装備を整える
生身では魔物の一撃でアッサリと殺られてしまうので、武具屋に防具を買いに行く。
今回はフェリ君もお留守番せずに一緒に向かう。
従魔といっても普通は町の中を自由に歩くことは出来ないのだけれども、フェリ君はいつの間にか町の中でも認知されていて、町のマスコット的な存在になりつつある。
……まぁ見た目は可愛い子犬だもんね。
でも本当は、大人になったら国を滅ぼせるだけの力を持つフェンリルだと知ったらどうなるんだろう。
「ここがラインハルトのオススメのお店なの?」
ラインハルトが一軒の店の前で止まるのだが、目の前にあるのは他のお店よりも小さく全く商売っ気のしない店舗だ。
さすがに放置されていた私たちの家みたいに蔦で覆われてはいないけどね……。
「そうだよ。ちょっと店主は偏屈だけど、その腕は確かだから安心して」
「そうなんだ……私は防具のことなんて分からないから、全部任せるけど大丈夫?」
「ああ、任せてくれ」
ラインハルトに続き私とフェリ君はお店の中に入る。
大小様々かつ豊富な種類で選り取り見取りな武器達に、私はキョロキョロと店内を見渡す。
「ねぇ、あれって扱える人が本当にいるの?」
私が指し示したのは背丈ほどの長さと体を完全に隠してしまうほどの幅を持った大剣だ。
あんな大きな物を振り回す姿なんて想像がつかない。
私では持ち上げることすら叶わないだろう。
「ああ、それは竜切り用の大剣だよ。最近はあんまり竜を見かけないから、使っている人は、まずいないかな……でも縁起物として家に飾る人はいるから、需要はあるのだろうね」
「そうなんだ……でも、竜って本当にいるんだね……」
動物が進化したような魔物がいることは知っているが、本当に竜までいるんだ……。
まぁフェリ君も本当は、伝説上の生き物なフェンリルだし、有り得なくはないよね。
でも亜人はいないこの世界だけれども竜というかドラゴンがいると聞くと、本当にファンタジーな世界なんだなと思う。
「昔は数が多くて頻繁に現れたそうだけど、今はなかなか見ることすら叶わないからね。竜が飛んでる姿を見ることが出来たら、幸せになれるとも言われてるよ」
「へぇー、そうなんだ。それならいつか見れたらいいね」
竜に遭遇するのは怖いけど、そんな言い伝えがあるなら会ってみたいと思える。
「あっ、オルドさん、こんにちは。前に話していたエリスを連れて来ましたよ」
店の奥から白髪のお爺さんが姿を表し、ラインハルトが声を掛ける。
「……その娘が本当に冒険者をやるのかね?」
オルドさんは私の方を見て疑念を持った顔をする。
「はい、一応はそうです。でも、ポーションを作って売るためですけどね」
「ふん、そうか……まぁその方がいいだろうな。準備は出来てるから、こちらに来なさい」
「は、はい!」
オルドさんは説明もそこそこに場所を移動するので、私たちはついていく。
そして辿り着いた先には様々な道具が置かれた作業場で、直ぐに作業に取りかかり始めた。
そして紐を使って簡単に採寸したかと思うと、見事な手捌きで革を切り取り、防具の形に仕上げていく。
「凄いね……でも、なんでここまで準備されてたのかな?」
「それはね、いつかはエリスに防具を持たせないといけないと思ってたんだよ。だからオルドさんには事前にある程度の注文を伝えてあったんだ」
「そうだったんだ……でも、それにしても本当に凄いね」
オルドさんの手によって一枚の革だったものが、あっという間に防具へ様変わりしていく。
「本当は使い込まなきゃならねぇんだが、この革はワシがしっかりと鞣してある。直ぐにでも使用者に馴染むぞ」
オルドさんは最後に縫い合わせた糸を切り取ると、私に防具を手渡してくる。
服の上から身に付けていくと、まるで長年使い込んだかのように体に馴染む。
「凄い、本当にピッタリです。でもこんなに良いものはお高いのではないですか?」
何の革か分からないけど、これだけ軽くて丈夫そうなのだ。きっと物凄い値段になるに違いない。
未だにポーションが利益にならないのに、ここで出費を重ねるのはね……。
「あの……お代の方は……」
「ん? 既にお代は貰っておる、そっちの小僧にな」
オルドさんはラインハルトを顔で示す。
「ポーションの作製で頑張っていたからね。これぐらいは私にプレゼントさせてくれるかな?」
「本当に、いいの?」
「ええ、エリスには感謝していますからね」
「そう……なのね……」
何の打算もない男からのプレゼントを貰うのは始めてで、何だか照れ臭いけど素直に嬉しい。
今度は逆にラインハルトにプレゼントをあげるのも良いかもしれないね。
「ありがとうね、ラインハルト。大事にするね」
「いえ、どういたしまして」
こうして装備を揃えた私は、いよいよ町の外へ薬草の採取に向かうのであった。