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第47話 ヨシトの大切な人達


ウッドヤット家の3階の居間に、新たな午後の来客を告げるベルが鳴る。

ケン=マッケンジー、ヨシト=ウッドヤット、ルシア=アドバンス、その場にいた3人の動きが一瞬止まる。

最も早く反応したのは、居間の入り口近くに立っていたケンだった。


「僕が出ます」

ケンは、ソファーに向かい合わせに座る2人にそう言ってから、玄関に向かう。

内弟子だし、立っていたし、玄関から一番近いのだからこれは自然な流れである。


玄関まで行く少しの間に、ケンは力無く息を吐く。

たった今、姉のマリとヨシトが結婚まで考える仲だと知ったばかりだ。

少し頭を冷やしたかったから、突然の来客はありがたかった。


ケンの気持ちは複雑だったが、結局は基本は何も変わらない事も分かっていた。

2人の愛し合う力が強かった分だけ、自分の責任の取り方が重くなるだけなのだから。


ケンは無言で玄関のドアを開ける。

とりあえず、訪問者には早く帰ってもらおうと考えながら。

だが次の瞬間、ケンの思考は停止する。

目の前に、信じられないくらいの美人が立っていたからだ。


「こんにちは、ルシアを連れて帰るわ」

輝くような銀髪で、薄いエメラルドの瞳の絶世の美女はいきなりそう言うと、靴をスリッパに履き替えてから、スタスタと居間に向かって歩いて行く。

確認するまでも無く、タラチナ=イシュタリアである。


『銀髪の美人が訪ねてきたら、タラチナさんだから。

…えっ? それじゃ分からないって?

大丈夫、一目見たら分かる。

美術館に飾りたいくらいの美人だから』


ヨシトに言われて、『そんな馬鹿な』と言ったケンだったが、一目見て分かった。

ケンの家族は美系が多いし、彼は面食いでは無いのだが、タラチナはレベルが違った。

一目ぼれをした訳ではないが、今までの重い気持ちが吹き飛ぶほどのショックを受けたし、目の保養にもなった。


しばらく呆気に取られていたが、我に帰って急いで居間に戻る。

すると、居間に入る前から2人の女性の高い声が聞こえる。

どうやら、タラチナとルシアがソファーのそばで、立ったまま言い合いをしているようだ。


「ちょっと、タラチナ。今いい所だったのよ。

私は事情を知らないの。あなたは知ってるから平気でしょうけど!」


「ここにいなかったルシアが悪い。さっさと帰る」


「おつとめだったんだから、仕方無いでしょ。

…ちょっと、服を引っ張らないでよ。伸びるでしょ!」


「ノリア司祭が報告を待ってる。教会に帰って来て直ぐに飛び出すルシアは鉄砲玉」


「…ちょっとくらいは平気よ。事情を聴くまでは帰りませんから!」


とにかく、やかましくて収拾がつかない。

ケンもどうしていいか分からず、居間の入口で立ちつくす。


「お2人とも、お静かに。子供が見ていますよ」

ヨシトがそう言うと、2人ともバツが悪そうに黙る。

こんな事に自分を利用して欲しくは無かったケンだが、とりあえず落ち着いたみたいなので我慢する。


ヨシトは『やれやれだぜ』という感じで2人を見上げ、ソファーから立ち上がる。

「いい機会ですから話しておきます。ルシアさんもタラチナさんも座ってください」

優雅に手ぶりを交えて、座るように美人2人を誘導する。

ルシアは望むところなので、黙って座る。

タラチナは、それを見ると不機嫌そうに小声で話す。


「ヨシト、無理に話すのは駄目」

何だかすっかり毒気の抜かれた様子でヨシトは話す。


「大丈夫ですよ、タラチナさん。それに、聞いてほしい話もありますし」

タラチナも渋々ながら、ソファーに腰を下ろす。


少し場が落ち着くと、ヨシトはケンに指示を出す。

「ケン、タラチナさんにお茶を入れなさい。もちろん俺にもな」

「はい」

ちょうど手持無沙汰だったケンは、喜んでキッチンに移動する。


ケンが紅茶を用意している間に、ヨシトは今回の経緯について、かいつまんで話し出す。

2人ともおおよその事情を知っているし、タラチナは恋愛関係の話が苦手なので丁度いいだろう。

まずは、誤解のないように事実関係を報告する。


ケンとマリが兄弟である事、

4か月前にケンを預かってからマリとは別れた事、

お互い合意の上だった事、

お互いまだ好きだった事、

今でも師匠と弟子の関係は続けている事、

2人とも新たなパートナーがいる事、

出来れば新たな恋人を希望している事を2人に話す。

彼の話をルシアとタラチナは口をはさまずに聞いている。


ちょうどケンが紅茶を入れて来たので、ケンを預かった事情についての話になる。

「ケンを預かったのは、冷却期間を置く為でした。俺から言いだした事です。

初めは彼が高校に入るまでの半年間の予定でしたが、今は彼が成人するまでの5年間、預かるつもりです」


「何それ! どうしてそうなるの?

