無許可に販売が行われると品質に問題があるポーションが出てくるかもしれないから、ギルドがその許可を出すことになったけどね」


 本当に自由に売れるようになったならば喜ばしいことだ。

 けれども一つだけ気になることがある。


「でも、ギルドが許可を出さなかったら売ることが出来ないのよね? これまで利益を独占していたギルドは、許可を渋るのではないかしら?」

「うん、当然その可能性についても考えられるから、暫定的な処置も取り決めて貰ったよ」

「……それはどういうものなの?」

「これまでギルドにポーションを納品する許可を得た者は、無条件に販売の許可が得られるというものだよ」


 つまり一度ギルドにポーションを納入した私は無条件で許可をされるということだ。

 けれども結局ニコはギルドの判断に委ねられるということになる。


「……ニコちゃん、一つ提案なのだけれどもね。これからは二人でポーションを作って一緒に売らないかな? 強制はしないけど、これからも一緒に居たいと思ってくれるならその方がいいと思うの」


 成人になっていないニコが、ギルドから販売許可を得られる可能性は低いだろう。

 それならば、これからは私たち二人で作製と販売を一緒にしてしまえばいいのだ。

 もちろんこれ以上はここに居たくないと思っているならば止めないけど、私は一緒に作っていきたい。


「うん、いいよ。エリスさんといっしょに作るの楽しかったから。それにここにいれば美味しいお菓子を食べられるもんね!」

「良かった。なら、今日は飛びっきり美味しいお菓子を作ってあげるね!」


 自分たちでポーションを販売することになるならば、これまで以上にやらなくてはいけないことがある。

 これから色々と忙しくなるかもしれないけど、その前に一旦ティータイムにすることにしたのであった。

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