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その後私は担架に乗せられ、数名の衛兵によって寮へと帰された。
エイミーにより全身マッサージを施され、今はベッドの中。
ここは剣と魔法の世界なので、当然、治癒術師も存在する。
ヒーラーにかかれば筋肉痛など3秒で治す事ができるけれど、ヒーラーはそう多く無い。
そしてヒーラーの職場は、それぞれの持っている力によって、病院か教会かに振り分けられている。
病気や怪我を治す者と、穢れを浄化する者。
どちらも食いっぱぐれのない職業だ。 羨ましいったらもう。
スペンフォード公爵家の権力を行使すれば、ヒーラーを呼ぶ事など造作も無いけれど、いや、ほら、筋肉痛で医者を呼ぶとか、無いでしょう?
かかりつけのヒーラーも居るけれど、それも普段は普通に病院勤務している。
呼び出しを掛けたら優先的に来てくれる、というくらいだ。
命の危機に瀕している人を差し置いて、筋肉痛を治してくれ、等と頼める訳も無く。
そして今、私は、クッションを重ねまくり上半身を起こし、膝の上に小さなテーブルを置いて、ある物を作っています。
そう、今朝、命の危機に瀕した時に誓ったのです。
やりたい事は迷わずやる! と。
今、私が作っているのは、エイリーク王子のフィギュアです。
エイリーク王子は以前から、手作りのお菓子などの受け取りを断る時に言っていた。
「気持ちはすごく嬉しいけれど、立場上、食べ物を受け取る訳にはいかないんだ。 ごめんね。 でも、私のために手作りで、お菓子を作ってくれた、その気持ちはとても嬉しいよ」
食べ物では無い贈り物は受け取っていた。
使っている所は見た事は無いけれど、受け取っては貰えるのだ。
手作りは、その気持ちが嬉しいとも言っていた。
私は、エイリーク王子への謝罪の気持ちを込めて、彼のフィギュアを作っている。
材料はエミリーに買って来て貰った。
初めて作ったので、あまり上手とは言えないかもしれない。
でも、この作業は私に向いていると思う。
この世界の紙粘土のようなものに、絵の具で色を付けて、自らの魔法で水を適量に加えながら、粘土を捏ねて一つ一つ、部位を作っていく。
彼のちょっと意地悪そうな顔の表情も、うまくできたと思う。
パーツを組み合わせ、後は乾燥させるだけ。
水分を操る魔法は、この作業にはとても便利だ。
乾燥させて、ピキッと不穏な音を聞けばまた水分を与え、それから乾燥させる。
やっと完成した時に、授業が終わった梅ちゃんが帰って来た。
「アンジーさん、ただいま! お客様連れてきたよ! ジークフリート殿下とエイリーク殿下! お見舞いだって! あ、でもごめんね。 私、今からまた師匠に稽古つけてもらうの。 次からは暴漢なんて私が撃退しちゃうからね! アンジーさんは私が守ってあげるからね!」
それだけ言って、梅ちゃんはとっとと出て行ってしまった。
入り口で戸惑っている二人に、ソファーに掛けるように促し、エイミーに紅茶を出してもらう。
「お二人ともごめんなさい、ご心配をお掛けしてしまって。 こんな格好で失礼致しますわね」
頭を下げようとすると、背筋が悲鳴を上げて、思わず「ふぐっ!」と声が漏れてしまう。
「そのままでいい、無理をするな。 見舞いに花を持って来たんだが、部屋に飾ってもいいか?」
ジークフリート王子の言葉にお礼を言って笑顔を向けて微笑むと、ドアから次々に薔薇の花束を抱えた従者が入って来て、部屋中薔薇だらけになった。
正直、臭い。
てか、それ、昨日の薔薇だろっ!!
エイリーク王子はなぜかびくびくしながらこちらを伺うように見ている。
「エイリーク殿下、先程ちゃんと謝罪できませんでしたが、私、この様な状態ですので、申し訳ございませんが、こちらにいらしてくださいますか?」
エイリーク王子が青ざめた顔でベッドの横まで移動して来た。
私と目を合わせようともしない。
無理も無い。 スパイ容疑を掛けられて、かなり怒っているのだろう。
と言うよりも、自分がこれから行おうとしていた犯罪を、事前に騒ぎ立てられて怒っているのかもしれない。
でも、実際には、彼はそのような事はしていなかったのだ。
それなのに私が、彼を疑い、騒ぎ立ててしまった。
この国は貴方を信用していません。 そう言っているようなものだ。
「エイリーク殿下、この度は申し訳ございませんでした。 私、混乱してしまって、大変失礼なことを口走ってしまいました。 こちら、私の心を込めて作った品です、受け取って貰えますでしょうか」
エイリークフィギュアをそっと差し出す。
エイリーク王子はそれを見て「ひっ!」と声を上げた後、震える手で受け取ってくれた。
「あああああああああありがとう、いや、き、き、き、気にしにゃいで! しょれよりも、こここここれ、私、なんだよね? ううううう嬉しいよ、あでぃがとう」
想像以上に喜んでくれて、感動に打ち震えて呂律も回らなくなっているようだ。
初めての作品にそれだけの評価をしてくれて、本当にありがたい。
何しろ今回は謝罪の意味も込めて、見えないところもかなり精巧に作り込んだのだ。
ペキ、と音がして、エイリークフィギュアの首が落ちた。
ああ、やはり首が弱かった。 乾燥させすぎは良くないらしい。
「ぎゃぁぁぁぁ!」と叫び、エイリーク王子が残った胴体を床に叩き付け、更に悲鳴を上げて逃げ帰ってしまった。
一生懸命作ったのに、少し、傷つくわ。
エイミーが、飛び散ったエイリークフィギュアを拾い集めて持ってきてくれた。
「アンジェラ様、内部と外部の水分量の違いが問題なのではないかと。 というか、なぜ内部までこんなに精巧に?」
そう言って渡されたエイリークフィギュアの残骸は、頭は割れてピンクがかった脳が露出しており、胴体も、上半身と下半身が大腸で繋がっている状態だった。
確かに、内臓まで作る必要は無かったかもしれない。
前世でもフィギュアを作ったことが無いので、イマイチ作り方がわかってない。
骨や筋肉の上に薄い皮膚を貼ったほうが、鎖骨やあばら、筋肉の窪みなどが美しく出ると思うのだけれど。
完璧なフィギュア作りには、まだまだ修行が必要だ。
ちょっとした水の魔法しか使えない私が、なぜか隣国で呪術師として有名になったのは、多分この時からだった。
ごめんなさい、ちょいと仕事が立て込んでまいりました。
いつも以上に遅い更新になりそうです。