それに、別に内弟子にしなくていいじゃない。

どうしても弟子にしたかったら5年間待てばいいだけじゃないの?」

今まで我慢してきたルシアは、ついに口をはさむ。


ルシアの言う事も分かる。

半年間預かった後、ケンを学生寮に入れてしまえば何の問題も無く恋人に戻れるはずだ。

ケンをどうしても弟子にしたかったら、成人後にアパートでも世話してあげたらいいだけである。

未成年の内に、5年間も内弟子にする意味が解らない。

そんな事をすれば、『別れて下さい』と言っているのと同じだ。


「それは、ケンと契約したからです。

成人までに一人で身を守れるくらいまで鍛えるのが、こちら側の最低条件です」

ルシアは、何でそんな事をしたかが理解出来ないようだ。


「意味が解らないわ。未成年との契約は親の同意が必要なはずよ」

それを聞いたタラチナが突っ込みを入れる。


「ケン君は10歳だから、契約は成立する。

お金を払えば、契約が解除できるおまけ付き。

ルシアは不勉強、法律知らず」


「法律知らずとは何よ。契約については知ってるわよ。

10万ギルを払ったら、子供側からなら契約を解除できる。

だから親や保護者の同意を取って、その条件を無くすんでしょ。

どう、間違ってる?」


「それは常識。今更説明されても、…フフフッ、ルシアはバカだわ」


「今、鼻で笑ったわね! バカって言う方がバカなのよ」


ヨシトは、ルシアとタラチナの間を手でさえぎる。


「ルシアさん、これ以上もめるなら、もう話しませんよ。

それと、タラチナさんは事情を知っているからといって、ルシアさんをからかわないように」


「私はそれでもかまわない。ルシアには、後から私が話せば済む事」


「もう話すって決めたからいいんですよ。それに、出来れば俺から伝えたいんです」


「(チッ!)」


ケンは、部屋の隅っこで唖然あぜんとする。

(…うわぁ、今タラチナさん、舌打ちしたよ。容姿とのギャップがあり過ぎる。それに、ルシアさんって、さっきと全然印象が違う。何だか子供っぽい)

何というか、お互い遠慮が無い上に、明け透けなのだ。

家族同然の関係と言えば聞こえはいいが、張り合ってるといってもいい。


(2人とも、絶対ヨシト先生に気があるよな。…お姉ちゃん、苦労しただろうな)

