19
すみません、失念しておりました!
そう、私はラブコメを書きたかったのです。
逆ハーレム系ラブコメを書きたかったのです。
・・・多分。
なぜこんな事になってしまったのでしょう。
街道の真ん中で四つん這いでゲロを吐いてしまいました。
淑女にあるまじき行為です。
立ち上がり、助けを求めようとあたりを見渡しましたが、誰もいません。
すぐにこの場を離れたら、ゲロの責任を逃れられるかもしれません!
私は走り出しました。
ですが、すぐにまた胃液を吐いて、やはり一番近くにあった家に助けを求めようと、すがるように玄関のドアノッカーを掴もうとしました。
涙で視界が歪んでいたため、そこにドアが無いのに気付かず、家の中へと顔面からダイブしていました。
「ぐふぅ……」
滴り落ちる鼻血。
満身創痍とはまさにこの事でしょう。
あぁ、本当に、なんでこんな事に……。
許さんエイリーク王子め。
鼻を押さえてじっと鼻血が止まるのを待ちます。
その間に胃のムカつきも収まってきたので、もう一度外に出てから、水魔法で手を洗い口を濯ぎ、顔を洗いました。
「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」
声を掛けながらもう一度家の中に踏み込みます。
返事は無く、家の中は荒らされていました。
私の足の下には、蹴破られたと思われるドア。
そしてそのドアにべったりと血の跡が!!
「ひぃぃっ!!」
あ、これは私の鼻血の跡ですね。
深呼吸を繰り返し、落ち着いて各部屋を見て回ります。
床には泥の足跡。 5本指ですが、足の大きさが50cmくらいあります。
ドアは全て破られています。
箪笥も何もかも引き倒され、食糧庫と思われる場所は特に荒らされています。
どの家も同じような状態で、畑も荒らされていました。
遭難した時はその場で動かずに救助を待った方がいい。
ですが、そこが明らかに危険な場所の場合、どうすれば良いのでしょうか?
答えは明白。 逃げるべきです。
でも、村の外の方が危険かもしれません。
どこかに潜む? どこが安全かもわからないのに?
これが武闘派のマリンであれば、恐らくどんな魔物であろうと盗賊であろうと蹴散らして、野生の王国をこの地で築くことでしょう。
これが根っからのアウトドア派なウメちゃんならば、どこか安全な場所を見つけ、なんかこう、ほんわかとしたひとりキャンプを楽しめるのかもしれません。
と思ったところで気が付きます。
ここは、ウメちゃんを軟禁しておくための村だったはずでは?
それが、なぜこんな惨状に?
何があったかはわかりませんが、とりあえず早いとこ逃げ出す準備だけでもしておくべきですね。
各家庭から、暖房やコンロに使われている火の魔石、空調に使われている風の魔石、水道に使われている水の魔石、照明に使われている光の魔石を集めました。
私自身は水の魔法しか使えませんが、魔石さえあれば他の魔法も使うことは可能なのです。
全て魔石頼りで、威力も期待できず、威嚇くらいにしか使えませんが。
それでも、戦闘力皆無の私には必要だと思ったのです。
水の魔石の方が私よりも水を出すことが出来ますし。
そこいらで拾ったバックパックに魔石を詰めていきます。
魔石は前世で言うと電池のような感じで、切れたらすぐ取り換えができるように、各機械の前面に取り出し口がついているので、私でも楽に取り出せます。
ですが、魔石は思った以上に重く、何度も村中を見て歩いた私は、村を出る前に体力の限界を迎えたのでした。
陽が陰ってきた頃に、鳥が一斉に飛び立ち、辺りが静まり返りました。
「あ、これ、なんかヤバいやつ」
本能がそう伝えてきます。
這いずって隠れるところを探していると、見つけました。 おあつらえ向きの、避難場所。
地下下水道の蓋です。
ええ、ぼっとん式便所と同じで、聖の魔石で浄化されています。
だから大丈夫!
蓋を開け、中を確かめ、光の魔石2つを打ち合わせて、発光させてポケットに入れてから、バックパックを茂みに隠し、梯子を下りて蓋を閉める。
これから村に訪れる何かには気付かれないために、下水道入り口からは距離を置きました。
地上からはけたたましい音が聞こえていましたが、それを確かめる勇気も体力もありません。
いえ、勇気があってもここでは息をひそめて、隠れているのが正解でしょう。
あぁ、もしかして、このままここに居たら、エイリーク王子の配下の兵士が、ウメちゃんを迎えに来るのでは?
私がウメ・マツタケ・フォスターと名乗れば、殺される事無く保護してもらえるのでは?
そしたらこんがりと焼いた肉とか、肉とか、肉とか食べ放題ですね。 うふふ。
あぁ、このかぐわしい香り。 肉パラダイス。
無意識のうちに、ふらふらと梯子を上がって下水道の蓋を開けていました。
目の前には焚火、そしてそこで焼かれているマンガ肉。
その横には、つぶらな瞳のオーク。
人生初の金縛り。
筋骨隆々とした豚肉、いえ、オークが、手招きをしています。
私が動けずにいると、オークが立ち上がり、軽々と私を持ち上げて焚火へと運びます。
あぁ、次のメニューはアンジェラちゃんの丸焼きなんですね。
生きながら焼かれるの、イヤだなぁ。 できれば一気に仕留めてから血抜きしないときっと美味しくないですよ。
泣きながらそんな事を考えていると、そのまま地面に降され、焼いた肉を差し出された。
見上げると、オークは白い牙をキランッ☆と輝かせて笑っている。
やだ、イケ豚!
でもどうせ、太らせてから食べるつもりでしょ。 その手には乗らないんだから!
とりあえず肉は食べるけど、明日からマリン式ダイエット、つまり、運動をして太らないようにしなければ!
どぶろくのようなお酒を差し出され、断ったら殺られると思い、一気に飲み干す。
途中から記憶が飛んでいるけれど、その夜はみんなでどんちゃん騒ぎした。
言葉が通じないながらも、マイムマイムをみんなに教えて、焚火を囲って踊ったりもした。
酔いつぶれて寝てしまったようだったが、日が高くなってから気付くと、私の上にはオークが着ていた手織りの上着が掛かっていた。