マリが、『100年後の事を考えている』と言った意味がようやく解った。

マリのライバルは多そうだし、何より強敵だ。

それに気付かないヨシトは咳払いすると、改めて話し始める。


「俺がケンを内弟子にしたのは、ケンが俺と同じような前世の記憶を持っているからです」

ルシアは、一瞬息をのむ。

彼女は彼の持つ前世の記憶の事を知っているが、ここでその話が出るとは思わなかったのだ。

ルシアはタラチナの顔を思わず見る。

タラチナはニヤリと笑って頷く。

少し腹が立った彼女は、ヨシトに矛先を向ける。


「もっと分かりやすく説明して。前世の記憶とケン君を鍛えるのとどう繋がるの?」


「ケンの希望が、世界を見て回る事だからです。しかも、なるべく早くに」


それからヨシトは、ケンの夢と2人が交わした契約の詳しい話をする。

ルシアはそれを聞いて驚いたが、納得してしまった。

ヨシトにとって前世の記憶は、生い立ちの秘密を探る手がかりになるかもしれない。

解るかどうかは想像も出来ないが、彼がそれを知りたいと思っているのを彼女は知っているのだから。

ルシアの揺れる瞳を見て、彼は優しく語りかける。


「結局俺は、マリとの仲より自分の都合を選んだだけなんです。

でも、後悔はしていません。俺はケンからその話を聞いた時、救われた気になりました。

マリと付き合う前までは、俺のわがままで恋人に振られてばかりいましたから。

その原因が、ありもしない俺の妄想の産物なら、いくらなんでも辛すぎますから」


ルシアは、ヨシトの恋愛相談にのっていたから、その言葉の意味が良く解る。

本人は気付いていなかったみたいだが、そもそも彼はモテるのだ。

彼がことごとく振られるのは、前世の記憶のせいである。

人間族の恋愛が出来ない彼の周りによってくるのは、若くて優秀な人間族の女性ばかりだ。

そして、仲良くなればなるほどに、悲しい別れが待っている。


だから、その記憶が彼の妄想でないと分かるケンの存在は大きい。

ケンは、ヨシトの心を救った恩人ともいえるのだ。

更にヨシトは告白する。


「でも、だからこそ気が付いたんです。確かに俺のわがままかもしれないけど、マリに会う前の自分なら、果たして同じようにしたかな?ってね。

…多分、全部手に入れようとしたでしょうね。

例え、この街を捨てる結果になったとしても、突っ走っていたかもしれません。

実際、マリが決断しなければ、ズルズルと関係を続けていた可能性もありました」


「つまり、マリちゃんはヨシトの恩人。その弟をお世話するのは当たり前」


「タラチナさんの言う通りです。

マリに関しては、タラチナさんのギフトの件もありますから、完全に俺の恩人ですね。

その彼女が望んだ事は、お互いの更なる成長でした」


「…そう、だから私達は何も言えない。ルシア、わかった?」


それならば、ルシアにも文句は無い。

発展的な恋愛関係の解消なら、ヨシトは更にいい男になるはずである。

マリには悪いが、ルシアにとってはヨシトの方が大切なのだから。


「…そうだったんだ、それなら仕方ないわ。マリちゃんについては解りました。

でも、本当に異世界が在ったとして、それがあなたの出生の秘密を知る手掛かりになるのかしら?」

ルシアのストレートな質問に、ヨシトは苦笑する。


「それはないでしょう。異世界の記憶なんて、論理的に説明出来ません。

唯一可能性が在るのは、女神様関係だけでしょうね。

だから、出生と前世の記憶は関係ないと考える方がまだ論理的です。

まあ、女神様関係なら何でもありになっちゃいますからね。

例えば、死ぬ直前の俺を女神様が憐れんで、体を治して教会の前においてくれたとかね。

それならば俺の力は神の奇跡だし、幼い頃の不完全な記憶も死にかけなら仕方無いです。

前世の記憶も、神の力と関係するのかもしれません。

…ね? すべて解決でしょ」


愉快そうに話すヨシトに、ルシアの顔もほころぶ。

するとタラチナが、部屋の隅にいるケンを手招きして呼び寄せる。

彼女はケンをすぐ隣りのソファーに座らせると、優しく語りかける。


「ケン君、私のギフトの事を知ってる?」

「はい、先生から聞いています」

「調べさせてもらっていい?」

「もちろんです」

ケンは即答する。


すると、ケンの周りの天然魔素が揺れる感じがする。

タラチナのギフトが発動したのだろう。

『魔力視』の派生能力、相手の嘘を見抜く力だ。


「あなたは、前世の記憶を持ってるの?」

「はい」

「本当に、世界を見て回って、前世の記憶を持つ人を見つけたいの?」

「それだけじゃなくて、いろんな不思議を調べたいです」


ギフトの気配が消えた。

彼女はもう、自分の持つギフトを完全に制御出来ているようだ。

嘘を調べたい時だけ、見抜けるようになったのである。


「ケン君、あなたバカ?」

「よく言われます」

「でも、バカは嫌いじゃない。…頑張りなさい」

「はい!」

タラチナは美しい笑顔で、ケンを優しく見つめた。



それからは、4人全員での雑談タイムになる。

何故だか知らないが、ケンまでソファーに座らせられていて、居心地が悪そうにしている。

話題の中心は、ルシアがここ半年に経験した出来事に付いてである。

彼女は、ガレア地方の地方都市の教会を数多く訪れた巡礼の旅の話をしている時に、急に思い出したようにヨシトに報告する。


「巡礼業務の途中で、総本山に寄って来たの。

一応調べてみたけど、タリアっていう名前の人間族の女性はいなかったわ。

もっと調べましょうか?」


それを聞いたヨシトは、表向きは何でも無いような表情で首を横に振った。

きっと、ある程度は予想していたし、期待もしていなかったのだろう。


「いいえ、どうしてるか知りたかった程度ですから必要ありませんよ。

それに、ずいぶん前の事だから移動したかもしれませんし」


「…そうよね。ガレア地方以外から来ていたならお手上げだもの。

…そうだわ、ケン君に調べてもらったら?

世界を回るんだったら、見つけられるかもしれないでしょ?」


自分に話題を振られたケンは困惑する。

タリアという人の事は、ヨシトから聞いた事は一度も無かったから事情が解らない。


「僕ですか? それは構いませんけど、タリアさんって誰です?」


「ケンは気にしなくていいんだ。俺が十代の時に一度だけ会った事がある程度の人だから、本当に会えなくてもいいんだ。

そもそも俺がこの街を動いてないんだから、会いたかったら彼女から来るはずだ」


タラチナは、2、3回頷く。


「ヨシトの言ってる事に嘘は無い」

「タラチナさん、こんな事にギフトを使わないでください」

「私の制御は完璧」

「そんなこと聞いてませんから。とりあえず、俺で遊ばない様に!」


2人のやり取りを見ながら、ルシアは笑う。

「フフフッ、相変わらずねぇ。

…そうそう、総本山というか、プレトリア本部の寄宿舎での噂なんだけど、最近、変な『託宣』が降りてるんだって。

『優れた能力を持つ者は、積極的に子供を作りなさい』って内容なの」

意味が解らずヨシトは聞き返す。


「それって別に、変じゃありませんよね?

ミリア教の教義でも、子供を作る事は義務のはずです」

ルシアは愉快そうに首を横に振る。


「違うのよヨシト。どうやら重婚も認めるような内容なの。

しかも、教皇様にも直接『託宣』が降りて『さっさと結婚するように』なんて物だったから、上ではかなり大変だったみたいなの」


これにはさすがにヨシトもびっくりだ。

かなり昔に、その様な事が度々あったとは古文書に書いてはあるそうだが、少なくても種族間戦争が始まってからは無かったはずである。

どう言った理由かは推測しか出来ないが、もしかしたら女神様は人の質を上げたいのだろうか?

だが、聖職者でなく女神様の信奉者でも無いヨシトにとっては、余計な御世話である。


「そりゃ何とも極端な…。

確かに法律的には問題無いですけど、社会的にはまずいですよね。

こんな平和な時代に重婚なんて認めたら、絶対あぶれる人が出て来ますよ。社会が混乱しかねません」(文末参照1)


ルシアは少し苦笑して、「そういう事なのよ。だから司祭長様達が、公表しない様にしているんだそうよ。女神様の神託を無視するなんて、ふざけているわね」


「えっと、いいんですか? そんな話を部外者にしてしまって」

さすがにケンは、口をはさむ。

さっきと同じように、自分がこの場所にいるのをルシアが忘れているかもしれないと思ったからだ。

だがルシアは、平気な様だ。


「いいのよ、ケン君。だいたい、ミリア教の教徒である司祭長様達が、『託宣』の内容を隠す方が間違ってるのよ。

そもそも女神様のお考えに、聖職者が口を挟むなんて恐れ多い事よ。

確かに重婚は獣人族にとっては一大事でしょうけど、人間族なら割り切れるし、子供の事を考えるなら悪い話ではないはずよ」


ケンはある意味納得した。

ルシアは女神様の信奉者なのだろう。

自分もゾンメル教徒だから、神の言葉を隠ぺいするなんて考えられない。

そもそも重婚が気に入らなければ、しなければいいだけである。

いくら女神様の考えでも、世界の理に触れる事以外は、従わなくても別に構わないのだ。


ケンが頷いているのに対して、ヨシトは渋い表情をしている。

それを見たタラチナは、ニヤリと笑って自分の意見を言う。


「ルシアに賛成。私はシングルマザーだって問題無い」

意外に大胆な事を言うタラチナにケンが驚いていると、ルシアが冷静に突っ込みを入れる。


「タラチナは、その前に恋人を作りましょうね。もうギフトの制御が出来るんだから、問題無いでしょ?」

「…男なんて、みんな馬鹿。穴掘って一生埋まってればいい」

「その毒舌を直さないと、一生恋人は無理そうね」

「ルシアに言われたくない。恋人がいないのは2人とも同じ」


怒るかと思ったルシアは、逆に得意げな表情で胸を張って言い放つ。


「私は聖職者だからいいのよ。

それに、司祭になったら、絶対に恋人を作って結婚するって決めてるもの。

その時に好きな相手が結婚してても、重婚が出来るならそっちの方がいいわ。

女神様が認めて下さるのならすごく心強いわ」


実に、人間族らしい意見だ。

人によっては完全に割り切って、子供の事だけを考えて結婚する者も多いから、この考え方はおかしくない。

だだ、聖職者は性や愛に対する考えが一般人よりかた苦しいので、ルシアは好きな人と結婚するべきだという意見を持っているらしい。


ちなみに、過去の事例を見ても、重婚した場合でも子供に悪影響は無い。

これは人間族の性質と、出来ちゃった婚が無い為である。

それに、重婚出来る人は、能力も資産も社会的地位も高い人だからだ。

その条件に当てはまりそうな男が意見を言う。


「俺はそこまで割り切れませんね。

でも、過去には100人と結婚して同じ数の子供を作った人間族がいたそうです。

戦争時代だから、生き残った子供は20人もいなかったそうですけど。

…なあケン、俺は初めてそれを知った時、『どこのセイント○矢だ』って思わず突っ込んだぞ」


「前世で読んだ事の無い漫画の事を言われても困ります。

いらない情報まで覚えさせないでください」


ケンは呆れかえる。

別に、オタク知識を詰め込まれたからでは無い。

それは、今更言っても仕方が無いと思っている。


問題は、ヨシトの鈍さである。

どう考えても、ルシアはサインを送っている。

『私が司祭になったら、恋人になって結婚しましょう』

そう言っているようにしか、ケンには聞こえない。


タラチナにしても、ヨシトを悪いようには思っていないはずだ。

ルシアと張り合っているのは、彼女を牽制しているとしか思えない。

ヨシトと結婚したいと思っているかどうかまでは解らないが、パートナーの申し込みなら断らないと思う。


ケンがそんな事を考えていると、「そろそろ教会に帰るわ。ノリア司祭をこれ以上待たせるのは悪いから」、今更のようにルシアが言う。

「私も帰る。ノリア司祭の前に連れて行くって約束したから」とタラチナも席を立つ。

「お2人とも、マリアネア教会まで送りましょうか?」

ヨシトの申し出を断り、ルシアとタラチナは帰って行った。



2人が立ち去った後、居間のテーブルの上に残されたティーカップをケンが魔術で片付けていると、ヨシトが話しかけてくる。

「そういえば、ルシアさんとタラチナさんに会うのは初めてだったよな。

どうだ? 俺の言った通りの人達だったろ」


「ええ、面白くて素敵な人達でした」

「ああ、俺の自慢の家族なんだ」

ヨシトの自慢げな様子を見たケンは、疑問に思っていた事を口に出す。


「家族というならその通りですけど、本当に家族になる気は無いんですか?

結婚を前提に恋人として付き合うとか?」


「まさか! ルシアさんは司祭になるために頑張ってるし、タラチナさんは、ようやく恋が出来るようになったばかりだ。

彼女はすごくモテるから、俺なんか眼中にないさ。

第一、俺と結婚なんて彼女達に失礼だよ」


(『だめだこりゃ』)

ケンの心の中での日本語での突っ込みは、ヨシトには当然届かない。

例え言葉で言っても同じだろう。


ケンは一つ勉強になった。

人というのは、優れている分だけどこかが劣っているのだろう。

そして、恋愛の相談だけは、ヨシト先生にはしないでおこうと決心した。


設定および解説

(1)重婚が法的に認められている事について

人間族の国では、重婚をしようとすれば出来ます。

これは戦争時代の法律がそのまま残っている為です。

戦争時代は、実質的に結婚を政府から管理されていました。

産めよ増やせよの時代だったし、そうしなければ人間族は絶滅していたでしょう。

今も法律が残っているのは、重婚可能という部分だけですが、戦争を想定して残しているといっても間違いありません。

だから法的には問題無いですが、今の平和な時代では社会的には認められていません。

夫婦以外で子供が作りたい場合は、夫婦間に未成年の子供がいなければ、さっさと別れて次の結婚をするのが普通です。

人間族の国では未成年の子供がいなければ、婚姻の解消は一方的に出来ますし、財産分与さえきちんとすれば非難されません。

逆にいえば、子供が未成年の内に離婚すれば、社会的な信用を失います。


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